化学、材料、バイオ医薬分野の特許案件において、実施例や比較例などの実験データは、通常、特許を請求しようとする発明の具体的な態様を説明するために明細書に記載されるものであり、実施例と比較例の対比により、発明の効果が証明されることになる。また、発明の効果を以て請求する発明の進歩性を主張しようとする場合、明細書内の実験データに加えて、実験データの補足も実務上許容されている。
しかしながら、補足実験データは、出願当初の明細書に記載されていたものではないため、補足実験データに基づく発明の効果にかかる主張は果たして参酌されるべきものなのであろうか。また、どのような条件の下で参酌されることが妥当なのであろうか。これらの疑問について、最近の知的財産及び商事裁判所の判決(111年度行専訴字第15号行政判決)からその答えがうかがわれる。
当該判決は、無効審判に起因するものであり、特許権者が発明の効果を証明するために提出した補足実験データに対し、無効審判請求人がそのデータを参酌すべきではないと主張した。現行の特許審査基準の規定及びこの判決から得られる所見は、以下のとおりである。
一、補足実験データの許容理由
- 現行の審査基準は、「出願人が出願時または審査過程において補助的な証拠資料を提供し、発明が進歩性を有することを主張した場合、併せて審査すべきである」と定めており、このことは、補足実験データの許容における基礎となっている。
- 同判決は、「発明の進歩性を判断する際の有利な効果というものは、主に、その発明が達成する効果と従来技術による効果との差異にある。明細書を作成する段階において、将来、審査官がどのような先行技術を基に新規性・進歩性等の特許要件につき判断するのかは、特許権者(出願人)にとって到底予見できないものであるため、如何なる従来技術との対比においても、請求する発明の効果面での差異を示し得るような資料の提示を要求することは無理難題であると言え、発明の効果を証明するための補足実験データの提出を制限することも合理的ではない」と説明している。
二、補足実験データの許容条件
- 現行の審査基準は、補足実験データを進歩性主張の基礎とする許容条件につき、明確に定めていない。
- 同判決は、「特許権者が無効審判の段階において提出した補足データが、次の条件を満たす場合、進歩性の有無を判断するための根拠となり得る。―請求項の限定事項を満たすと所期した効果が達成されることを示すような実施例・追加実験例等のデータに該当し、かつ、これらのデータにより示される効果が出願当初の明細書、特許請求の範囲または図面の記載から導かれるものである」との原則を示している。
以上から、特許審査基準並びに知的財産及び商事裁判所による上記判決は、明細書作成時の客観的制限を考慮し、出願日以降の、発明の進歩性を証明するための補足実験データの提出を許容している。とは言え、補足実験データは出願当初の明細書に記載されているものではないため、第三者の利益を考慮し、濫用を避けるために、補足実験データにより証明された効果は、出願当初の明細書、特許請求の範囲、または図面の記載内容から導き出されるものでなければならないという条件が課せられている。このことは、化学、材料、バイオ医薬分野での出願にかかる実務において、特に留意すべき点であると言える。