近年、台湾のテレビ業界の複数企業が、著名なセットトップボックス(以下「本件セットトップボックス」)の販売業者に対し、テレビ番組の公衆送信権侵害を理由とする民事訴訟を提起している。
これらの企業(以下、「原告」と総称する)は、本件セットトップボックスが違法に傍受されたテレビ番組の信号を送信可能であるため、これを購入したユーザーが原告のテレビ番組をリアルタイムで視聴できる状態になり、結果として原告が有するテレビ番組の公衆送信権が侵害されていると主張している。
原告らは、台湾において本件セットトップボックスを販売していたA社、B社及びそれぞれの会社責任者(以下、「被告」と総称する)に対し、台湾の知的財産及び商事裁判所に著作権侵害訴訟(第一審)を提起した。
第一審裁判所は、本件セットトップボックスには関連プログラムやその他の違法アプリが含まれておらず、被告らは単にセットトップボックスの輸入業者および販売業者に過ぎず、原告の公衆送信権を共同で侵害する故意または過失があったことを証明する証拠がないと判断し、訴訟を棄却した。原告が控訴したところ、二審裁判所(同じく知的財産及び商事裁判所)は最近、113年度民著上字第8号判決を下し、第一審判決を破棄して、被告による権利侵害を認定した。
原告の主張に対し、A社は以下のとおり主張した。A社の行為は、本件セットトップボックスを当局の審査に提出すること、商標登録、および商標許諾により許諾料という利益を得ることのみである。A社は、本件セットトップボックスの開発、製造、代理、または小売りのいずれの業者でもなく、本件セットトップボックスのユーザーが、どのソフトウェアをインストールするかを自ら決定する必要があり、A社は本件セットトップボックスを一般ユーザーに直接販売したことがなく、その使用方法に関しユーザーに指南したこともない。
一方、B社(実際に本件セットトップボックスを販売した企業)は、次のように主張した。B社が販売したのは、本件セットトップボックスの「クリーン版」である。原告は、本件セットトップボックスに正体不明の人物によって開発された特定のソフトウェア(以下「本件ソフトウェア」)が搭載されており、ユーザーが原告のテレビ番組をリアルタイムで視聴できる状態になっていると主張するが、当該ソフトウェアは当初から本件セットトップボックスに組み込まれたものではない。さらに、被告は自社ウェブサイトにおいて、「本件セットトップボックスにはソフトウェアが組み込まれておらず、インストールの指南も提供できない。カスタマーサービスは、違法行為に該当する可能性のある情報には対応しない。ご購入前にご確認ください」と明記しており、違法コンテンツを含むサービスを提供していないことを明確に示していた。
上記のように、被告は「違法番組の視聴に使用されたソフトウェアは、被告とは無関係な出所(例えば、海外に設置されたカスタマーサービスや作成者が不明なウェブサイトなど)からユーザー自身が入手したものであり、被告とは無関係である」という抗弁をもって、侵害の故意を否定する戦略をとったとみられる。しかし、二審裁判所はこの抗弁を受け入れなかった。
二審裁判所は以下の判断を示した。本件セットトップボックスの工場出荷時に本件ソフトウェアが組み込まれていなかったとしても、本件ソフトウェアの起動およびインストールのパス(経路)は事前に設定されていた。ユーザーは、簡単な操作やカスタマーサービスの支援を受けることで、容易に本件ソフトウェアをインストールし、番組を視聴することができた。(二審裁判所は、そのカスタマーサービスのWeChatアカウントがA社の英語名と類似または同一であったことから、当該カスタマーサービス担当者はA社によって設置されたものと認定した。)また、本件セットトップボックスが「ジェイルブレイク版」として販売され、インストールの指南がインターネット上に多数存在していた状況に鑑みると、ユーザーが原告の番組を視聴するためにそれを使用することを知らなかったはずはない。したがって、A社は、ユーザーがセットトップボックスを用いて違法番組を視聴することを認識していたか、または故意にそれを助長したか、知らないふりをしたに過ぎないと判断される。ゆえに、A社は原告らの公衆送信権を侵害する故意をもって本件セットトップボックスを提供したことになる。さらに、B社の元代表者自身も、関連する刑事捜査手続において、セットトップボックスが違法テレビ番組を受信できることを知っていたと認めており、B社も本件セットトップボックスがユーザーに違法な視聴機会を提供することを認識していた。
上記の事実を総合的に判断し、二審裁判所は最終的に、被告が原告の公衆送信権を侵害したとして、被告に損害賠償を命じた。
この二審判決は、セットトップボックスの業者やプラットフォーム事業者が責任を回避するためのハードルを引き上げたものと言える。二審判決は、被告の行為が著作権法第87条第1項第7号に該当し、著作権侵害を構成すると認定した。同号は、「著作財産権者の同意若しくは許諾を経ずに、公衆にインターネットを通じて他人の著作物を公開伝送若しくは複製に供することを意図し、著作財産権を侵害し、著作物を公開伝送又は複製することができるコンピュータプログラムその他の技術を提供し、利益を受ける」状況を指す。また、台湾の著作権法第87条第1項第8号によれば、他人が公開放送又は公開伝送した著作物が著作財産権を侵害したことを知りながら、インターネットを通して公衆にその著作物にアクセスさせることを意図し、以下のいずれかの事情により、利益を受ける場合、著作権若しくは製版権を侵害したものとみなされる。
(一) その著作物のネットワークアドレスをまとめるコンピュータプログラムを公衆の利用に供する。
(二) 公衆が前記の(一)のコンピュータプログラムを利用するよう指導、協力、又は予めパスを指定する。
(三) 前記の(一)のコンピュータプログラムを搭載する設備又は器材を製造、輸入又は販売する。
二審判決は、本件においては、上記の(一)から(三)までの全ての状況が該当すると判断した。
本判決に基づけば、製品がユーザーによる違法なコンテンツの容易な入手、ダウンロード、および視聴を可能にするよう設計・製造されており、かつ、業者がその製品が権利侵害に利用される可能性を認識していなかったはずがないと判断される場合、侵害故意がないとする抗弁は裁判所に受け入れられにくくなる。現在、本件は最高裁判所に上告されている模様であり、今後の展開が注目される。