SAINT ISLAND INTELLECTUAL PROPERTY GROUP

ニュース

ニュース

ハッシュタグに関する公平交易委員会の判断

    現在のデジタル世界、とりわけソーシャルメディアや動画プラットフォームで宣伝活動を行う場合において、ハッシュタグ(hashtag)はすでに欠かせない存在になっている。相互参照の手段として、同一のハッシュタグが付けられたウェブサイトのコンテンツは、互いに繋がりをもつようになる。すなわち、もしネットユーザーがあるハッシュタグが付けられたテーマに興味をもつ場合、キーワード検索を通じて関連する全てのコンテンツを見付けることが可能となる。

    一方、ハッシュタグが大量に現れるにつれて、それに関連する法的紛争も生じてくる。近年、台湾では既にハッシュタグに関連する商標法上や公平交易法(公正取引法)上の紛争が生じている。これらの紛争における主な争点は、競争相手の商標をハッシュタグ化したり、競争相手の商標を自社のハッシュタグの一部にしたりすることが違法かどうかということにある。一方、たとえハッシュタグ化されたもの、若しくはハッシュタグの一部にされたものが自社の名称でも、一旦ハッシュタグの濫用と看做されれば、法的責任が生じる可能性もある。

    台湾の公平交易委員会(公正取引委員会)が2022年5月に下したある処分に係る事件では、台北におけるある動画プラットフォームを経営するA社とインテリアデザイン業界のB社がハッシュタグを濫用したため、公平交易法第21条第4項、第21条第1項に違反したとされ、A社とB社は各々5万台湾ドルの過料が科された。

    公平交易委員会の処分書に記載された事実によると、A社は「コンテンツマーケティング」(content marketing)というビジネスモデルのもとで、ある第三者が所有するホテルの歴史やデザインを紹介する動画を作成するようB社に依頼し、その動画においてB社のデザイナーに解説員のような役割を担わせた。B社のインテリアデザインの能力やA社の動画プラットフォームのマーケティング能力を宣伝するために、A社はその動画を自社のフェイスブックページに掲載した。そして、そのホテルとB社は実際何らの関係もないが、その動画における紹介文にB社の名称と電話番号からなるハッシュタグが含まれていたため、公平交易委員会は、そのハッシュタグがそのホテルとB社に関係があると公衆に誤信させたと判断した。

    前記の公平交易法第21条によると、事業者は、商品若しくは広告において、又はその他の公衆に知らせる方法を以て、商品と関連し取引を決定することに影響を及ぼすに足りる事項につき、虚偽、不実であり若しくは錯誤を招く表示又は表徴をしてはならない(下線は筆者による)。

    A社は、自社の会員であるB社の役務を宣伝するために問題となるハッシュタグを動画に表記したこと自体を否認していないが、「そのハッシュタグは相互参照の手段に過ぎず、インターネットを利用する公衆もこれをよく理解しているので、会社名と電話番号を含むハッシュタグだけで、その動画で紹介されたホテルのデザイナーについて誤信するわけがない」と弁解した。

    しかし、公平交易委員会はその弁解を受け入れていない。公平交易委員会の調査によると、その動画の紹介文に「デザイナーの巧みな技術で改造された個性的なホテル」という一文がある。公平交易委員会の見解では、問題となるハッシュタグと上記のような一文が並べられた場合、ホテルのデザイナーの正体に対する公衆の認識を錯誤させる方向に導くため公平交易法に違反した。そして、この事件において、ハッシュタグの内容やインターネット掲載までの経緯にB社が関与したかどうか、A社が如何にその行為から利益を得たか、公平交易委員会の処分書からは不明であるが、A社もB社も広告主であるので、共に公平交易法上の責任を負わなければならないとされた。

    2022年6月現在、両社が公平交易委員会の処分を不服として訴願を提起したかどうかは不明である。

    そして、今回の公平交易委員会の処分は、以下の注意すべきポイントを示唆している。

  • デジタル世界では、本文の後にハッシュタグがつくことがよくあり、本文とハッシュタグの意味が相互に影響しあうことも避けられない。そして、内容が置かれる文脈が変化すれば、内容も共に変化する。とりわけ、その文脈が広告というものである場合、ハッシュタグを、変わらぬ意味を持ち、法的リスクが皆無であり、いつも技術の中立性を維持できるツールとすることは困難である。何故なら、周知のように、広告というものは競争相手がいつも監視しているほか、政府当局も緩やかともいえない規制を課しているからである。
     
  • ビジネスモデルとしての「コンテンツマーケティング」とは広範な概念であり、この概念のもとでコンテンツの創作者と動画プラットフォームは多種多様な協力関係を構築する。これらの多種多様な関係をスペクトルに例えれば、スペクトルの一端には、コンテンツの創作者が自らテーマを設定してコンテンツや付属的なもの(図、コンテンツのあらすじ、ハッシュタグ等)を完成させるため、完全なる署名権限と著作財産権を有すると同時に、動画プラットフォームがコンテンツを掲載するのみであり、一切の編集も処理も加えないというようなケースがある。一方、スペクトルのもう一端には、コンテンツの創作者が動画プラットフォームに従属するようなケースもある。ほとんどのケースは、この両極端の間のどこかにあるが、どこにせよ、コンテンツの創作者と動画プラットフォームの利益がいつも一致するわけではなく、法令違反に係る紛争が生じた場合はなおさらである。
     
  • 上記の公平交易委員会の処分は充分にその立場を示している。すなわち、通常、コンテンツマーケティングが公平交易法に違反した場合、動画プラットフォームも名が出たコンテンツの創作者も広告主として法的責任を負わなければならないが、どちらか一方が法令違反となる内容を創作・アップロードしたかは公平交易委員会が細かく追究する事項ではない。このような立場は、間違いなくコンテンツマーケティングの法的リスクを増大させている。
     
  • このような状況で、コンテンツの創作者と動画プラットフォームは、両者間の契約のあり方をより慎重に取り扱わなければならない。整合性のある契約を作成するには、掲載する予定の主なコンテンツや(ハッシュタグを含む)付属するものにつき、知的財産権の帰属を明確に定める必要があるのみならず、「掲載前」と「掲載後」の修正・編集権をも定めなければならない。なお、合理的に法的リスクを配分するために、可能であれば、補償条項(indemnity clause)も明記されるべきである。いつも自分のビジネスパートナーが何をしているかを監視しなければならない事態に陥れば、事業運営の効率性にとても望ましくない影響を及ぼすことになってしまうだろう。
Back