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台湾労働基準法における「労働災害」についての新たな判例

 台湾法において、「労働災害」(台湾労働基準法第59条)とは、労働者が業務中に事故に遭うこと、又は業務上疾病にかかることを指す。労働者が、労働災害に被災した場合、雇用主は、法律により被雇用者に対して補償義務を負わなければならない。

 上記の労働者が業務中に事故に遭うこととは、如何に定義されるものであろうか。台湾の判例実務において、多数説として、労働者が業務中の間はもちろんのこと、労務の提供に伴う私的空間と勤務地の往復も含まれている。例えば、通勤経路の道筋における個人的な事情(通勤と関係ない行為、例えば友人と食事に行く等)によらない事故は、労働災害に該当する。また、適切な時間帯における職場と住居の往復での交通事故でなければ、労働者は事故に遭ったとしても、労災には該当しないと指摘する判例もある。

 2018年8月29日に、台湾最高裁判所により、労働災害補償を請求する事件に対する注目すべき判決が下された(最高裁判所2018年台上字1056号判決)。その事案における労働者の遺族側の主張は、被雇用者が使用者の工場の中におけるメンテナンスゾーンから硝酸槽に転落したことは、労働災害に該当し、雇用主は労働基準法第59条の規定により労災の補償責任を負うべきであり、更に、工務部主任長などが転落可能性のある区域で警告表示及び安全柵を設置していなかったことは、民法での不法行為に該当し、損害賠償を負わなければならないとするものであった。一方、雇用主である会社側は、事故の現場は立ち入り禁止の区域に当たり、当該労働者が当工場内で受け持つ仕事内容は、工場内の通路で天井クレーンを操作するものであり、普段の業務を遂行する作業場所には該当しないため、そもそも安全柵などを設置する必要がなく、係争事故も労働災害に該当しないはずであると主張した。

 第一審と第二審の裁判官の見解としては、被雇用者は当時天井クレーンを操作する作業を行っておらず、転落箇所もその作業場所ではないため、安全柵を設置する義務はそもそもなく、しかも、係争事故の内実は、被雇用者が勝手にその業務とは無関係な立ち入り禁止区域であるメンテナンスゾーンに入り込んでしまったことで事故に遭ったわけであったため、業務遂行性及び業務起因性が認められず、労働災害に該当するとは認めがたいと判示した。

 しかしながら、最高裁判所は異なる見解を示した。まず、確かに原審の判示した通り、立ち入り禁止区域に安全柵が設置されていないことは、労働者安全に関連する法律に違反しておらず、不法行為の損害賠償責任こそ該当していない。しかしながら、労災補償の規定からすれば、この制度は、「仕事と関わる災害」を被災した被雇用者に対して、即時且つ有効な補償給付、医療介護及び職場復帰支援のためにあり、被雇用者及び被扶養者である家族は貧困の窮地に追いやられてしまって社会問題を起こしてしまわないように救済するためにある。その趣旨とは、故意・過失のあることとして義務に違反する、当の雇用主に対して制裁を加えたり責任を課したりするためではなく、労働者とその家族の生存権を保障し、個人及び社会的な労働能力を温存するためにある。従って、労働災害補償制度の特徴とは、無過失責任主義であり、即ち、雇用主が業務上における災害の発生につき、主観的に故意・過失に当たるか否かは一切問わず,皆補償責任を負わせるべきであり、一方、被雇用者の過失があるか否かは、その権利を減損させるものではないと判示した

 労働災害の認定につき、もちろん労働者の就業の場所において、或いは作業、業務上の原因による災害を指すのであるが、いわゆる就業場所とは、労働者を雇用して仕事させる仕事場、労働者の業務提供のために設置が必要である場所、或いはそれに付随する建物等も含まれている。更に、前記の労働災害補償制度の立法趣旨を鑑み、就業場所及び業務中の定義としては、やはり適宜且つ広く捉えるべきである。即ち、凡そ労働者が勤務時間において、雇用主の提供している、労働者が労働契約を履行するために労働を提供する場所において、被災してしまった場合、皆労働災害に該当すると認定すべきであると判示した。このため、当該事件は労働災害に該当するか否かにつき、やはり再検討する余地があるとして、台湾高等裁判所に差し戻し、再審理を命じた。

 まとめて言うと、労働者が勤務時間において、雇い主の提供した就業の場所で事故に遭った場合、たとえ立ち入り禁止の区域であるとしても、雇い主が労働基準法により無過失責任の補償義務が課される可能性はやはりあるということである。この点には留意しなければならない。

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