弊所の以前の記事のとおり、先般の東京オリンピックの期間中、台湾の知的財産局は、違法なセットトップボックスを販売すれば民事上、刑事上の責任が生じる可能性があると呼びかけたと同時に、ただ単に違法なセットトップボックスを購入してコンテンツを楽しむ消費者のほうは、著作権侵害が成立せず法的責任がないと説明した。
最近、台湾では、この類のセットトップボックスの販売に関わる刑事判決(新北地方裁判所112年度智訴字第3号)がある。本件の被告はある会社の経営者であり、正体・氏名が不明な中国籍のAに協力して、Aが中国の詳細不明な場所で製造したセットトップボックスを販売するために、当時の台湾の通信機器に関わる法令によりセットトップボックスの販売に必要な免許や証書を取得した。さらに、被告が実情を知らない友人が所有する(多数の大手メディアを含む)動画配信プラットフォームのアカウントとパスワードをAに提供したため、Aはその動画配信プラットフォームから番組の信号をキャッチして番組を複製することができるようになった。台湾でそのセットトップボックスを購入した消費者は特定の違法アプリをインストールしたあと、無断複製された番組を視聴することができる。
被告の行為が取り締まられ、地方検察署に刑事訴訟を提起された。裁判所が審理後、被告がAの犯罪グループと協力し、共同で動画配信プラットフォームの著作物の複製権と公開送信権を侵害し、台湾著作権法第91条、第92条の刑事責任が成立したとした。
被告の訴訟における答弁から見ると、どうやら被告ははじめからどのように著作権侵害の法的責任を免れられる取引モードを構築できるかを考えていたようである。例えば、被告の会社は直接そのセットトップボックスの輸入・販売を行っておらず、その輸入・販売は他の会社が行っていた。被告の会社が表で行っていたのは、取得した免許や証書の使用を輸入業者に許諾したのみである。したがって、被告は訴訟手続きにおいて、そのセットトップボックスの製造、輸入や販売に被告は一切関与しておらず、被告が関与していたのは、セットトップボックスの輸入・販売に必要な免許や証書の取得に協力したこと、及び免許や証書の使用をセットトップボックスの輸入業者に許諾したことのみであり、著作権侵害の情状を知らなかったと弁解した。しかし、裁判所は被告の弁解を受け入れず、セットトップボックスの規格、パーツ等に関する情報はAの営業秘密のはずであるので、被告とAの間に強固な信頼関係がなければ、Aが何度となくセットトップボックスのサンプルを被告に渡して台湾における免許や証書の取得を被告に依頼したわけがなかったと判断した。且つ、輸入業者がそのセットトップボックスを台湾に輸入した際、被告が提供する書類も必要であったため、「自分はただ単に免許や証書の取得に協力しただけ」というような弁解は、やはり裁判所に信用されなかった。
また、セットトップボックスの包装箱に「このセットトップボックスには事前にインストールされたアプリがなく、著作権を侵害するアプリをインストールしないでください」との記載があるので、被告は、消費者がセットトップボックスを購入してからYouTubeなどの合法的なアプリをインストールすることができ、もし消費者が購入後違法アプリをインストールして著作権を侵害する動画を見れば、それは個々の消費者が決めたことであり、被告が関与できることではないと主張した。しかし、告訴人の弁護士が自らセットトップボックスを購入後、その包装箱に印刷されたQRコードで被告の会社の顧客サービススタッフに連絡することに成功したところ、顧客サービススタッフがどのようにグーグルで違法アプリを見付けてダウンロードすることができるかを指南したという事実が裁判で明らかになったので、「消費者が違法アプリをインストールしたことは自分と関係ない」との弁解も裁判所に受け入れられなかった。
被告は、一審で4年の有期懲役という重くないと言えない刑罰に処されたので、この判決は今後、この類のセットトップボックスを利用しての著作権侵害に対して一定の抑止力があると思われる。