現在、台湾商標法第70条第2号で、「他人の著名な登録商標を自己の会社名称として使用し、関連需要者に混同誤認を生じさせるおそれがあるとき、又は当商標の識別力又は信用若しくは名誉を損なうおそれがあるときは、商標権を侵害するものと見なす」と規定されている。これは、2003年商標法改正(以下は、新法という)の際に修正されたものである。それ以前は、1993年商標法(以下は、旧法という)第65条において、「著名商標を自己の社名として使用する会社は、当該著名商標の指定商品と“同じ又は類似する業務分野を経営する場合”しか商標侵害に該当しない」という制限がかけられていた。このため、旧法時代に創立した会社が、他人の著名商標を社名として異なる分野の業務を経営する場合、著名商標の商標権者は如何に救済を求めることができるのか。
台湾糖業株式会社(以下は、台糖社という)は、台糖営造株式会社(台糖営造社という)を相手に訴訟を提起し、会社名称を変更するように請求した。台糖社は、角砂糖等を指定商品として、1953年に登録を受けた登録第1675号商標(以下は、係争商標という)を挙げ、係争商標は著名商標であるため、台糖営造社は社名を変更しなければならないと主張した。台糖営造社は、法律不遡及の原則を以って、本件の争議は、創立当時の旧法を適用すべきであると抗弁した。更に、係争商標の著名分野はあくまでも砂糖等の商品であるため、「同じ又は類似する商品の業務分野を経営する」という旧法の構成要件に該当せず、旧法の規定に違反していないとした。そして、当時は旧法の信頼に基づいて創立したため、本件は信頼保護原則が適用されるべきであると主張した。
第一審と控訴審は、台糖営造社が「台糖」を会社名称とすること自体が権利侵害に該当するかどうかは、やはり創立当時の旧法により判断すべきであると判示した。係争商標の指定商品はあくまでも食品であるため、台糖営造社は「同じ又は類似する商品の業務分野を経営する」とは認めがたい。たとえ法改正以後において商標権の侵害に該当するとしても、法律不遡及の原則の手前では、現行法である新法で侵害を排除することを主張してはならないと判示した。
上告審において、台湾最高裁判所は、107年3月に判決を下した(106年度台上字第2088号民事判決)。最高裁判所は、ひとつの事象が、新・旧法時代を跨いで新法施行の後も継続して存在し、更に新たな法令に公益性がある場合、新法の法律效果の規定を以って、制定以前に遡ってその構成要件事実と結合し、将来継続に存在している法律要件の客観的な事実を適用させるのが、「要件事実への遡及的結合」であり、不遡及の原則とはまた別件であるため、法律不遡及の原則に違反することに当たらないと判示し、本件を差し戻した。
2018年11月15日,知的財産裁判所は、当該事件に対し、107年度民商上更(一)字第1号民事判決を下した。この判決で知的財産裁判所は、「台糖営造社は、旧法時代に創立したにもかかわらず、当該社名は、著名商標の中国語文字と一致する状態がまだ継続している。しかしながら、需要者に混同誤認を生じさせる恐れに対処する新法の公益性は、やはり社名への信頼保護より重んじるべきである。このため、新法の法律效果の規定を以って、新法制定以前に遡ってその構成要件事実と結合し、将来継続に存在している法律要件の客観的な事実を適用させる必要が本件にはある。従って、本件は新法を適用すべきであり、たとえ著名商標の指定使用商品が会社の業務分野と異なっているとしても、商標権侵害と見なす。また、著名商標の識別力を低下させる恐れがあるというのは、必ずしも、権利侵害側が著名商標の指定商品と同じまたは類似する使用をすることを必要とせず、その業務分野が指定商品と無関係であるからこそ、著名商標の自他商品識別機能は権利侵害側の使用行為により減殺され、また希釈化されてしまう可能性がある」と指摘した。そして、裁判所は、台糖営造社が「台糖」を社名の一部として使ってはならないと判決を下した。
上記の事件により窺えるのは、強い公益性を有する規定は、単なる一個人の信頼保護より重要であるため、私人に不利益が生じることもたまにあり得るということである。これにより、外国の商標権者の所有する著名商標が、旧法時代から現地の会社により無断に社名として、異なる営業分野において使われてしまっていたとしても、この新たな見解により、まだ救済を求める余地が残されているのであろう。