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非書面形式の商標使用許諾の効力をめぐる紛争に関する、台湾と日本の最近の判例比較

一、序言

    商標使用許諾は法律上の契約行為であり、台湾の商標法は登記対抗主義を採用している。登記していない商標使用許諾契約は、公示効果がないという不利益を被ることになるものの、当事者間では依然として有効である。

    また、台湾の商標法では、商標の使用許諾を有効にするために書面を作成することを条件としていないため、商標使用許諾契約は、当事者が口頭で合意した時点で有効となり、書面で締結する必要がない。これは台湾の実務において通説1である。

    筆者の理解では、日本の商標法でも通常使用権の許諾において同様な原則が採用されている。(日本商標法第31条第5項参照)。

    口頭で締結された商標使用許諾契約では、明確な書面記載がないため、立証時に大きな壁に直面することになる。

    双方が商標使用許諾に対し、どの程度の意思表示をする必要があったか、或いはどのような必須事項があれば商標の使用許諾をしたり受けたりの意思表示があったと確定できるのか、これらが口頭契約が成立するかどうかの鍵となる。

    しかし、商標権者が他人に商標使用を許諾し、自身が全く使用していない状況で、第三者に取消審判を請求された場合、許諾契約の有無は商標登録が取り消されるか否かの重要な争点となる。

    この記事では、台湾と日本における事例をそれぞれ紹介して、実務における口頭での商標使用許諾契約の有効性の判断過程を検討・比較したい。

二、台湾知的財産・商事裁判所113年度行商訴字第15号判決

    原告は登録第1958911号「Miamorデザイン文字」商標(以下「Miamor商標」という)の商標権者である。

    Miamor商標は第三者に不使用取消審判を請求され、知的財産局の審査を経て、三年間連続して使用されていなかったと認められ、取消の処分を受けている。その後、原告は訴願を提起したが棄却されたため、訴訟を提起した。

    裁判所は、ライセンシーの代表者の証言とライセンサーが提出した証拠(関連企業「A社」の納品書)に基づき、原告の前任者と原告及びA社にMiamor商標の商品に関するOEM関係があると認定した。

    そしてA社の代表者はかつて原告に対し、原告商標の使用の可否を尋ねたことがあったため、双方は口頭で許諾契約を締結したと推認できるとした。

    一方、使用許諾の範囲は深く追求されず、特定の指定商品に使用されていたかどうかは、証人の証言やその他の証拠に示された品目を根拠とした。

三、日本知的財産高等裁判所令和6年(行ケ)第10071号判決

    この事例も同じく商標権の不使用取消審判に関する案件である。

    原告の株式会社大勝軒は、日本登録第3105120号「大勝軒」商標(以下、「大勝軒商標」という)に対し、不使用取消審判を請求した審判請求人である。

    特許庁は審理を経て、当該案件の審判請求は「成り立たない」との審決を下し、原告はこの審決を不服として裁判所に訴訟を提起した。 

    特許庁がこの取消審判を不成立と審決した理由は、主に次の通りである。

    被告は総本店(人形町大勝軒)に代わって、商標権を管理をする立場にあったという状況を見て取ることができた。そして浅草橋大勝軒は総本店からのれん分けを受けた店舗であり、この浅草橋大勝軒と被告との間で、大勝軒商標をその指定役務に使用することについて黙示の合意(又は口頭での明示の合意)があったと推認できた。

    この為、浅草橋大勝軒はこの商標の非独占的通常使用権者であるとみなされ、この商標の要証期間中に継続して、商標を指定役務について使用していたとして、その使用事実が認められていた。    

 これに対し、裁判所は異なる見解を示した。

    まず、通常使用権設定が成立しているかどうかに対し、商標権者が第三者に登録商標と同一の商標の使用を容認する態度を示していたとしても、それをもって無償の通常使用権の設定合意(黙示の合意)が成立したとたやすく認めるべきではないと判断した。

