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進歩性の存在を示す要因としての商業的成功を認めた事例

    台湾の専利(特許、実用新案)業界は、「商業的成功」(commercial success)、又は他の補助的判断要素(auxiliary considerations)と呼ばれる客観的指標(objective indicia)に基づいて、専利の進歩性を認める判決を長らく期待してきた。これについて、台湾の知的財産裁判所は、107年度行専訴字第75号判決(以下、「同判決」)を下すことでこのような期待に励みを与えた。

    2019年2月に下されたこの判決は、「保温フードカバー」の新型専利(実用新案)にかかる無効審決に対する不服訴訟の判決である。無効審判において、この新型専利の進歩性が問われ、知的財産局(台湾特許庁)はこの新型専利が自明なものとした。そして、多くの無効審判の案件と同じく、この無効審判における主な争点は、新型専利の発明に辿り着くために、当業者に先行技術を組み合わせる動機付けがあるかどうかということにあり、無効審決に対する不服訴訟に至って始めて「商業的成功」が取り上げられた。これについて、知的財産裁判所は、新型専利権者の「商業的成功」に関する主張に正当な理由があると判断し、台湾特許庁の無効審決を覆し、案件を知的財産局に差し戻した。

    「商業的成功」は、台湾の「専利審査基準」に明文規定される進歩性の有無を判断する際の四つの「補助的判断要素」と呼ばれる客観的指標の一つである(他の三つは「発明が予期できない効果を有すること」、「発明が技術的偏見(technical prejudice)を克服すること」、「発明が長期にわたって存在してきた問題を解決すること」である)。しかし、同判決が下されるまで、知的財産裁判所が判決で発明が商業的成功を獲得していることにより発明の進歩性を認めた事例はなかった。何故なら、商業的成功を獲得した発明であっても、その商業的成功がその発明の進歩性のある特徴がもたらしたものとは限らないとされるように、補助的判断要素の存在と進歩性の存否との間に合理的な因果関係があるかどうかは判断しがたいからである。

    「補助的判断要素」には「補助的」という三文字があるものの、専利審査基準によると、「商業的成功」は他の客観的指標と同様に進歩性の存在を示す要因に属し、進歩性の存否を判断する際、進歩性の存在を示す要因を総合的に考慮し、進歩性の存在を否定する要因(例えば先行技術の存在、先行技術を組み合わせる動機付けの存在等)と比較考量しなければならないとされている。いずれにせよ、知的財産裁判所がこの案件で示したとおり、大部分の知財専門家は、進歩性の有無の判断に「商業的成功」等進歩性の存在を示す要因を取り入れる目的は「先行技術を抽象的に組み合わせることがもたらす後知恵を避ける」ためであることに同意するであろう。

    しかし、上述の不服訴訟において緻密な論理構成や豊富な証拠によりその新型専利を利用する商品の商業的成功をもたらしたことを見事に証明したかといえば、そうでもない。実際、新型専利権者は、その新型専利を利用した商品のインターネット販売の開始後、大量の模倣品が出回っていると簡単に述べたのみである。

    同判決によると、新型専利権者は最初に原型となる保温フードカバーを開発し、2012年に販売を開始した。この旧型の製品は、販売期間が長くて認知度も高かったが、グーグルで検索しても模倣品は見つかっていなかった。そして、2014年にその新型専利を利用した商品が市場に導入された。旧型と新型の製品の主要な相違点は、後者は折り畳み式であるということである。2014年から2015年にかけて、当該新型専利を利用した製品は市場を席巻したが、他の折り畳み式保温フードカバーは市場に出回っていなかった。しかし、2015年にインターネット販売が開始された途端、模倣品が出現し、2017年から新型専利権者の利益を蝕むほどの低価格の模倣品が氾濫し始めた。

    上記の事実に基づいて、裁判所は、新型専利を利用した製品の商業的成功が存在したのみならず、その商業的成功は新型専利の特徴に由来すると判断した。ここで特に興味深いのは、新型専利権者が商業的成功について提出した証拠は、数ページのグーグルの検索結果に過ぎないことである。

    このように、同判決は台湾の専利法実務にきわめて画期的な進展をもたらしたが、その一方で、新型専利権者の勝訴は商業的成功の主張のみによってもたらされたわけではないことに注意すべきである。裁判所は当業者には先行技術を組み合わせる動機付けがあるという台湾特許庁の見解を覆したので、新型専利権者は進歩性の存在を否定する要因に対する抗弁にも成功したと言えよう。いずれにせよ、同判決が堅実な足場となるであろうことから、今後台湾の裁判官は他の案件で商業的成功、又は他の客観的な指標のみで進歩性を肯定することの正当性に対し益々確信を持てるようになるのではないかと思われる。

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