台湾の知的財産局は、数回に渡る公聴会を経た末、専利法の改正草案をまとめ、行政院(最高の行政機関)に提出した。立法院(国会)にて可決された医薬品パテントリンケージのみに係る、前回の改正草案とは異なり、今回の改正草案が立法院において可決されれば、専利制度に全面的な変革がなされ、とりわけ専利出願や無効審判に極めて大きな影響をもたらすことが必至である。
今回の改正草案のポイントは下記のとおりである。
1. 複審及び争議審判部の設立
組織の面で最も重要な変革は「複審及び争議審判部」(中国語原文:複審及爭議審議會)の新設である。複審及び争議審判部は、下記の事件を審理することが予定される。
- 専利出願にかかる知的財産局の拒絶査定への不服
- 知的財産局による手続上の処分への不服
- 発明専利権(特許權)の存続期間の延長登録の請求訂正請求
- 強制実施許諾及びその廃止の請求
- 無効審判
複審及び争議審判部は3名又は5名のベテランの審査官や法律専門家からなり、そのうちの一人が審議長として審理を指揮し、上記の事件を合議体で審理する。ただし、性質が単純な手続上の処分への不服の場合、1名の構成員が単独で審理することも可能である。
2. 救済の簡素化
知的財産局による現行の専利出願の審査では、二段階の審査制度、つまり①1名の審査官による審査、及び②別の1名の審査官による再審査が採用されている。出願人が再審査段階の拒絶査定へ不服がある場合、以下の三段階の救済手続きが順に行われる。即ち、経済部訴願委員会に訴願を提起、次に訴願委員会の訴願決定への不服として知的財産及び商事裁判所に行政訴訟を提起、さらに知的財産及び商事裁判所の判決への不服として最高行政裁判所に上訴することができる。
また、無効審判に関する現行実務において、知的財産局では原則的に書面による審理を行って審決がなされている。なお、知的財産局による無効審判審決に不服がある場合、上記の「経済部訴願委員会→知的財産及び商事裁判所→最高行政裁判所」という三段階の救済手続きも適用される。
今度の改正案では、救済の簡素化のために、複審及び争議審判部の機能を強化することで専利に係る訴願手続きは撤廃される。すなわち、複審及び争議審判部は、拒絶査定に対する不服を合議体により審理し審決を出し、かつ、無効審判も対審制に基づき原則的に口頭弁論により審理が行われる予定である。
また、訴訟制度につき、現行の実務では、経済部訴願委員会の訴願決定へ不服がある場合、知的財産及び商事裁判所に知的財産局を被告として訴訟を提起する。今回の改正草案では、複審及び争議審判部の審決を不服として訴訟提起する場合、拒絶査定に係る審決では依然として知的財産局が被告となるが、無効審判に係る審決では他方の当事者が被告となる予定である。なお、複審及び争議審判部の審決へ訴訟を行う場合、最終審まで二つの審級があることに変わりはないが、専利出願に係る訴訟と無効審判に係る訴訟のいずれも行政訴訟から民事訴訟となるため、終審を司る裁判所は、最高行政裁判所から最高裁判所に変更される予定である。
3. 分割請求の期限の調整
現行の実務では、出願人が以下の時期に発明専利(特許)出願や新型専利(実用新案)出願を分割することができる。
- 発明出願につき出願の再審査の査定前、新型出願につき出願の処分前
- 発明又は新型出願につき専利査定書の送達後三月以内。
ただし、設計(意匠)出願は原出願の再審査の査定前のみ分割することができる。
今回の改正草案によると、発明出願、新型出願と設計出願はすべて下記の時期に分割できるようになる。
- 出願に関わる複審及び争議審判部の審決がなされる前、又は
- 出願の専利査定書の送達後三月以内。
4. グレースピリオド適用期間の緩和
今回の改正草案では、設計が刊行物又は展示会等に開示された時から6か月以内に出願できるというグレースピリオドが12か月以内に延長される。
5. 権利帰属に関する紛争を解決する手続きの強化
現行の実務では、専利権者が専利を受ける権利を有する者ではないという紛争が起こった場合、専利を受ける権利を有すると主張する者は裁判所に確認訴訟を提起、或いは、知的財産局に専利権者が専利を受ける権利を有する者ではないことを理由として無効審判を請求し、専利権の取消を請求することもできる。無効審判により専利権の取消審決が確定されれば、専利を受ける権利を有すると主張する者が新たな出願を行い、取り消された専利出願日を新たな出願の出願日とし、改めて専利権を得ることも可能である。
だが、ほとんどの場合、専利を受ける権利が誰にあるのかという紛争は、私的自治の原則に基づく個々の契約や様々な法律関係に係る。しかし、知的財産局では裁判所のように実質的に証拠を調査して誰が専利を出願するかの判断を下すことは困難であり、今回の改正草案では、裁判所のみがこのタイプの紛争を解決する権限があることとなる。そして、専利を出願する権利を有する者が勝訴すれば、知的財産局に対し専利権者の名義変更の手続きを行うことで専利権を得ることができる。
なお、今回の改正草案では、知的財産局又は複審及び争議審判部における専利出願に係る手続きが、権利帰属に係る紛争の当事者に損害をもたらす場合、その当事者は、仮の地位を定める仮処分を裁判所に申し立てたことを証明する書類を提出した上、専利に係る手続きの三か月間の一時停止を知的財産局又は複審及び争議審判部に申し立てることができる。