最近、台湾のある著作権侵害事件の二審判決(2020年5月の107年度民著上字18号。以下、当判決と称する)において、台湾の知的財産裁判所は再度、争いの的となった契約の文言を解釈した。その際、商業的文脈と取引目的の両方を斟酌する柔軟性を示している。この合議法廷による判決は、台湾の知財専門家とグルメ愛好家の注目を集めた。何故なら、本件被告の鼎泰豊(ディンタイフォン)社は、台湾で最も有名なレストランの一つであり、且つ、この紛争はその代表的な料理である「小籠包」に関するものであったからである。当判決では、鼎泰豊社に侵害責任がないとされたが、当記事が掲載された頃には、台湾最高裁に上告されているかもしれない。
争いの的となった契約は、原告の宝来文創社が2009年7月に署名した「立体商標同意書」であり、この同意書には下記のような文言が記載されている。
| 同意書に署名した者(原告)は、鼎泰豊“包仔(バオザイ)”・“籠仔(ロンザイ); 1 フィギュアの著作物の所有者であり、その著作物は、中国語の「鼎泰豊」、英語の「DIN TAI FUNG」及び日本語の「ディンタイフォン」と合わせて、結合立体商標となる。鼎泰豊社は、これらを小籠包等の飲食関連サービス業のマーケティングに利用することで、そのブランド価値と企業イメージを高めるものとする。鼎泰豊社のブランドに完全なる保護を与える需要に応じるため、鼎泰豊社が小籠包等の飲食の周辺サービス及び製品における“包仔”・“籠仔”の立体商標の商標出願を行うことに同意する。上記の同意を以て出願した商標を用いる製品は、この商標の存続期間内において原告に独占的に生産させなければならない。 |
裁判所が認定した事実によると、宝来文創社は2008年の夏に、鼎泰豊社からの依頼又は出資なしに“包仔”と“籠仔”のマスコットを創出した。数ヵ月後、両社は「鼎泰豊商品開発互恵提携契約」という契約(以下、互恵提携契約と称する)を結ぶことで正式な契約関係を築いた。そして、宝来文創社は互恵提携契約により、鼎泰豊社がこれらのフィギュアを展示・販売できるように、各種サイズのフィギュアを鼎泰豊社に提供し始めた。この経緯から見ると、宝来文創社による著作権と製品のコントロール手法は賢明であったと言えよう。何故なら、台湾の著作権法によれば、出資者が他人を招聘して著作物を完成させた場合、出資者と被招聘者の間に特段の約定がなければ、出資者は少なくとも(その出資・招聘の目的に基づいて)その著作物を利用することができる。しかし、この手法により、鼎泰豊社は出資者であると認定されることができなくなった。
これらのマスコットとその平面デザインの商標登録を受けるポテンシャルが鮮明に見え始めた2009年ごろ、鼎泰豊社は宝来文創社から使用許諾を得る必要性を感じた。上記の同意書の文言は、鼎泰豊社が起草したものであるが、最後の段落は宝来文創社が書き添えたものである。宝来文創社の同意を得た後、鼎泰豊社は2つのマスコットとその平面デザインについて一連の商標出願を行った。自明の理かもしれないが、立体のものより、平面上にマスコットを掲載する方が自由度が高いため、“包仔”と“籠仔”は多岐にわたる商品(例えば食器、絵葉書、傘)の平面に表示された。これらの平面デザインが表示された商品の内、宝来文創社が製造したものはごく一部しかなかった。にもかかわらず、平面デザインをどのように使うべきかを規制する法的書類がない状況は、6年間続いていた。2015年に鼎泰豊社が宝来文創社との協力関係を終了した直後、宝来文創社はこの規定の漏れを問題視し、鼎泰豊社がその著作権を侵害したと主張し始めた。そのため、肝心な問題は、鼎泰豊社が得た同意が平面デザインに及ぶか、とりわけ、鼎泰豊社が平面デザインの商標出願する許諾を受けたか、ということである。
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| 登録商標01442132号「鼎泰豊包仔フィギュア」 |
登録商標01442131号「鼎泰豊籠仔フィギュア」 |
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| 登録商標01417327号「鼎泰豊包仔フィギュア」2 |
登録商標01417326号「鼎泰豊籠仔フィギュア」 |
この問題について、宝来文創社は、はっきりした規定がないが、それが両当事者に合意があることを意味するわけではないと主張した。台湾著作権法第37条第1項は、「著作財産権者は、著作権の利用を他人に許諾することができる。その利用の許諾の地域、時間、内容、利用方法その他の事項は、当事者の約定による。約定が不明な部分につき、許諾されていないものと推定する」と規定している。確かに、この規定は、一見、宝来文創社の主張を後押しするものに見える。しかし、知的財産裁判所は本件で、台湾著作権法第37条第1項が下記の条件を満たしてはじめて適用されると判断した。
