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意匠(設計専利)権侵害に関する重要な判決

最近、台湾の知的財産裁判所は、設計専利(意匠)権侵害に関し重要な判決(106年度民専訴字第34号民事判決)を下した。その訴訟過程において、何人もの大学教授が裁判所に意見書を提出し、若しくは自ら出廷して意見を述べたほか、その判決書も百ページを超えるほどの大作であった。

本件訴訟の原告は、世界の自動車メーカー上位10位に入る業者で、被告が製造・販売した自動車ライト(以下、被告製品という)が原告のメルセデス・ベンツEクラス(W212型)(以下、本件車型という)のライトの意匠(以下、本件意匠という)を侵害したとして提訴し、侵害差止と損害賠償を請求した。本件訴訟は意匠侵害の案件であったが、最も重要な争点は、原告の権利行使が台湾の公平交易法に違反するかどうかということである。即ち、被告は訴訟において、自社が何度も合理的な条件を以て本件意匠の実施許諾をしてくれるよう原告に要請してきたが悉く原告に拒否されたため、原告が台湾の公平交易法(公正取引法)上の「市場地位の濫用、競争制限」、「正当な理由なしに他の事業者に差別待遇を与える行為」、「取引秩序に影響を及ぼすに足りる著しく公正を欠く行為」を行ったと主張した。

これについて、公平交易法違反となるかどうかが最も重要な争点となったため、裁判所は、意匠侵害訴訟において一般的に判断すべき事項(例えば原告の意匠に取り消すべき理由があるかどうか、被告製品が本件意匠に抵触したかどうか等)を判断したのみならず、本件の事実が公平交易法の規定の各要件に合致するかどうかを判断した。そして、審理した結果、裁判所はこの判決で、被告製品が本件意匠に抵触するかどうか、原告が公平交易法に違反するかどうか等の争点において全面的に原告の主張を肯定した。被告が台湾国内の業者であるので、この判決は今後、台湾の自動車アフターパーツ業界に多大な影響を与えるかと思われる。以下では、本件の公平交易法に関わる争点における裁判所の判断結果の概要を説明する。

一、 本件に関わる市場の範囲はどこまで及ぶか

原告の行為が「市場地位の濫用、競争制限」となったかどうかを判断するには、先ずその市場の範囲を特定しなければならない。これについて、被告の主張によれば、本件に関わる市場は、本件車型用のライトのアフターパーツ市場である。というのは、新車販売市場で販売されるのが自動車そのものであるのに対し、自動車のアフターパーツ市場で販売されるのは自動車修理用のパーツであり、機能の面と消費者の需要の面から見れば両者間に代替性がなく、同一の市場ではないからである。なお、パーツは消費者が既に購入した特定の車型に完全に合致しなければならないので、消費者は実際、購入した車型のパーツの市場に「封じ込められている」(locked-in)。即ち、被告の論理によれば、消費者が本件車型の自動車を購入し、ライトが故障し修理が必要となる場合、他のブランドのライト、又は本件車型以外のメルセデス・ベンツの車型のライトを以て修理することはありえない。

しかし、この争点について、裁判所は下記の理由で新車販売市場とアフターパーツ市場が同一の市場と判断した。

(一) 供給者が商品若しくは役務の値段を引き上げる場合、需要者が取引対象を変えたり、他の商品若しくは役務で代替したりすることができる範囲なら、同一の市場と見なされるべきである。

(二) たとえ消費者がアフターパーツ市場に封じ込められて代替できる選択肢がなくても、新車販売市場に充分な競争がある以上、その封じ込めに実質的な意味がないので、新車販売市場とアフターパーツ市場を同一の市場と見なしてよい。

(三) 本件訴訟において、ある専門家は意見書で「通常、自動車の買い手は個人の需要とコスパのみを考え、購入後の修理及びパーツ交換などを考慮しない。何故なら、自動車の修理とパーツ交換には、偶発性と高度な不確実性がある。且つ、自動車の買い手は、自動車の購入時にその値段を知ったり覚えたりするとは限らず、完全な情報を把握することが困難であるため、修理コストは自動車購入に係る意思決定に影響を与えない。したがって、アフターパーツ市場を新車販売市場から独立させて別々に観察しなければならない」というような見解を述べたが、この見解に賛同できない。そもそも、本件車型を購入する消費者は下記の二種類に分けることができる。

  1. 購入後、ライトの修理をするなら、選択肢が限られて価額も比較的に高いことを知りながら、尚も本件車型の購入を希望する消費者
  2. 上記の1.の状況を知らずに本件車型を購入した消費者。このタイプの消費者はさらに二種類に分けることができる

