インターネットの発展に伴い、人々はGoogleマップ等のネットサービスを利用して、お店やレストランの品質・サービスに対し、クチコミの投稿や星付けをすることができるようになっている。これらのクチコミによって、お店やレストランに行こうとする消費者が、お店やレストランの情報・レベルを知ることができるのは勿論のこと、お店やレストランも多くの高評価クチコミを獲得できれば、よい広告効果を得ることができる。一方、クチコミ投稿をすること自体が容易になるにつれ、お店やレストランの経営者にとって公正さを欠くと感じられるものや、甚だしきに至っては腹立たしいとさえ思えるクチコミが出てくることも避けることができなくなってきた。
台湾では、店舗の経営者が消費者のクチコミに反撃(報復)するために、消費者の写真や個人情報を暴露するという事件が時々起こっている。最近、台湾の知的財産及び商事裁判所は、このような事件に対する民事判決(111年度民著訴字60号)を下している。その内容は、お店やレストランの経営者が否定的なクチコミに対しどのように反応すべきかを考える際の一助になるかもしれない。
2022年4月27日午後7時ごろ、台湾の某会社の代表者を務める外国人(以下、原告と称する)が、別の外国人(以下、被告と称する)がシェフを務める台北市の某レストラン(以下、レストランと称する)に入り、食事をしようとしていた。しかし、原告が着席してから相当な時間が経過しても、レストランの店員が注文をとりに来なかったため、原告はレストランを後にした。そして、後に原告は実名でこの好ましくない体験を記述したクチコミをGoogleマップに投稿し、星一つをつけた。
同日の夜に、原告のクチコミに反撃すべく、被告はレストランのFacebookページに二回の投稿をして下記の情報を公開した。(1)原告やその友人が映ったレストランの防犯カメラの画像、(2)原告のFacebookページからコピーした、原告の容姿がはっきりと映った原告の写真(以下、原告写真と称する)、(3)原告の氏名。そして、被告はそのFacebookの投稿で、原告が「故意に難癖をつけて偽クチコミを投稿した」、「屋外でマスクを着用せず、台湾の防疫措置に違反し、台湾のルールを順守することを知らない」という旨の批判をした。
これに対し、原告は知的財産及び商事裁判所に民事訴訟を提起し、下記のように主張し、損害賠償を請求した。(1)原告のFacebook投稿の内容(原告が偽クチコミを投稿したこと、マスクを着用しないこと)は、原告の名誉権を侵害した。(2)原告のFacebook投稿で原告の氏名、原告写真、原告が映った防犯カメラの画面を公開したことで、原告の肖像権、氏名権、プライバシー権を侵害した。(3)Facebook投稿で原告写真を掲載したことで原告の著作権(複製権)を侵害した。(4)Facebook投稿で原告の氏名と原告写真を公開したことで個人情報保護法(中国語原文:個人資料保護法)に違反した。
原告の各主張に対する裁判所の判断の概要は以下のとおりである。
一、名誉権侵害について、裁判所がレストランの内部の防犯カメラの映像を確認したところ、当日レストランには客が多く、店員が故意に原告を冷たく扱ったことはない。たとえ被告が原告のGoogleクチコミが不実であると考え、それを「偽クチコミ」と呼んだとしても、根拠が全くないわけではなく、合理的な範囲内の意見に属する。なお、防犯カメラの画面は、原告がレストランの外にいたとき確かにマスクを着用していなかったことを表していたので、原告がマスクを着用していなかったことを指摘したのは事実を伝えたのみである。したがって、被告のFacebook投稿は原告の名誉権を侵害していない。
二、氏名権侵害について、先ず、氏名権侵害の形態として、他人の氏名を冒用すること、無断で他人の氏名を商業広告又は商品に使うこと、又は他人の氏名を不正利用することが含まれるが、新聞報道又は著作物に他人の氏名を開示することは、氏名権侵害にならない。本件において、被告が原告の氏名を開示した目的は、原告が行った行為を記述することにあり、原告の氏名を冒用、不正利用してはいないので、氏名権侵害に当たらない。
三、肖像権侵害について、肖像権は「個人がその肖像を公開するか否かを決定する権利」であり、無断で他人の肖像を掲載することに違法性があるかどうかを決するには、法益権衡の原則と比例原則により、掲載の目的、方式、形態及び追求しようとする公共の利益を比較判断して肖像の濫用があるかを判断しなければならない。