| 「意思表示を解釈する際、当事者の真意を探求しなければならず、用いられた字句に拘泥してはならない」・・・と、民法第98条は規定している・・・・。著作権契約の許諾範囲について認定する際、先ずその許諾契約の約定内容を確認しなければならない。もし明文がなく、規定に記載漏れがあり、又は文字がぼやけている場合、契約の真意又はその目的を探求したり、黙示の同意があるか否かを追究しなければならない。これに準じて、著作権者が権利を許諾したが、権利の利用方式について約定が不明であったり、約定の方式と契約の目的が矛盾したりした場合、許諾契約で達成しようとする目的によりその権利の許諾範囲を決しなければならない。そのため、著作権許諾契約で許諾した権利、及びその利用方式は、許諾契約の目的で決されるべきであり、用いられた字句に拘泥してはならない。当事者の真意が不明であり、黙示の合意も存在していない場合、契約の目的が何かを考慮しなければならない。当事者の真意が不明で、黙示の合意も存在していなければ・・・はじめて著作権法第37条第1項にいう約定が不明な事情があると認め、許諾していないと推定できる。 |
実際、知的財産裁判所は本件において、はじめて著作権法第37条第1項の適用に慎重な姿勢を示したわけではない。本件以前、知的財産裁判所は少なくとも5つの事件において「著作権譲渡目的理論」と称される説を用いて被許諾者に有利な解釈をし、著作権法第37条第1項の適用を否定した。ならば、本件の当事者は、同意書を通じてどのような目的を達成しようとしたか、裁判所は下記の判断を示した。
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本件における同意書の文言では、“包仔”・“籠仔”の立体商標のみの登録に同意されている。一方、同意書では、“包仔”・“籠仔”のフィギュアのような立体的な人形のみに言及され、他の平面デザインの商品については全く言及されていない。証人○○○の証言と○○○による電子メールの返信内容に照らすと、商標のみに言及されており、平面商標又は立体商標に限定されることはない。本件の立体商標同意書を参照すれば、その目的は鼎泰豊社の役務をマーケティングすることにあることが分かるので、立体商標同意書の内容を以て、宝来文創社が鼎泰豊社に商標出願を同意したときに他の商標の類型を排除する意思があったとは認定しがたい。このため、鼎泰豊社が“包仔”・“籠仔”の著作物について平面商標の登録を受けることを宝来文創社が同意したと認定すべきである。
・・・・双方の提携期間は七年間に及び、商取引の通常状態に鑑みれば、宝来文創社は鼎泰豊社が“包仔”・“籠仔”の平面商標を出願したことを知っていたはずであるが、この期間中、全く鼎泰豊社に異議を示していない。鼎泰豊社が2015年8月25日に提携関係を終了することを宝来文創社に告げたところ、宝来文創社は平面商標の登録に同意していない云々と主張し始めた。しかし、宝来文創社がこの期間内に平面商標の登録に同意していない旨を鼎泰豊社に伝えていないことで、平面商標の登録を受けることについて宝来文創社から同意を得たという正当な信頼が生じた。両社の長期にわたる提携関係に鑑みたところ、一般の社会上の取引の通念により、宝来文創社の上記の主張は事実に合致せず、信用するに足りない。
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さらに、その同意書が署名される13日前に、ある宝来文創社の従業員であるとともに宝来文創社の責任者の親族に当たる者が、鼎泰豊社の連絡窓口に電子メールを送っていた。その電子メールには、「正直、われわれは商標の部分に関して特に問題はないと思う」という記載があるので、裁判所はこの記載を当事者らが許諾の範囲を立体商標又は平面商標に限定する意思がないことを判断した証拠の一つとした。
台湾の法実務界の伝統と言語体系の特徴も影響するかもしれないが、本件の裁判結果から、知的財産裁判所(又は少なくとも一部の裁判官)は、契約の内容を解釈する際、取引上の背景を重視する傾向にあることが見受けられる。
1 “包仔”と“籠仔”は、小籠包と蒸籠(せいろ)の形のマスコットである。
2 上記の全ての商標の図形は台湾知的財産局のデータベースからのものである。