    (1) 上記の1.の状況を知った後、この状況がメルセデス・ベンツのブラント価値によるものと納得した消費者
    (2) はじめから上記の1.の状況を知らず、知った後はライトの修理費用が気になり、アフターパーツ市場では競争が不足でその権益が損なわれると思った消費者

    本件車型のライトのアフターパーツ市場を独立した市場と見なす主な理由は、上記の2.(2)のような消費者の利益を保護するためである。しかし、それほどライトの修理費用が気になるなら、自動車の購入したその時に、購入後のライト修理がどのような状況となるかを予め注意すべきである。こうして、注意を怠った消費者を保護することは、よりよい競争秩序を形成できるとは限らない。

  3. 修理の需要・頻度は人により異なる。ビジネス上の目的で自動車を購入する場合、自動車を利用する頻度が高く、修理の需要と頻度も高くなる。一方、たまにしか自動車を移動手段としない場合、修理の需要は高くないため、修理コストもそれほど気にならない。こうして、新車の価額と修理の価額から生じる利益の割合をどのように調整するかは、もとより新車販売市場とアフターパーツ市場で形成する単一市場の調整メカニズムで最も効率的な決定をすべきである。頑なにライトのアフターパーツ市場を独立した市場とすれば、必ずこのような単一市場の調整メカニズムの形成を阻害してしまう。

二、 原告が市場において競争のない状態にあり、又は競争を排除できるほどの圧倒的地位を占めているか

被告の主張によると、原告は本件車型のライトの意匠権を所有しており、且つ本件車型に取り付けられるライトは本件意匠に完全に同等なものでなければならない(must match)ので、被告は被告製品に本件意匠を使用しなければならず、回避、代替する余地がない。原告が本件意匠による独占排他的権利を行使すれば、他の業者による本件車型のライトの製造を禁止できるので、原告は市場を独占している。

だが、裁判所は原告の反論に同調し、新車販売市場とライトのアフターパーツ市場が同一の市場である以上、原告による新車販売の市場占有率が6%から8%程度と低いため、原告はこの市場に独占的地位を有さないと判断した。

三、 原告は競争を制限するおそれのある行為をしたか

被告の主張によると、被告製品はいずれも国連欧州経済委員会(ECE)による品質テストを受けて承認されているほか、原告の関連企業も何度も被告の子会社からライトを購入しているので、被告製品に安全性があり、原告が実施許諾を拒否するのは正当な理由がない。なお、社外品パーツの製造業者が数多あるにもかかわらず、原告が被告のみに意匠権行使で製造・販売を禁止するのは差別待遇であり、競争を制限するおそれがある。

これについて、裁判所は下記の理由で原告が競争を制限するおそれのある行為を行っていないと判断した。

(一) たとえ原告が本件意匠の実施許諾を拒否しても、被告は尚も他の意匠の実施許諾を受けたライト、又は意匠権に保護されていないライトを製造・販売することができ、消費者も新車販売市場において他の選択肢を持っているので、アフターパーツ市場に競争の制限をもたらすおそれがない。

(二) 実施許諾を拒むことは、もとより専利権を行使する方式の一つであるので、実施許諾を拒むことが優位な市場地位の濫用となって競争を制限するおそれがあるかどうかを認定する場合、緩やかな認定基準を採用してはならない。そもそも、意匠の開発コストを負担しない競争者が低価額を打ち出すことは簡単である上、技術上又は品質上の些少な差別化をすることもそれほど難しくないので、意匠権者が実施許諾を拒むと直ちに優位な市場地位の濫用となるような羽目に陥れば、意匠権者による開発・創造の動機付けを喪失させてしまう。

(三) 被告製品は、本件意匠を実施するのみであり、本件意匠に基づいて改めて新しい製品を創出したわけではないので、原告が実施許諾を拒絶したことは、新製品の開発を阻害せず、台湾専利法における創作を奨励し産業の発展を促進する精神にも反しない。

四、 原告が取引秩序に影響を及ぼすに足りる著しく公正を欠く行為を行ったか

被告の主張によると、原告と他のドイツの自動車メーカーは嘗てドイツ自動車産業連合会を通じて「パーツ市場の競争を阻害せず、且つ権利を保護する法律を用いて独立系の業者及び独立系の部品ディーラーと市場シェアを奪う行為もしない」と宣言した。原告がその承諾を反故にし、ドイツと台湾において訴訟を起こした行為は、原告とアフターパーツ市場において競争する被告にとって著しく公正を欠くものであると被告は主張した。

しかし、裁判所は、その承諾が被告に如何なる権利若しくは法律上の地位を与えるものでなく、この承諾に反しても政治上の効果しか生じないと判断した。

被告は既にこの判決について二審に控訴したようである。二審裁判所が一審裁判所の判断を覆すかどうかは、今後の注目に値する。

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