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どのような内容を盛り込んだ書簡が警告書になるかに関する知的財産及び商事裁判所の判断

    台湾の公平交易委員会が発布した「事業者に対する著作権・商標権又は専利権に係る警告書の送付に関する公平交易委員会の処理原則」(以下、「処理原則」と称する)は、著作権、商標権、専利権の権利者が警告書を送る行為が公平交易法(公正取引法)に違反するかどうかを判断する際の基準とされている。取引秩序を維持し、権利濫用を避けるために、「処理原則」は、権利者が自らの、又は競合業者の取引相手(又は潜在的な取引相手)に警告書を送り、他人が権利者の権利を侵害したことを訴える場合に行うべき手続きを規定している。例えば、「処理原則」では、新型専利(実用新案)を根拠として警告書を送る場合、技術評価書を提示しなければならないとされている(「処理原則」第4条第1項第3号)。

    台湾の知的財産及び商事裁判所が最近(2025年5月)下した114年度民公訴字第3号の民事判決(以下、判決一と称する)は、警告書を送る行為が「処理原則」と公平交易法に違反するかどうかを裁判所がどのように判断するかを理解する上で参考になる。

    判決一の事件では、原告のA社が電気通信工事を専門とする会社であるのに対し、被告のB社は電気通信設備の排熱工事に係るある新型専利の専利権者であるほか、その排熱工事に必要な塗料の供給業者でもある。最初、A社はB社からその新型専利の使用許諾を受け、その塗料の独占的販売代理権をも取得した。しかし、後に両社の関係が悪化した挙句、B社はA社に内容証明郵便を送り、両社間の契約を終了させ、新型専利の使用許諾を停止し、A社が電気通信業者から排熱工事を請け負うことをやめるよう請求した。なお、B社は上記のA社への内容証明郵便が添付書類として添付された書簡を、A社の協力業者のC社にも送った。C社への書簡には、B社とA社との協力関係の終止、及び新型専利の使用許諾の停止等の内容が記載されていたほか、「後続の不当な侵害行為を免れるために、これを以て通知する」という文句が盛り込まれていた。そして、B社から書簡を受け取ったC社は、A社の提供する商品及び役務に正当な使用許諾があるかどうかについて、A社に書面を送付し、説明を要請することに至った。

    その後、A社は、B社が公平交易法に違反したとして、知的財産及び商事裁判所に民事訴訟を提起した。訴訟提起の根拠として、B社がC社に送った書簡が「処理原則」の規制を受ける警告書であるにもかかわらず、B社がその警告書を送った際に、「処理原則」における、“新型専利を根拠として警告書を送る場合、技術評価書を提示しなければならない”という規定に違反するということが挙げられた。

    これに対し、B社は、自社がただその書簡で協力関係の終了と専利使用許諾の停止を通知し、専利権侵害を避けるようC社に留意させただけであり、A社がB社の専利権を侵害したと訴えたわけではないため、「処理原則」の規制を受ける警告書ではないと弁解した。

    しかし、裁判所はB社の弁解を受け入れず、その書簡が「処理原則」の規制を受ける警告書であるとした。また、裁判所の判断では、B社が「処理原則」の規定により技術評価書を提示していない状況で警告書を送り、且つその警告書が確かにA社の提供した商品が侵害品ではないかという疑念をC社に生じさせ、C社に対し説明しなければならないという負担をA社にかけたので、B社の警告書を送った行為は、A社を不正競争で生じた劣勢に陥れたことと異ならない。そこで、裁判所は、B社の警告書を送った行為が公平交易法第25条の「この法律において別途規定がある場合を除き、事業者はまた他の取引秩序に影響を及ぼすに足りる欺罔又は著しく公正を欠く行為をしてはならない」という規定に違反すると判断した。

    弊所の先般の記事に記載されているように、知的財産及び商事裁判所の112年度民公訴字第8号の民事判決(以下、判決二と称する)も、警告書と「処理原則」に係る判決である。判決二の事件では、被告のD社が自社が保有するヘアカラーリング剤を収容するアルミ袋に係る一連の技術につき、知的財産局から発明専利(特許)及び新型専利を取得している。専利取得後、D社はヘアカラーリング剤市場における多くのメーカー、販売業者、ディーラー、インターネット通販の業者に対し、「書簡の受取人はヘアカラーリング剤の製造又は販売業者なので、専利権者の専利を実施する可能性がある。それらの専利を侵害している場合、すぐ停止してほしい。そして、専利を実施したいならば業務提携の相談をしてほしい」ということを主旨とする書簡を送付した。その後、D社の競合相手のE社(原告)は、D社が送付した書簡が「処理原則」における警告書であるが、新型専利に係る主張について技術評価書を取得していないため、「処理原則」と公平交易法に違反したとして、知的財産及び商事裁判所に訴訟を提起した。

