台湾の民事訴訟法によると、重大な損害の発生を防止し、若しくは急迫の危険を避ける場合、紛争の当事者は、仮の地位を定める仮処分を下すよう裁判所に申し立てることができる。この制度は、本案判決が確定する前に、争いのある法律関係を暫定的に維持・実現させることを目的とする。台湾の実務上、専利権侵害事件が発生した場合、専利に係る仮の地位を定める仮処分がしばしば利用される。例えば、専利権者が裁判所に対し、専利権侵害事件の終局判決が出されるまでに、被疑侵害者による製造・販売等の侵害行為を禁止するための仮の地位を定める仮処分を下すよう申し立てることはよく見られる。また、専利権侵害事件のみならず、専利権の帰属が紛争の原因となる場合でも、当事者はこの制度を利用して自分の権利を保護することができる。これに関し、台湾の知的財産及び商事裁判所は、最近の110年度民暫字第8号の決定で、専利権の帰属に関する紛争での仮の地位を定める仮処分の申立てに対する審理を行う際のポイントを提示した。
この事件で、仮の地位を定める仮処分の申立人はある会社(A社)の研究開発部門の管理職に就く者であった。申立人の主張によると、彼は退勤後の時間、又は休暇を利用して治具や関連工程を開発し、社内の会議でその成果を発表した。A社は、申立人が開発した技術に対し興味を示して20万台湾ドルを奨励金としてその技術に係る専利出願権をA社に譲渡するよう求めたが、申立人は奨励金が過少として拒否した。しかし、申立人は後ほど、A社が無断でその技術を専利出願したことに気付いたため、A社を被告としてA社に専利出願権が存在しないことを確認するための民事訴訟を提起したほか、民事訴訟の判決が確定するまでにA社がその専利を実施しないことを命じるよう、裁判所に仮の地位を定める仮処分を申し立てた。
上記の紛争に関し、A社が奨励金や専利出願権の帰属について双方が合意に達していないことを認めた上、重大な損害の発生を防止し、若しくは急迫の危険を避けるなどという保全の必要性の有無についても争わなかったため、裁判所は、双方の間で確かに法律関係に関する争いが存在し、且つ保全の必要性があると判断した。さらに、申立人が仮の地位を定める仮処分をとおして、勝訴後でも補填できないような損害の発生を避けることができることに引き換え、仮の地位を定める仮処分によってA社に生じる損害は、せいぜい早期に専利を実施することができないということに留まり、目下A社がその専利を実施する準備もないため、損害が重大であるというような情状がないはずであると判断した。ゆえに、裁判所は、双方の得られる利益と蒙る不利益を考慮した結果、申立人が仮の地位を定める仮処分によって得られる利益と防止できる損害がA社が蒙る不利益と損害より大きく、且つ申立人も本件に対し釈明義務を尽くしたため、仮の地位を定める仮処分の命令を下す必要があるとした。
上記の事件の経緯から見られるように、専利権が自分に帰属することを主張しようとする者は、仮の地位を定める仮処分を得る確率を高めるために、出来る限り申し立てる時期を早めるべきである(例えば、他方の当事者がその専利を実施する前に仮の地位を定める仮処分を申し立てる)。それによって、双方当事者の利益、損害のバランスを判断する際に、裁判所に有利な判断をしてもらうことがより期待される。
また、専利権の帰属に関する紛争が発生した場合、専利権の実施に関する紛争が同時に発生する事例がよくある。例えば、技術の開発者がその協力業者又は顧客に技術を開示したところ、その協力業者又は顧客が無断でその技術の専利出願をした挙句、専利を取得して技術の開発者又はその同意を受けた者がその技術を使用することを阻害した事例もある。このような紛争が発生すれば、本来の権利者が契約上の権利を行使するほか、仮の地位を定める仮処分を利用してその権利を保護することも考えられる。