新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、多くの商標権者を商標使用の中断又は中止、若しくはビジネスモデルの改変に追い込んだようである。本文は、これらの行為が台湾において商標の不使用取消を導くかどうかについて解説する。
台湾における感染状況
COVID-19のパンデミックが勃発して以来、台湾当局がまん延を防ぐための幾つかの先制措置を断行してきたため、2020年は年間を通してCOVID-19が抑制された状態となっていた。
だが、2021年の5月に、台湾は最初の、且つ急速なまん延に直面した。その結果として、警戒レベルが「3」(「4」が最高)となる状態が7月下旬まで69日間連続で続いた。そして、2021年8月から再び感染者数が横ばい状態となっている。
警戒レベル3の期間中、娯楽施設と一般公開の宗教行事を停止するよう命じられたほか、飲食店が持ち帰りサービスのみを提供できるようになっていた。多くの他の業種は、当局にビジネスモデルを変更するよう命じられていないが、変更が可能な場合、自ら変更の道を選んでいた。その結果として、多くの商標権者は、その商標使用を中止し、若しくは商標使用の形態を変更した。だが、台湾の商標法には、正当な事由無しに登録してから3年間使用していない、又は継続して3年間使用していない場合、商標が取り消されるという規定がある。
そして、上記の事情は、以下の問題を生み出した。
- COVID-19の影響は、上記の「正当な事由」に該当するか
- 上記の1.と類似した問題であるが、COVID-19のまん延防止のため商標の指定役務を停止するように命じられた事実に基づき上記の3年間という期間を延長することができるか
- COVID-19のパンデミック期間中、外国の商標権者が台湾の登録商標を保護するための最善の方法は何であるか
正当な事由
弊所が知る限り、現在、台湾の知的財産局も裁判所もCOVID-19の影響が商標を使用しない「正当な事由」に該当するかどうかについて、意見を開示していない。しかし、下記の条件を満たせば、COVID-19の影響が「正当な事由」に該当する可能性があると合理的に推測できる。
- 営業の停止が、台湾当局のまん延防止措置に従ったものである(例えば上記の警戒レベル3の発令により休業した酒類提供飲食店等)。
- COVID-19の影響が3年間の不使用を引き起こすほど長引くものとなった。
休業が台湾当局のまん延防止措置に従ったものであるかどうかを問わず、理論的には、COVID-19の影響による休業が三年未満であれば、商標を使用していない期間が3年以上であることとCOVID-19に因果関係がないと認定される可能性がある。正当な事由と認定されるには、2021年中頃の69日間の警戒レベル3の期間は短すぎると言わざるを得ない。
ちなみに、知的財産及び商事裁判所の判決によると、商標不使用の正当な事由は、「事実上の障害、又は商標権者の責に帰さない事由」であり、例えば、
- 薬品の販売許可が審査中で未だに販売されていない状態
- 商品の輸入が法令で禁止されている状態
- 海上運送の中断、原料不足、若しくは天災で(台湾における)工場や機器に重大な損害が生じ、一時的に生産・販売できない状態
などが挙げられる。
三年の期間は延長できるか
まん延防止に向けた当局の命令により役務を停止した業者が、3年間の不使用で商標登録が取り消されようとした際に、3年間という期間の延長を請求できるかどうかについて、知的財産局がその請求を許可する兆しは見られない。一方、現在から3年後、このような紛争が起こる可能性はある。つまり、自分の商標が登録後、その指定役務が当局の命令で停止を強いられ、少なくとも69日間商標の使用ができなくなったので、その3年の期間は延長されるべきであると請求する商標権者が現れてくると考えられる。だが、商標権者にこのような請求をする権利があるかについては、かなり疑問が残る。
商品・役務の同一性
また、COVID-19のパンデミック期間中に指定商品・役務と異なる商品・役務に商標を使用しても、知的財産局に真正な商標使用と看做される可能性はないだろう。それどころか、指定商品・役務と異なる商品・役務に商標を使用することで他人の商標を侵害するリスクに気を付けなければならない。
例えば、バー経営者が当局から、COVID-19のまん延を抑止するためにバーの一時休業を命じられたため、自分の役務を店内の飲食提供からフードデリバリーサービスに変更することにしたとする。顧客に飲食物を配送する場合、もとより「バー」を指定役務とする登録商標が「カクテル、食事とスナック」に使用されることとなるが、これは台湾商標法上の真正な商標使用ではない。加えて、もし「カクテル、食事とスナック」に指定された類似商標が以前から存在していれば、このバー経営者は他人の商標権を侵害するおそれがある。
外国企業が注意すべき点
最後に、下記のように台湾で事業を展開している外国企業が注意すべき点がある。
- COVID-19パンデミック期間中、たとえ商品と役務の提供が困難になっても、不使用により登録商標が取り消されることを避けるために、商標権者は、適宜なマーケティング手段を使って商標使用の継続に最善を尽くさなければならない。とりわけ、台湾現地の企業に商標使用を許諾することは、商標使用の継続に有効な手段である。もちろん、商標使用の許諾を受けた台湾現地の企業はその商標を使用しなければならない。
- (COVID-19の影響が長期化する場合)外国の飲食店が、その母国におけるCOVID-19の影響で台湾で自社の商標を使用できなくなったことがあっても、それが台湾において商標不使用の正当な事由となると思い込んではならない。
- 商標権者が自分の商標を使用しながら業務を拡大・多様化しようする場合、たとえCOVID-19の影響が原因の一部であっても、このような計画を実行する前に、予め他人の商標権を侵害するリスクがあるかどうかを検討し、必要であれば新たな商標出願をして保護対象の拡大を図ることが望ましい。