    即ち、通常使用権は指定商品又は指定役務について登録商標を使用する権利であり、譲渡することができ、登録を受ければ、他者に対抗する効力を得ることができるものである。

    こうした権利性に鑑みれば、通常使用権設定の黙示の合意が成立したとするには、単なる「黙認」にとどまらず、「権利の付与」に向けた客観的に確認可能な、明確かつ積極的な意思を有する必要があるとした。   

    裁判所は被告が淺草橋大勝軒に権利の付与に向けた明確かつ積極的な意思を示していないとして、合意が成立したと考えることはできないと判断した。

    更に補足すると、一般人が「通常使用権」なる法律用語を知らなかったとしても、その内容に沿う効果意思を持って相手方との意思の合致に至ったと認められるのであれば、通常使用権設定の合意(口頭の合意)の成立を認めることに妨げはないが、この案件において被告の代表者の当初の話では「本件商標を使用することのできる権利の創設的な設定」にあったわけではなく、そのような効果意思を有していなかったことは明らかであった。

    実際に、浅草橋大勝軒はこの大勝軒商標が出願される前から継続的に「大勝軒」商標を使用していた事実があり、日本商標法の商標先使用権に関する規定に基づくと、客観的にも、通常使用権の設定を受ける必要などなかったのである。

    以上の理由により、裁判所は「大勝軒」商標が3年間連続して使用されていないと判断し、その登録を取り消すべきであると裁決した。

四、比較と議論

    この記事で紹介した、似通った争点を抱える台湾と日本の2つの判例は、いずれも2024年末に下されたものである。

    台湾のMiamor商標案件において、商標権者とA社の間には明確なOEM関係があり、且つA社も実際に商標権者に製品を出荷していた。このような相互取引関係から、商標権者とOEM工場は、単に互いの使用を黙認したのではなく、積極的な同意があったと推察しやすく、商標許諾関係が成立するには十分であったと考えられる。

    当事者が提出できた証拠に限りがあり、裁判所がその論拠をさらに強化することはできなかったが、仮に当事者が商標の使用に関する他の情報、例えば、パッケージのデザイン、商品の内容などに関する協議過程などを補足できれば、許諾関係の存在をさらに強化できたはずである。

    一方、日本の大勝軒商標訴訟の最大の争点であった通常使用権の設定の有無は、事件からかなり時間が経っている上に、当事者の陳述書や取り調べの証言しか無く、事実関係を明らかにするのは極めて困難であった。

    しかしながら、日本の裁判所は口頭で通常使用権の設定を受ける行為により、商標権者が客観的に確認可能な、明確かつ積極的な「権利付与」の意思を有していることを基準として定めている。

    口頭で許諾契約を成立した場合、紛争が生じたときに、契約の意思表示が本当にこの基準に従ったものであったかどうかを明確に証明することは難しいというのが筆者の見解である。

    特に、今回紹介した事例は電話での話であり、話を裏付ける他の証人や録音がなかったため、曖昧な記憶によって事実と矛盾する証言がなされやすい状況であった。この基準が、口頭による商標通常使用権の設定成立の有無を判断するための普遍的な基準となるかどうかについても、観察してみる価値があると思われる。

五、商標権者へのアドバイス 

    商標使用許諾行為は非常に簡単に成立するように見え、通説として口頭で商標使用許諾関係を成立できると認定されているが、時間がかなり経っている上、書面による証拠がない状況では、曖昧な記憶や証言によって当事者の権益を損ねるおそれがある。

    商標権者及びライセンサーの利益を保障する最善な方法としては、もちろん、適切かつ完全な商標使用許諾契約書を作成し、両当事者が署名した後に、商標使用許諾登録を管轄当局に申請することである。

    一歩譲って、許諾登録をする必要がないと思われる状況でも、少なくともライセンサーとライセンシーの間の権利義務関係を書面で明確に定義するほうが適切である。

    そうすることで、将来的に紛争が生じた場合に、双方が立証困難な憂き目に陥って法的関係が不安定になったり、訴訟の不確実性が生じたりするのを防ぐことができる。


1 最高行政法院100年度判字第191号判決。

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