台湾の営業秘密法第2条によると、当法の保護対象となる営業秘密は、一般的にその類の情報に係る者が知らないものでなければならず、つまり、「秘密性」を備える必要がある。だが、秘密性の有無に関する判断基準はどのようなものであろうか。より具体的な事案に即して言えば、営業秘密とされる競合業者の製品に関する情報を取得して営業秘密法違反で起訴された業者が「リバースエンジニアリング(逆行工学)を使ってその情報を知ったので秘密性がない」と抗弁した場合、その抗弁は成り立つのであろうか。これについて、台湾最高裁が最近の110年度台上字第3193号刑事判決で示した見解は参考に値する。
この事件の概要は下記のとおりである。A氏は、B社の設立者であり、B社の総経理として某OEM業者に両面紫外線成形機(以下、成形機という)の製造を委託した。そして、第三者のX社が、件の委託製造を知ったあと、営業秘密侵害を理由にAを被告として刑事告訴を提起した。X社の主張によると、A氏はかつてX社の総経理等を務めており、X社と秘密保持契約を締結したことがあった。そして、X社はクライアントのY社の依頼を受け、成形機の設計・製造をしたことがあり、当時の連絡窓口がまさにA氏であった。また、X社の設計部門は、成形機の設計図の画像ファイルを作成し、X社は設計図をもとに成形機を製造しY社に提供した。その画像ファイルは、X社の社員が自力で作成したもので、一般的に知られているものでない上、設計部門専用のサーバーに保存され、権限がある者のみがパスワード入力でアクセスでき、秘密性があるものであった。検察は、A氏が不法にX社の営業秘密を利用した疑いがあるとして、捜索の過程で確保したA氏が第三者に送った画像ファイル付きの電子メールを証拠として、A氏を起訴した。
A氏は、「既に公に販売されている成形機を分解してその内部を描く方法でパーツの内訳を知ることができるので、成形機の画像ファイルにも秘密性がない」ことを理由に、ファイルを第三者に送ったことで営業秘密法違反となることはないと抗弁した。
これに関して、知的財産及び商事裁判所はA氏の抗弁を受け入れ、上記の画像ファイルが営業秘密ではなく、A氏が営業秘密法第13条の1第1項第2号の「営業秘密を知り又は所持しながら、許諾を経ず又は許諾の範囲を超えてその営業秘密を複製、使用又は漏洩した場合」の犯罪を構成しないと判断した。
だが、最高裁は下記の理由に基づいて知的財産及び商事裁判所の判断を覆し、事件を差し戻した。
一、営業秘密法における営業秘密とは、公衆一般は勿論のこと、関連する専門分野に属する者も知らないものを指す。一般的に知られているもの、又は容易に知得できるものには秘密性がない。一方、第三者(競合業者)はもとよりリバースエンジニアリングを駆使して他の業者の製品を製造した関連技術等の情報を知ることが可能であるが、それらの情報が他の業者の営業秘密でないと直ちに認定してはならない。つまり、リバースエンジニアリングの実施に相当のコスト(金銭、時間、専門機器、専門知識等)が必要であれば、その製品が内含する情報は容易に知得できるものと言えない。従って、その情報に秘密性があり、営業秘密の保護を受けるべきである。
二、第三者が、自分が取得した情報がリバースエンジニアリングを通じて容易に知得できるものであると主張する際、合法的な方法で行ったかどうかを明らかにしなければならない。不正な方法(例えば市場に出回っていない試作機を窃取すること)で情報を取得したならば、たとえ情報がリバースエンジニアリングを通じて容易に知得できるものであっても、営業秘密法の適用をその立法趣旨に合致させるために、リバースエンジニアリングを理由とする抗弁をしても裁判所に受け入れられない。
三、この事件では、成形機のパーツが多く、分解手順も複雑であるので、成形機を分解後、果たして相当の時間や費用をかけずに、全てのパーツの構造・相対位置・サイズを逐一測量・描画して同一の画像ファイルを得られるかは疑わしい。原審が、合法的な方法で成形機を取得してリバースエンジニアリングを実施する際の全てのコストを総合判断することで情報が容易に知得できるものかどうかを明らかにせずに、直ちに画像ファイルが内含した情報が容易に知得できるもので秘密性がないと判断したのは早計であり、営業秘密法の立法趣旨に合致しない。
四、なお、原審は、A氏が不明な方法で画像ファイルを入手したとしたが、正当な方法で入手したかどうかはリバースエンジニアリングの抗弁が成り立つかどうかに係る。この部分が明らかにされていないため、最高裁としては原審の法適用が妥当かどうかを判断できない。
上記を受けて、今回の最高裁からは、営業秘密に係る事件で被告がリバースエンジニアリングを実施したことを理由に、取得した情報に秘密性がないと主張できるかどうかについて、下記のポイントが読み取れる。
一、被告が不正な方法で情報を取得した場合、リバースエンジニアリングを実施したことを理由に、取得した情報に秘密性がないと主張することができない。例えば、他人の市場に出回っていない試作機を盗み出してリバースエンジニアリングを実施した場合、取得した情報に秘密性がないと主張できないのは勿論のことである。また、被告が不正な方法で機器の設計図の画像ファイルを取得した場合、「リバースエンジニアリングさえ実施すれば、私もこのような画像ファイルを描ける」というような弁解でその情報に秘密性がないと主張することができない
二、被告が不正な方法で情報を取得していない場合において、リバースエンジニアリングの実施に相当の資源・金銭・時間が必要であるときは、その情報に秘密性がないと主張することができない。
ところで、営業秘密法によると、自己若しくは第三者の不法利益を図り又は営業秘密の所有者の利益を損害することを意図し、営業秘密を漏洩した場合、五年以下の有期懲役又は拘留に処し、一百万台湾ドル以上、一千万台湾ドル以下の罰金を併科することができる(同法第13条の1第1項)。罰金を科するとき、犯罪行為者が得た利益が罰金の最高額を超える場合、その得た利益の三倍の範囲内で斟酌して加重することができる。外国、大陸地区(中国)、香港又はマカオで使用することを意図し、同法第13条の1第1項の罪を犯した場合、一年以上十年以下の有期懲役に処し、三百万台湾ドル以上五千万台湾ドルの罰金を併科することができる。
この事件は、知的財産及び商事裁判所に差し戻されたので、最高裁の見解がどのように知的財産及び商事裁判所の今後の判決に反映されるかに注意していきたい。