台湾における特許権侵害訴訟では、被疑侵害者(以下、「被告」)が抗弁として「先使用権」を主張する場合、《専利法》第59条第1項第3号の原則に基づき、係争特許出願日以前に台湾において既にその特許に相当する技術を実施していたか、もしくは、その技術の実施のために必要な準備を完了していたことを十分に証明できる証拠を提示し、被告製品に当該係争特許の排他権が及ばないことを立証する必要がある。
たとえば、物の発明に対して先使用権を主張する場合、一般的に、被告製品に実施されている技術的特徴が係争特許が有する技術的特徴と同一、または実質的に同一であることに加えて、被告がその製品を係争特許出願日以前に既に製造、または販売していたか、もしくは、それに係る必要な準備を完了していたかどうかを証明しなくてはならない。
特筆すべきは、台湾の知的財産及び商事裁判所(以下、「知財商裁」)が、被告側に上記の原則の範囲をより拡張したことである。例えば2024年5月のある判決(知財商裁112年度民著訴字第46号)では、たとえ被告製品が係争特許出願日以降に製造、または販売されたものだとしても、その被告製品が係争特許出願日以前に製造、または販売された別の製品と同じ技術的特徴を有すると証明できる場合、被告は被告製品の先使用権を主張し得ると同知財商裁は判決を下した。この判決は、技術的特徴の一貫性を以て先使用権の主張を成し得た注目の判例である。
上記の判例で、被告会社は被告製品(A)を係争特許出願日以前に製造・販売していたと直接的には立証できなかったものの、一連の証拠により、係争特許出願日の数年前に既に係争特許の特許請求の範囲を含んだ別の製品(B)を製造・販売していたことを立証した。また、被告製品(A)が製品(B)と同一の技術的特徴を有していることも立証したため、被告製品(A)が、先使用権により係争特許の特許権の効力が及ばないものであるとした被告会社の主張が認められた。
このことを踏まえ、たとえ被告製品とその先使用権の証拠として挙げた更新前の製品が互いに同一でなくとも、当該被告製品が、係争特許出願日以前に製造され、販売されていたその製品(本判例では製品Bに相当)と同じ技術的特徴を有すると証明できる限り、被告は抗弁として被告製品の先使用権を十分に主張し得ると知財商裁は判決を下した。
すなわち、この判決は、もしある製品が更新を重ねたとしても、その中核となる技術的特徴自体が変わらない限り、更新前の製品に当該技術を実施していた証拠により更新後の製品の先使用権を主張でき、ひいては特許権侵害責任も回避できることを裏付けている。
ただし、上記のような訴訟において知財商裁が先使用権を抗弁として認めるかどうかは、被告が提出する証拠にどれほど説得力があるかにより大きく左右される。台湾では、今回のような訴訟において被告側に比較的厳格な立証責任を課している。したがって、各企業は万が一特許権侵害訴訟において先使用権を効果的な抗弁として主張することになる場合に備え、日頃から念のため自社製品の技術更新履歴をしっかりと残し、輸出申告書、製品カタログやその製品に関するWebページ、または製品導入用マニュアルなどのような、製品の技術的特徴とその製品が公的に実施された日を紐づけられる証拠を提出できるようにしておくことが求められる。