台湾において、ラーメンは最も代表的な日本食の一つであり、近年、台湾の街ではラーメン店がますます増えてきている。そして、今年(2024年)、台湾の知的財産及び商事裁判所は、ラーメンの外観が商品の表徴(トレードドレス)として法的保護を受けることができるかに関する民事判決(111年度民公訴字第7号)を下した。この判決の内容から、「商品の外観が商品の表徴として保護を受けられるか」を台湾の裁判所が判断する際に考慮する要素が伺える。
本件の原告である某台湾企業は、某日本企業から許諾を受けた上で台湾で「辣麻味噌拉麺鬼金棒」というラーメン店を開き、「辣麻味噌拉麺」というラーメンを販売していた(「拉麺」は「ラーメン」の中国語表記である)。原告が主張した事実によると、そのラーメンの味はインターネットやテレビのニュースで広く宣伝されるほど独特であり、2022年7月にその値段が260台湾元に値上げされたことすらニュース報道の対象となった。これらの事実から、そのラーメンの外観が著名な商品の表徴であることを認めるべきであると原告は主張した。
一方、本件の被告はラーメン店を経営する台湾企業であった。原告の主張によると、被告は2022年9月にそのファンページに、「誰が格安ならいいラーメンがないって言ったの?○○(被告の店名)は名店に敬意を表す!!」というキャンペーンを実施することを発表し、食べたい名店があるかとネットユーザーに意見を募集した。そして、あるネットユーザーが「鬼金棒を食べたい」というコメントを残すと、被告は即座にそのファンページに「鬼金棒の『麻辣味噌拉麺』を食べたいか?」と返事をした。さらに、被告は引き続き、そのファンページに、「名店復刻第一弾 麻辣味噌拉麺 鬼アニキすまん!!ラーメンが美味しくてもそんなに高額にする必要はない 半額130元にしてやる」という広告文を投稿し、「名店復刻第一弾」の「麻辣味噌拉麺」を販売し始めた。
(筆者註:原告の「辣麻味噌拉麺」は、「カラシビ味噌ラーメン」に対応する中国語訳であると思われる。一方、被告の「麻辣味噌拉麺」の「麻辣」は、台湾の激辛料理によく使われている形容詞である。被告が「辣麻」の代わりに「麻辣」という言葉を使ったことが、意識的な行為か、それともただ単に「辣麻」を「麻辣」に間違えたのかは不明である。)
そして、原告は民事訴訟を起こし、主に以下の理由に基づいて上記の被告の行為を公平交易法(公正取引法)違反として被告に侵害差止や損害賠償を請求した。
- 公平交易法第22条第1項第1号によると、著名な他人の商品の外観、又は商品を表す表徴を以て、同一又は類似の商品に同一又は類似の利用を行い、他人の商品と混同させてはならない。原告の「辣麻味噌拉麺」の外観が著名になったため、被告が原告の「辣麻味噌拉麺」の外観に類似するラーメンを販売したことは、公平交易法第22条第1項第1号の違反となる。
- 公平交易法第25条は、「この法律において別途規定がある場合を除き、事業者はまた他の取引秩序に影響を及ぼすに足りる欺罔又は著しく公正を欠く行為をしてはならない」と規定している。被告が投稿した「名店復刻第一弾…(以下略)」という広告文は、原告の努力の成果を搾取し、その商業的名誉に便乗したものであったため、公平交易法第25条違反となる。
上記の1.につき、裁判所(一審)の見解は、次の通りである。
「公平交易法第22条第1項第1号における「表徴」とは、識別力又は二次的意味(secondary meaning)を持ち、関連事業者や消費者が異なる商品を識別させるほど商品の出所を表わせる特徴を指す。表徴が著名であるか否かを判断する基準は、商品の商標や他の特徴を除去した場合、関連事業者や消費者がその表徴のみで商品の出所を識別して購入するかどうか考慮する際の拠り所にできるかということにある。」