    しかし、裁判所は、Dが自社が専利権を所有し、書簡の受取人に販売・使用している商品で専利を侵害しないように注意してほしいという旨のみを書簡で通知し、E社や他の業者が専利を侵害したと名指ししていないため、D社の書簡が「処理原則」にいう警告書ではないため、「処理原則」と公平交易法に違反していないとして、E社の主張を否定した。

    判決一と判決二における裁判所の判断を比較すると、判決一では、B社からC社の書簡に、「A社との協力関係の終止」と「後続の不当な侵害行為を免れるために、これを以て通知する」ということのみが記載されており、その文面から言えば、B社からC社の書簡はただB社とA社との契約の終了と提携関係の停止のみに言及しており、A社がB社の専利を侵害したと明確に訴えていないように見える。そして、判決二の「他人が権利を侵害したと訴えて初めて警告書に該当する」という見解による場合、B社からC社の書簡が「処理原則」にいう警告書であるとされるべきであったが、何故判決一では、裁判所がB社からC社の書簡が警告書であると判断したのだろうか。

    判決一の内容をより掘り下げると、裁判所が下記の理由で、B社からC社の書簡が「処理原則」にいう警告書であると認定したと思われる。

  1. B社からC社の書簡では、A社が専利を侵害したということが明確に記載されていないが、B社とA社との契約の終了と提携関係の停止が記載されているほか、その添付書類の内容証明郵便にも、A社が排熱工事を停止するようにという内容が盛り込まれている。以上の内容にB社の書簡における「後続の不当な侵害行為を免れるために」を加えれば、C社がB社の書簡とその添付書類を受け取ったあと、「A社が従来通り引き続きC社に商品を提供する場合、A社とC社がB社の専利を侵害するようになる」と容易に推論・想像し、これは具体的にある特定の業者が専利を侵害したと訴えることと異ならない。

    (反対に、D社の書簡の主旨は、「書簡の受取人はヘアカラーリング剤の製造又は販売業者なので、専利権者の専利を実施する可能性がある。専利を侵害している場合、すぐ停止してほしい。」ということであるが、この内容から言うと、書簡を受け取った業者は、今後どの特定の業者がD社の専利を侵害するかを容易に推論・想像できないと思われる。)

  2. B社から書簡を受け取ったあと、C社がA社の商品及び役務に正当な許諾があることを説明するようにとA社に要請し、A社が説明の負担を強いられたため、B社の書簡には確かに警告書の効果がある。C社がB社の書簡の内容から、今後B社の専利がA社により侵害される可能性があることを容易に推論・想像できなければ、C社がA社に対し前記の要請をするはずはなかった。

    上記を受け、ある書簡が警告書であるかどうかを判断する場合、「他人が権利を侵害したと訴えている」ということを判断基準とするほか、判決一の見解によると、「文面上では、他人が権利を侵害したと明確に訴えていないが、書簡を受け取った者が、今後特定の業者が権利を侵害すると容易に推論・想像できる」場合も、警告書と認定される可能性が高い。なお、判決一の内容からすると、裁判所がある書簡が警告書であるかどうかを判断する場合、文面上で他人が知的財産権を侵害したとことが明確に訴えられたかどうかということのみで判断するのではなく、書簡とその添付書類の全体的な趣旨を総合的に判断すると思われる。 

    現在、判決一に対しては控訴を提起される様子がないが、判決一に示された見解が裁判所の定説になるかどうかは今後の留意を要する。一方、書簡を送る業者にとって、自社が送る書簡が警告書でないと考え、「処理原則」に規定されている手続きを踏まずに書簡を送った挙句、その書簡が警告書であると裁判所に認定され、法令違反となる状況を避けるために、他の業者に書簡を送り自社の知的財産権の存在に注意するようにと促す場合、書簡の内容が適法であるかどうかを予め弁護士に問い合わせるほうが望ましい。

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