被告が掲載した原告写真は、もとより原告がFacebook投稿で自ら公開した写真に由来するものであるため、被告が原告写真を掲載したとしても、原告の肖像を公開するか否かを決定する権利(肖像権)は侵害されていない。しかし、(一般的な状況では公開されるはずのない)防犯カメラの画面を被告が公開した行為は、原告の肖像を公開するか否かを決定する権利を侵害している。
且つ、原告が既に実名でGoogleクチコミを投稿した以上、被告がそのFacebook投稿に原告の氏名を表したことにより、人々は既に被告が反論しようとしたクチコミがどれかを特定できるはずである。したがって、被告には防犯カメラの画面を公開する必要がなく、原告が投稿したGoogleクチコミに反論することを理由に無断で原告の肖像を公開する行為の違法性を阻却することができない。
四、プライバシー権侵害について、プライバシー権(人格権の一種)侵害が成立するかどうかを判断する場合、法益権衡の原則と比例原則により、侵害された法益、加害者の権利、及び社会公共の利益を比較判断しなければならない。
本件において、原告はGoogleクチコミを投稿した際に既に自分の氏名を表していたため、氏名は原告のプライバシーでなくなっている。しかし、被告には、原告のGoogleクチコミに反論するために原告写真を掲載したり防犯カメラの画面を公開したりする必要性がない。さらに、たとえ原告がレストランの外にいた当時マスクを着用しておらず、当時の防疫措置に違反していたとしても、原告はもとより関係当局に摘発することができるが、防犯カメラの画面をインターネット上に公開し、原告の容姿、個人のスケジュール、活動を暴露する必要性がない。この為、被告が原告のプライバシー権を侵害したことは認めるべきである。
五、個人情報保護法違反について、原告がGoogleクチコミを投稿した際に既に自分の氏名を表していたため、被告がFacebook投稿に原告の氏名を表示したことは、個人情報保護法に違反しない。しかし、被告がFacebook投稿に原告写真を掲載したことは、個人情報の「利用」行為に該当する。個人情報保護法第21条第1項により、個人情報の利用行為は、「(個人情報を)収集する特定の目的の元で必要な範囲内」で行われなければならない。しかし、原告写真を掲載する行為は、「収集する特定の目的の元で必要な範囲内」で行われたものでない上に、個人情報保護法第21条第1項に規定される例外的な状況(例えば公共の利益の促進、他人の権益に対する重大な危害の防止など)にも該当しないため、被告の行為(原告写真の掲載)は個人情報保護法に違反している。
六、最後に、著作権侵害について、原告写真は原告の友人が原告のスマートフォンを持って撮ったものであるが、その友人は原告の指示により撮ったことから、やはり原告が原告写真を創作した者であり、原告がその創作を完成させたときに原告写真の著作権を取得したことになる。そこで、被告が無断で原告写真をFacebook投稿に複製したことは、複製権の侵害となる。
これに対し、被告は、自身がレストランの商業的な名誉を保護するために原告写真を掲載したのであり、台湾著作権法第65条第2項により著作物に対する公正利用が成立すると主張した。台湾著作権法第65条第2項によると、公正利用が成立するかどうかを判断する場合、利用の目的及び性質(商業的目的又は非営利的教育的目的を含む)、著作物の性質、利用の質と量及び著作物の全体に占める割合、利用の結果が著作物の潜在的な市場と現在の価値に及ぼす影響を考慮しなければならない。しかし、被告による原告写真の使用が商業的目的(商業上の名誉の保護)に基づくこと、及び利用された部分が原告写真の100%に達したことを考えれば、やはり公正利用が成立しないと裁判所は判断した。
そして、上記の原告による肖像権、プライバシー権、個人情報、及び著作権の侵害行為について、裁判所は被告に4万台湾ドルを原告に支払うよう命じた。被告は反訴を提起して原告のGoogleクチコミがレストランの商業上の名誉を侵害したと主張したが、裁判所はその主張を否定した。
被告が二審に控訴したかどうかは不明である。Googleマップ等のネットサービスなどは、お店やレストランの情報へのアクセスを容易にし、消費を促進しているが、お店やレストランが批判を浴びる確率をも上げている。しかし、上記の判決から分かるように、店の名声を低下させたり、法的責任が生じたりすることを避けるために、公正さを欠いたクチコミが投稿されていても、個々人の知恵によって冷静に対応すべきであり、勝手にクチコミの投稿者の個人情報や写真を暴露するような行為はやめるべきであろう。