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職務発明に関する知的財産裁判所判決

    台湾の専利法第7条第1項は、「被用者が職務において完成した発明、考案又は意匠について、その専利を出願する権利及び専利権は雇用者に帰属し、雇用者は被用者に適切な報酬を与えなければならない。ただし、契約に別段の約定がある場合は、その約定に従う」と規定している。この1994年以降全く改正されていない条文によると、職務発明についての権利は原則的に雇用者に帰属することとなるが、被用者は適切な報酬を請求する権利(以下、「適切報酬請求権」という)を有する。

    ところが、実際この簡潔な条文を適用する際、様々な問題が発生することとなる。「職務において完成した」の定義であれ、適切な報酬の基準であれ、この第7条第1項の要件には抽象的なところが多いため、法律実務家(とりわけ企業の社内弁護士)には、効率性と有用性を兼備する会社内の発明奨励制度の構築に知恵を絞ることが求められる。それどころか、この条文における「契約に別段の約定がある場合は、その約定に従う」というごく単純に見えるただし書も争いの種となる可能性がある。具体的に言えば、会社は労働契約で被用者の適切報酬請求権を制限・排除することができるのかという問題をはらんでいる。これについて、文言解釈をすれば、むしろ肯定的な結論を導き出さなければならないであろう。実際、台湾の知的財産裁判所も、最近のある一審判決(108年民専訴字9号判決。以下、当判決と称する)で肯定的な見解を示している。しかし、この事件は控訴審で審理されており、当判決の見解に対する反対の声も多々あるのではないかと思われる。

    この事件における一審裁判所の判断の焦点は、著名なLEDメーカーである被告が公表した社内の「発明創作奨励規則」である。原告は、かつて被告の従業員であった。ここで注意しておくべきは、「発明創作奨励規則」は契約ではなく、会社の就業規則の一部でしかないということである。しかし、台湾の実務上、使用者と労働者との労働契約において就業規則に言及しているかどうかを問わず、通常、就業規則はその契約関係を定義する機能があると見なされている。

    「発明創作奨励規則」の内容の概要は、下記の表のとおりである。  

    原告は3つのLED/LEDのエレメントの製造方法の発明専利(特許)の共同発明者であり、これらの発明は、原告が被告に在籍していた期間に被告により開発されたものである。(裁判所に認められなかった)原告の主張では、被告の財務諸表及びニュースリリースによると、被告のLED製品は2006年から2017年までの間に被告に115億台湾ドルの利益をもたらし、それらのLED製品はいずれも原告の発明を実施したものである。そして、たとえ控えめに見積もっても、上記の利益に対する原告の寄与率は1%(被告の奨励金の数千倍に相当)に達するべきである。しかも、原告が2003年頃に被告を退職した時に、原告の発明は未だに専利を取得していなかったため、被告は専利を取得した際の奨励金を支給したことがない。

    しかし、裁判所は、前記の「発明創作奨励規則」のため、原告が最初から適切報酬請求権を取得していないと判断した。換言すれば、この規則はまさに専利法第7条第1項ただし書に規定される、適切報酬請求権の例外としての「別段の約定」のある契約そのものであり、優先的に適用されるべきであるため、原告が請求できるのは、その規則に規定される専利出願奨励金のみとなるが、原告は既に専利出願奨励金の全額を受領しているということになる。

    専利法第7条第1項ただし書に関する見解のみならず、当判決には他にも使用者側に有利な見解が含まれている。例えば、裁判所は当判決にて下記の二つの見解を示した。

  1. 従業員が適切な報酬を請求する場合、会社が従業員と事前に約した報酬額が適切であること、若しくは支給した報酬額が適切であることを会社が先に証明するのではなく、従業員が先にその請求する報酬額が適切であることを証明しなければならない。
     
  2. 原告は、会社の得た利益に対する原告発明の寄与度の如何について立証責任を負わなければならない。

    そして、裁判所は、原告が上記の二点のいずれに対しても立証責任を尽くしていないと判断した。

    それどころか、裁判所は当判決で、発明者である従業員が会社から取得した経常的収入(給料)及び臨時的収入を職務発明の報酬の一部とすることができるかという論題に言及し、会社にかなり有利な立場を取っている。このテーマについて、従来の判決でも、知的財産裁判所が使用者に有利な見解を採用してきたが、当判決では使用者側により有利な方向に一歩進んだ。

    以下、この点について当判決の原文を引用することにする。

「原告は、被告に就職する前に、その職務が、研究開発エンジニアとして被告のために技術を研究開発し、その研究開発した技術、専利を被告に帰属させることであり、且つ、その研究開発による会社への貢献の如何が既に包括的に会社と約定した報酬で評価されていることを知りながら、自ら就職を望んだため、自ずとその報酬額が適切であると認めたというべきである。さもなければ、原告はその職務と賃金を受け入れたはずがない。しかも、賃金のほか、原告は奨励金、株式配当、昇進、賃上げ等の利益も受けたため、原告の仕事上のパフォーマンスが既に約定のとおり評価され、原告が被告より・・・「適切な報酬」を受けたと認めるに足りる。」

    当判決の事件もLEDに関連する発明から生じた争いであるため、日本における、ノーベル賞受賞者の中村修二氏とその元勤務先の日亜化学との青色LEDをめぐる訴訟を連想させる。同訴訟は紆余曲折を経て最終的に和解で終了したが、日本の特許法が使用者に有利な方向へ進むようにさせたようである。この記事で取り上げた台湾の訴訟は二審裁判所に係属しており、いつまで続くか、どの方向に発展するか予想しかねるが、裁判所は、当判決を通じて契約自由の原則を堅く維持し、あまねく存在する会社の発明奨励制度の合法性を肯定しているので、会社経営者の多くは、一審判決が維持されることを切に望むのではないかと思われる。

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