また、表徴の著名性の存否について判断する場合、裁判所は、市場におけるマーケティングの期間の長さ、広告の量、販売量、占有率、マスコミ露出度、市場調査データ等の関連事項を斟酌して総合的に判断することができる。
これに関し、裁判所は、原告が証拠として提出した写真からすると、原告の「辣麻味噌拉麺」の外観は、大きな角煮、ヤングコーン、もやし、赤くて激辛なスープ、太麺を組み合わせたものであるが、被告が提出した証拠によると、日本や台湾において、前記のトッピング、麺やスープを組み合わせるラーメンは滅多に見られないものではないため、原告のラーメンの外観に類似するものは稀ではないとした。そこで、原告のラーメンの外観に相当の識別力がなく、公平交易法第22条第1項第1号における著名な商品の表徴という要件に合致しないと判断した。
上記の2.につき、裁判所は、関連事業者又は消費者が被告の「名店復刻第一弾…(以下略)」という広告文を見た場合、原告と被告の商品の出所を識別できるはずであり、混同誤認させられることはないと判断した。且つ、その広告文の意味からすると、その広告文は被告の商品を販促するためのものであり、原告に損害を及ぼすことを目的とするものではないため、裁判所は、被告に原告の努力の成果を搾取して公平交易法第25条違反となる事情がないと判断した。つまるところ、原告のラーメンの外観はもとより著名でなく、消費者が被告の広告文を見て原告と被告の商品の出所を混同させられることもなく、たとえ被告がその広告文で間接的な方法で原告を言及したとしても、その目的は低価格で価格競争を行うことにあり、原告の努力の成果を搾取しその商業上の名誉に便乗することはないため、公平交易法第25条に違反しないということである。
そして、具体的な論拠が判決に記載されていないが、原告は被告が「事業者は、商品又は広告において、又はその他の公衆に知らせる方法を以て、商品と関連し取引を決定することに影響を及ぼすに足りる事項につき、虚偽、不実であり又は錯誤を招く表示又は表徴をなしてはならない」という公平交易法第21条第1項の規定にも違反すると主張した。しかし、裁判所は、その広告文に原告のラーメン店又はラーメンの名称が記載されておらず、被告も自らの商品が原告のラーメン店からのものであると宣伝していない上に、被告の店名がはっきりと表示されているため、不実であり又は錯誤を招く表示又は表徴はなされていないとして、公平交易法第21条第1項に違反しないと判断した。
上記を受けて、一審裁判所は原告の主張を認めず、その請求を棄却した。
前記の説明からわかるように、本件の裁判所は原告と被告が提出した証拠を検証した上で、原告のラーメンの外観に特殊性がなく著名な商品の表徴とすることができないと認定した。裁判所の判断のプロセスに鑑みると、裁判所がラーメンの外観が公平交易法第22条第1項第1号における著名性のある商品の表徴になる可能性を全面的に否定するわけではないと思われる。一方、筆者個人の感想としては、肉、卵、スープの質や味などはともかく、台湾の市場に販売されるラーメンのほとんどは、類似する食材(麺、チャーシュー、コーン、もやし、のりなど)を組み合わせるものである。したがって、理論的には、ラーメンの外観が著名性のある商品の表徴として公平交易法の保護を受ける可能性があるとしても、保護を受けられるほどの識別力を持たせることは容易でないのではないかと思われる。ちなみに、マスコミ報道によると、台湾のある店は、普段食材とされない大型の甲殻類動物をトッピングとした、外観がかなり独特なラーメンを出品したというような話がある。しかし、外観に特殊性があるとしても、このようなラーメンが一過性の宣伝手法であって販売が安定した商品でない場合、関連業者や消費者に商品の出所を識別させる機能があるかどうかも甚だ疑問である。
最後に、料理の外観が公平交易法の保護対象になれるかについて、台湾の裁判所が他の判決で更なる見解を示すかどうか、今後の注目を要する。