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商標の「善意の先使用」に関する最近の判決

    「善意の先使用」は、台湾商標法第36条に規定される商標権の効力を制限する事由の一つである。そして、台湾の知的財産及び商事裁判所が最近言い渡した判決(114年度民商上字第14号)に係る商標権侵害の民事訴訟において、「善意の先使用」の成否が紛争の大きな焦点となった。本稿では、当該判決の要旨を以下のとおりまとめる。

【紛争の背景】

    上記の民事訴訟が提起される前に、これに関連する行政訴訟があった。その行政訴訟の原告であるA社はレンズの卸売業者であり、台湾全土の眼鏡店へのレンズ販売を主な事業としている。台湾国内の眼鏡店のうち、約2,000店がA社の取引先であると推定されている。A社は2017年に、台湾において「光動能」という名称を使うレンズの販売を開始した。A社は「光動能」という文字を使用する前に、商標検索システムを通じて他社がレンズ製品の商標として同文字を登録していないことを確認したものの、自ら商標登録を出願していなかった。その後まもなく、A社の従業員は、競合他社であるB社が2018年4月25日に「光動能」の文字商標を出願し、レンズ等の商品を指定商品として同年11月に商標登録を取得したことに気付いた(以下、B社が登録した「光動能」商標を「本件商標」という)。A社は、B社が商標スクワッティングを行ったと判断し、商標法第30条第1項第12号に基づき、知的財産局に対し本件商標の無効審判を請求した。

    この期間中、「光動能」という商号で眼鏡店を経営するCという個人も、B社が商標スクワッティングを行ったことを理由に、本件商標の無効審判を請求した(C自身は「光動能」の商標登録を出願していなかった)。B社は法的紛争を避けるためか、本件商標をCに譲渡した。Cは、B社から本件商標の譲渡を受けたことにより、A社が提起した上記の無効審判、およびそれに続く訴願や行政訴訟の手続きにおいて当事者の地位を承継することになった。

    その後、A社の無効審判請求は知的財産局によって棄却された。棄却の理由は、A社が「光動能」の使用を開始する以前から、B社はCの眼鏡店と取引関係にあり、B社はA社よりも早く「光動能」という文字を認識していたため、B社は商標法第30条第1項第12号に違反する商標スクワッティングを行っていない、というものであった。A社はその後、これを不服として訴願および行政訴訟を提起したが、いずれも訴願機関および知的財産及び商事裁判所において棄却された。A社が最高行政裁判所に上訴しなかったため、本件は確定した。

    その後、Cは一転して、A社が「光動能」という文字を無断で使用してレンズを販売したとして、本稿冒頭で述べた民事訴訟を知的財産及び商事裁判所に提起し、A社が本件商標を侵害したと主張した。

【両当事者の主張と裁判所の判断】

    A社が主張した抗弁の中には、「善意の先使用」の主張が含まれていた。すなわち、A社は、本件商標の出願日(2018年4月25日)よりも前の2017年には既に「光動能」という文字を使用していたと主張した。さらに、A社の主張は、A社がその文字を使用する前に、B社(本件商標の出願人)が既に「光動能」という名称を使用していたことを知ることはありえなかったため、「善意」であり、したがって、A社による「光動能」の使用は、A社の行為時に適用されるべき旧商標法第36条第1項第3号に規定される「商標権の効力は、次に掲げる状況には及ばない……三、他人の商標の登録出願日より前に、善意で同一又は類似の商標を同一若しくは類似の商品若しくは役務に使用している場合」に該当し、A社は「善意の先使用」を主張できる、というものである。

    A社の「善意の先使用」の抗弁に関し、Cは、A社が「光動能」という名称を使用する以前に、A社はCの眼鏡店に対して商品を販売しており、両者は取引関係にあったと主張した。したがって、A社はCが眼鏡店の商号として「光動能」を使用していることを既に知っていたため「善意」を欠いており、Cに対して「善意の先使用」を主張することはできない、とCは主張した。

    しかしながら、A社は、「善意の先使用」が適用されるか否かについては、A社(先使用者)がB社(本件商標の出願人)に対して善意であるか否かのみを判断すれば足りるのであり、A社がCの眼鏡店の商号を知っていたか否かは無関係であると主張した。A社の主張の要旨は以下のとおりである。

  1. 知的財産及び商事裁判所の過去の判例によれば、「善意の先使用」の規定の趣旨は、「登録主義」と「使用主義」を調和させること、すなわち、商標登録の出願人と先使用者(「善意の先使用」を主張する者)との利益の均衡を図ることにある。Cは本件商標の出願人ではないため、この規定によって利益の均衡を考慮すべき対象とはならない。
     
  2. 過去の最高行政裁判所の判決によれば、商標権が他人に譲渡された場合、譲受人は当該商標に関する一切の権利および瑕疵を承継する。本件において、A社は「善意の先使用」をもってB社による本件商標権の行使に対抗することができる以上、B社が本件商標をCに譲渡した後においても、A社は「善意の先使用」をもってCによる本件商標権の行使に対抗することができる。
     
  3. 知的財産及び商事裁判所の過去の判例によれば、「善意の先使用」は、行為者が自ら商標を創作したことを要件とするものではない。したがって、善意の商標先使用者は、当該商標を最初に創作・使用した者である必要はない。ゆえに、CがA社よりも先に「光動能」を使用していたとしても、Cの法的地位がA社に優先するわけではない。A社が「善意の先使用」を主張できるかどうかは、Cが「光動能」を使用した時期や、A社がその存在を知っていたかどうかとは無関係である。

    本件の第一審(知的財産及び商事裁判所)では、Cの主張には理由がないと判断されたが、A社が善意であったか否かという争点については、一審裁判所は詳細な判断を示さなかった。そして、二審裁判所(同じく知的財産及び商事裁判所)は、その判決(すなわち上記の114年度民商上字第14号)において一審判決を維持した。二審判決では、CはB社から本件商標の譲渡を受けたため、B社が商標権を行使する際に受けるべき制限をCも同様に受けるべきであることから、Cの眼鏡店の商号を知っていたか否かは関係なく、A社はCに対して「善意の先使用」の抗弁を主張することができると判示した。その後、Cが第三審(最高裁判所)へ上訴しなかったため、判決は確定した。

    本件の特異な点は、本件商標の譲受人であるCが、本件商標を取得する以前に、本件商標と同一または類似する文字を自らの商号として使用していたことにある。このため、譲受人からは、「善意の先使用」の規定における「善意」とは、登録出願人に対する善意だけでなく、商標登録出願前に既にその商標と同一の文字を使用していた譲受人に対する善意も含むべきであるとの主張の正当性を考慮する余地が生じる。言い換えれば、譲受人が本件商標の譲渡を受けた後に初めて当該文字を使用していれば、この紛争は発生しなかった可能性があるということである。これはおそらく、「善意の先使用」の規定を制定した立法者が想定していなかった状況ではないかと考えられる。いずれにせよ、本判決で示された「商標権の譲受人は、元の権利者の負うべきすべての権益と制限を承継しなければならない」という原則は、こうした問題に対して重要な示唆を与えるものとなるであろう。

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