台湾や香港を含む中国語圏では、紫微斗数という占術が広く知られている。これは、中国の宋の時代の道士・陳希夷が考案したと言われ、人の生年月日と生まれた時刻から作成する「命盤」に示される星の組み合わせや配置によって、運命を予測するものである。最近、台湾の知的財産及び商事裁判所で、この紫微斗数に関する著作権侵害事件の民事判決(113年度民著訴字第38号)が下された。以下では、この事件と判決の要点についてご説明する。
本件の原告であるA社は、紫微斗数を用いた占いサイトを運営している。このサイトの有料サービスでは、ユーザーが性別、生年月日、生まれた時刻を入力すると、運勢鑑定を受けることができる。例えば、ユーザーのどの主星が夫妻宮にあるかを分析し、その結果から恋愛の傾向や特質を読み解き、アドバイスを提供している。これらの分析やアドバイスは、A社のサイト上に文章(以下、「本件著作物」と称する)として表示される。A社によれば、本件著作物は、紫微斗数の専門家として30年の研究歴を持つ会社代表者の甲が創作したものである。甲は、著作物の完成後にその著作権をA社に譲渡した。
一方、よくテレビ番組に出演している占い師の乙や、占いサイトを運営するB社など、数名が被告として本件で訴えられている。A社の訴えによると、乙はA社の同意なしに本件著作物を複製・改変し、改変後の著作物を中国で紫微斗数のウェブサイト(以下、「侵害サイト」と称する)を構築したC社に提供し、B社は台湾で侵害サイトを宣伝していた。
著作権侵害を証明するために、A社は公証人の前で侵害サイトを操作し、表示される文章を本件著作物と比較した。例えば、A社のサイトに「女性、1971年8月20日寅の刻生まれ」との基本情報を入力した場合、A社のサイトに箇条書きの文章が表示され、その文章に「・・・落ち着いた恋愛を追い求め、恋愛や婚姻の過程では些細な変化にも恐れ、驚きやすい」といった文言が含まれた。もう一例として、「男性、1959年8月24日辰の刻生まれ」と入力した場合、「・・・感情的すぎて、人に惹かれるときは一途になり、アドバイスは全く聞き入れないので、変な奴に惹かれやすい」といった文言を含む文章が表示された。一方、同一の基本情報(性別、生年月日、生まれ時刻)を侵害サイトに入力すると、侵害サイトに表示された文章は、前記のA社のサイトの文言と完全に一致し、又はほとんど一致する箇所があった。こうした証拠に基づき、A社は、被告等が本件著作物の著作権を侵害したとして、知的財産及び商事裁判所に提訴し、損害賠償を請求した。
A社の訴えに対し、乙は次のように反論した。かつてB社との協力関係はあったが、すでに終了している。加えて、協力関係が続いていた間も、B社に文章を提供したことはなく、侵害サイトのコンテンツも知らなかった。このように、乙は本件著作物の著作物性自体については争っていなかった。
他方、B社は次のように反論した。A社の主張では、甲が本件著作物の作者で、その著作財産権をA社に譲渡したとのことであるが、A社は譲渡を証明する証拠を提出していないため、当事者適格を欠く。なお、現在流通している紫微斗数の書籍の内容は、陳希夷が著したとされる「紫微斗数全書」に由来し、鑑定結果もこの書物に基づいている。従って、A社のサイトにおける紫微斗数による分析・鑑定の文章は、甲が独自で創作したものではなく、原創性(オリジナリティ)がない。なお、甲が「紫微斗数全書」の内容により創作しただけであるので、時代や特定のテーマ(例えば恋愛)に合わせて、結論ありきの内容に改変を加えたに過ぎない。事実、本件著作物は、既存のほかの作品と区別できる点がなく、著作人の個性又は独特性を表現していないため、創作性がなく、著作権法により保護される著作物にはあたらない。
そして、知的財産及び商事裁判所(一審)は次の理由でA社の訴えを退けた。
一、本件著作物の内容の多くは、「・・・が好き」、「落ち着いた恋愛を追い求める」、「スピリチュアリティを重視する」、「心の優しい」、「恋愛に対して・・・」といった表現の組み合わせに過ぎず、その文字の表現や構造から作者の個人的なスタイル、言葉の紡ぎ方や特色が見られない。また、A社自身も、性別、生年月日、生まれ時刻等の基本情報をA社の占いサイトに入力すると、特定のアルゴリズムによって鑑定結果が表示される仕組みであることを認めた。この類の鑑定結果は個人的な分析や解釈に基づくものではないため、著作権法で保護される著作物に必要な原創性がない。
二、原告は創作過程を証明できる原稿、下書き等を提出しておらず、本件著作物が甲によって書かれたものであるかどうかを証明できず、言語著作物として認められる要件を満たしていない。
上記の当事者らの主張や裁判所の判断には、いくつか留意すべき点がある。
一、A社は敗訴したが、B社の「甲が『紫微斗数全書』の内容に基づいて創作しただけである・・・本件著作物は既存のほかの作品と区別できる点がなく、著作人の個性又は独特性を表現していないため、創作性がなく、著作権法により保護される著作物にはあたらない」という主張は、妥当性に欠けるように思われる。一般的に知られているように、著作権が保護するのは、「表現」であり、「概念や思想」ではない。作者が紫微斗数の概念又は思想を用いて特定のテーマを分析する場合、たとえその概念又は思想に基づいて同様の、又は類似する分析結果しか得られないとしても、既存の作品とは異なる独自の文章表現がなされていれば、その表現は著作権で保護されるべきである。(判決書ではB社のこの主張の是非について明確に言及されていない。しかし、この主張は認めがたい内容であるため、裁判所も同様に判断したかと考えられる。)
二、A社は既に二審裁判所(同じく知的財産及び商事裁判所)に控訴したようである。第二審においては、本件著作物に著作物性があるかどうかが主な争点となると考えられる。台湾の著作権法では、「最低限の創意のひらめき」がある作品は、著作権の保護に値するとされている。この観点から見ると、本件著作物に含まれる「・・・落ち着いた恋愛を追い求め、恋愛や婚姻の過程では些細な変化にも恐れ、驚きやすい」という類の短い文言も、著作権の保護対象になる可能性がある。侵害サイトに、このような短い文言と全く、あるいはほとんど同じ記述が使用されている場合、著作権侵害が成立するかどうかが第二審での重要な判断ポイントになるであろう。
一方、一審裁判所は、A社が本件著作物の創作過程を証明できる原稿や下書きを提出せず、作者が自ら執筆したことを証明できない点を指摘した。そのため、A社が勝訴の可能性を高めるには、第二審で関連証拠を提出・強化する必要があると思われる。
紫微斗数で第二審の行方を予測できるかどうかはわからないが、今後、第二審裁判所の判断がどうなるのかは注目されるところである。