2022年6月下旬に台湾の司法院により可決された「知的財産案件審理法」の改正草案が、9月29日に行政院の同意を得た。今後、速やかに立法院(国会)にて審議される予定である。この改正草案が立法院でも可決されれば、2008年に知的財産案件審理法が施行されて以来最大規模の改正となり、今後の台湾の知的財産訴訟に大きな影響を与えることは必至である。
当改正草案のポイントは下記のとおりである。
一、専利と商標に係る行政事件訴訟が対審制に
現在、専利、商標に係る行政事件の審理は行政訴訟手続によるが、改正後は民事訴訟手続(対審制)を準用することとなる。換言すれば、当事者が知的財産局の審決に不服があって訴訟を提起した場合、裁判所は民事訴訟手続により審理することとなる。そして、事件の種類により知的財産局が被告でなくなることに引き換え、前の行政手続の段階での相手方(例えば無効審判の請求人)が被告となる訴訟もある。
二、弁護士強制主義の範囲の拡大
改正草案では、知的財産に係る民事事件の一部に弁護士強制主義が導入される。具体的に言えば、専利権、コンピュータープログラムの著作権、営業秘密に係る民事事件で弁護士強制主義が採用されるほか、訴額が相対的に低い事件を除いて、その他の民事事件にも弁護士強制主義が採用されることとなる。
三、民事訴訟の審理の効率化
改正草案は、知的財産及び商事裁判所の慣習を明文化している。例えば、
(一) 弁護士強制主義を採用しない事件、若しくは比較的単純な事件を除き、裁判所は(弁護士を通じて)当事者と協議して審理計画を定めなければならない。
(二) 専利訴訟において、争いのある専利請求の範囲の解釈につき、裁判官が当事者の申立て又は職権により、適時に文言上の専利請求の範囲を定義し、且つ適度にその定義に関する見解を開示するほうがよいとしている。
そして、今回の改正草案も以前から議論されてきたいくつかの課題に対し原則を立てている。例えば、
(一)技術審査官が作成した報告書の公表
もとより、技術審査官が作成した報告書は裁判所の内部書類に過ぎないとされ、それを公表する法的根拠が欠如しているとされてきた。それに対して、今回の改正草案では、裁判所が必要だと判断した場合、報告書の内容の全部又は一部を公表することができるほか、その内容について当事者に弁論の機会を与えなければならないとしている。
(二) 原告の立証責任の軽減
専利権、コンピュータープログラムの著作権、営業秘密の侵害事件で、もし原告がその主張に対し一定程度以上の説明をした場合、被告が権利侵害を否認しようとすれば、事実と証拠を提出する上、具体的な答弁をしなければならない。被告が正当な理由なしにただ単に否認した場合、又は具体的な答弁をしていない場合、裁判所はその情状に鑑みる上、原告が釈明した内容が真実であると認定することができる。
また、今回の改正草案から紛争の一回的解決に向ける試みも見られる。例えば、独占的利用許諾がなされた知的財産権の場合、その知的財産権に関して許諾者か被許諾者のいずれか一方が第三者と訴訟を行った場合、他方が訴訟に参加する機会を確保するために、他方に通知しなければならないという規定が新設される。
四、侵害訴訟における専利請求の範囲の訂正
侵害訴訟において専利請求の範囲の訂正がなされる場合、裁判所がどのように対応するかが以前から難解な問題になっている。侵害訴訟と無効審判が同時に行われる場合、問題はより複雑になる。下記のポイントのように、今回の改正草案はこの問題の全面的な解決を図ろうとする。
(一) 専利権者が侵害訴訟において相手側による専利の無効化の試みに会い、且つ専利権者が知的財産局に対し専利請求の範囲の訂正を請求した場合、裁判所に通知してはじめて訂正後の専利請求の範囲により権利を主張することができる。先に知的財産局に対し専利請求の範囲の訂正を請求しなければ、訂正後の専利請求の範囲で権利を主張することができない。
(二) 知的財産局に対し訂正を請求する期間を逃した場合、侵害訴訟においても訂正の意思を表明することができるが、これは「訂正を許可しなければ明らかに公平性が損なわれる」ことを前提とする。
(三) 上記のような侵害訴訟の進行中に訂正が行われた場合、裁判所は、自ら訂正が合法的かどうか判断することができるほか、知的財産局の意見を求めることもできる。後者の場合、知的財産局は書面で、若しくは審査官を裁判所に派遣することで意見を陳述することができる。
五、新証拠の提出の制限
現行法では、専利を無効にするための訴訟において新証拠を提出する場合、専利の無効化を試みる一方が受ける制限が比較的に少ない。今回の改正草案はこの現状を変革しようとする。即ち、専利権者が同意した場合、若しくは専利権者が相手方による新証拠の提出に対する異議なしに弁論をした場合を除き、下記の二つの条件を満たして初めて新証拠を提出することができる。(一)新証拠が同一の無効化の理由(例えば進歩性の欠如)を証明するためのものである。(二)前の無効審判の段階で提出された証拠を訴訟の段階で組み合わせて新証拠とし、若しくは前の無効審判の段階で提出された証拠の組合せから個別の証拠を抽出して新証拠とする。
六、審理への専門家関与の拡大
改正草案は日本の特許法に倣い、証拠を収集するための中立な専門家を任命するよう裁判所に申し立てるという「査証制度」を導入するとともに、米国の訴訟実務に倣い、「専門家証人」制度を導入する。また、「裁判所の友」(Amicus curiae)制度も導入され、裁判所がそのサイトで特定の法律問題について公衆に対し書面意見を募集できるということが明文規定されている。
七、営業秘密の保護の強化
改正草案では、営業秘密侵害に関する民事訴訟の第一審は、知的財産及び商事裁判所の専属管轄となる。営業秘密侵害の犯罪に関する刑事訴訟の第一審は、知的財産及び商事裁判所の管轄となり、地方裁判所が第一審裁判所でなくなる。そして、国の主要技術に対する侵害にかかる刑事事件は、知的財産及び商事裁判所の第二審の審理体制による管轄となる。また、改正草案は、「国外における秘密維持命令違反の罪」を新設することで営業秘密のさらなる保護を図る。
八、被害者の訴訟関与制度の新設
改正草案では、知的財産権に係る刑事事件である場合、知的財産及び商事裁判所の管轄となるかどうかを問わず、刑事訴訟法における「被害者の訴訟関与」の規定を準用し、訴訟手続きにおいて、検察官が被害者のために代弁するだけではなく、被害者もみずから意見を陳述し、訴訟ファイルの閲覧を申し立てることができるようになる。