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移動式カラオケブースと著作権侵害

台湾の知的財産裁判所は2020年4月に、中国の移動式カラオケブースの大手メーカーである艾美網絡社の外観デザインに係る著作権を侵害したとして、台湾のミニック社に対し500万台湾ドルの損害賠償金の支払いを命ずる判決を下した。

艾美網絡社が所有するカラオケブースの中国意匠 CN201530160659号

カラオケブースにまつわる法的問題や訴訟の見通しの悪さを心配するためか、いまのところ、艾美網絡社はそれほど台湾市場にカラオケブースを展開していないようである。

上記のような外観デザインで生じた紛争はさておき、ミニック社によるカラオケブースのビジネスモデルがミュージックビデオの著作権を侵害した疑いが持たれているので、ミニック社は、カラオケブースの設置を開始した2018年から複数のミュージックビデオの著作権者に法的措置を取られてきた。

そして、ミニック社のカラオケブースによるミュージックビデオの著作権の侵害が成立するか否かについて、最近、著作権者に不利な二つの裁判例(台北地方裁判所の109年度声判字第18号決定、知的財産裁判所の109年度民著字第28号判決)が現れている。

そもそも、カラオケブースの仕組みはどのようなものであろうか。上記の裁判例によると、カラオケブースは、防音設備、カーテンやエアコンが付けられる公衆電話ボックス状のコイン式ジュークボックスである。しかし、従来のジュークボックスとは異なり、カラオケブースは通常、数多のストリーミングビデオのウェブリンクを収録するカタログを保存するサーバーに接続されるものである上、そのサーバーは海外サーバー、又はクラウド上のサーバーである。そして、カラオケブースの操作画面では、曲リストのみが表示され、ウェブリンクそのものは見られない。利用者が曲を入力すると、コンピュータがサーバーに指令を送信してウェブリンクを開いた後、サーバーはストリーミングデータをカラオケブースに送り、ミュージックビデオが再生されることとなる。このような仕組みにより、利用者がカラオケブースを操作する場合、そのミュージックビデオの出所が合法的なものであるか否かを確認することが困難である。

理論的に、現行法における著作権の分類によれば、正当な許諾を受けないビデオがカラオケブースで再生される場合、「複製権」、「(デジタル著作物に対する)公開伝送権」及び「(視聴覚著作物に対する)公開展示権」の三つの権利が侵害されると看做される可能性があるが、これに関して、知的財産局(台湾特許庁)は下記の見解を示した。

利用者がオンライン(クラウド)データベースにおけるミュージックビデオを閲覧・視聴できるように、カラオケブースを利用者に提供しても、ウェブ閲覧は著作物の利用行為と関係がないので、著作権侵害の問題は生じない。しかし、業者がそのリンクされたミュージックビデオが著作権を侵害するものであることを明らかに知りながら、ハイパーリンクでそれを公衆に提供すれば、著作財産権者の公開伝送権を侵害する行為の共同正犯又は幇助犯になり、共同不法行為責任を負うおそれがある。

従って、知的財産局の見解によると、カラオケブースの業者が設備を提供して第三者が既にオンラインに載せたミュージックビデオを利用者に視聴させるのみであれば、使用者がもとより他の設備(例えば自分のパソコンや携帯電話)でそのミュージックビデオを視聴できるので、カラオケブースの運営は著作権侵害とならない。現行の台湾著作権法では、「再公開伝達権」に関する規定がないので、利用者に視聴させたミュージックビデオは違法なものであることをカラオケブースの業者が明らかに知る場合を除き、使用者がカラオケブースでミュージックビデオの著作権者の許諾なしにミュージックビデオを再生したとしても、カラオケブースの業者による著作権侵害は成立しない。

また、上記の台北地方裁判所の109年度声判字第18号決定では、この知的財産局の見解も採用された。台北地方裁判所は、この刑事事件において、問題となるミュージックビデオがグーグル検索とユーチューブにより簡単に探し出せることを確認後、下記の見解を示した。

申立人(原告)は、「通常インターネットで探し出せないが、本件のカラオケブースを操作する際に探し出せるビデオ」、又は「インターネットにおいて、一般の市民も知るほどの、申立人の許諾を得ずに申立人のミュージックビデオを載せる違法なウェブサイト」の存在を立証しない上、「本件のカラオケブースがストリーミング技術によるものではないこと、又は被告が他のデータベースを設置したこと」をも証明できないので、被告が提供した、コンピュータプログラムを含む各種の設備がそれらの違法サイトへの接続のみのために設置されたことを認定しがたい。

そして、2020年11月下旬、知的財産裁判所は上記の109年度民著字第28号判決を通して知的財産局の見解とは異なるかと思わせる見解を示した。当判決によれば、原告は、台湾において著作権の保護を受けるミュージックビデオの独占的利用許諾の被許諾者として、ミニック社によるそのミュージックビデオの再生を差し止める権利を有する。

しかし、裁判所は、下記の理由に基づき、原告がそのミュージックビデオが実際ミニック社のカラオケブースを通して再生されたことを証明できないとし、損害賠償の請求を認めていない。

原告が依頼した人員と公証人が上記の時点と場所で問題となる視聴覚著作物を選択・再生したが、それは証拠収集の目的に基づく再生であり、それらの人員が行った公開上映の行為は、事前に原告の同意又は許諾を得たものであるため、それらの人員がその視聴覚著作物を選択・再生した行為が原告の公開上映権を侵害したとは言いがたい。

さらに、原告は本件の裁判中、その公開上映について、原告が収集した証拠と公正証書以外の証拠を当裁判所に提供できないことを承認した。原告が被告が公開上映でその視聴覚著作物の著作権を侵害した事実を証明できない以上、被告に損害賠償を請求することに理由がない。

この判決の全文から、ミニック社にミュージックビデオへのリンクとリンクを収録するカタログを開示することを命じるように原告が裁判所に申し立てたかどうかは不明である。また、裁判所は、ミニック社が原告のミュージックビデオを再生してはならないと明言したことについて、裁判所が知的財産局の見解と異なる見方を示したように見えるが、裁判所が知的財産局の見解をひっくり返して移動式カラオケブースでストリーミングされたミュージックビデオの無許諾再生が権利侵害行為とするような結論に至ったと言えるかは、定かではない。

いずれにしても、著作権者の立場からすると、この二つの裁判例から、著作権者がコントロールできない状態で(必ずしも違法ではない)無料のストリーミングビデオを公衆に伝達するカラオケブース等の設備の拡散を抑制する新たな排他的権利の必要性が伺える。実際、知的財産局は、最近の台湾著作権法の改正草案に、「公開放送・公開伝送される著作物の内容を即時にスクリーン、拡声器その他の機器設備で公衆に伝達する」ことを禁止するための「再公開伝達権」の規定を導入している。しかし、カラオケブースでミュージックビデオを再生することが「即時に伝達」することに該当するか否かは未だ不確かである。この著作権法の改正草案は台湾の国会で審議中である。

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