2025年11月20日、知的財産及び商事裁判所(以下、「知財裁判所」)は、「POLI」商標の模倣をめぐる紛争において、商標法第97条が規定する「他人の商標権を侵害する商品を販売する罪」の成立には、「明知(行為者が明らかに知っていた)」ということが必須前提であり、客観的な販売行為のみをもって、行為者に主観的な犯意があったと推認すべきではないとし、下級審の無罪判決を維持した(事件番号:知財裁判所114年度刑智上易字第18号刑事判決)。
本件の被告はクレームゲーム業者であり、商標権者は韓国企業のロイビジュアル有限会社(以下、「ロイ社」)である。ロイ社は、台湾において登録番号第01767333号「POLI」商標(以下、「本件商標」)を所有し、「おもちゃ、おもちゃの乗物」などの商品について指定使用していた。
検察官は、被告がロイ社の同意を得ることなく、2022年6月から自ら経営するクレームゲーム機内に、「POLI」の図柄が付されたおもちゃの車商品(以下、「本件商品」)を陳列し、1回10新台湾ドルで不特定多数の客にプレイさせたことが、商標法第97条の「他人の商標権を侵害する商品を販売する罪」に該当すると主張した。これに対して被告は、本件商標の存在を知らず、また本件商標の知名度が高くなかったため、本件商品が商標権を有することを全く認識しておらず、本件商品が模倣品かどうかも確認しなかったと抗弁した。
一審判決は、被告に「明知」が認められず、商標法第97条における主観的構成要件を満たさないとして無罪を言い渡した。
検察側は、本件商標はおもちゃ業界において著名商標であり、クレームゲーム業者であり、おもちゃ商品を中心に消費者に提供する被告が、本件商標の存在を知らないはずがなく、また、本件商品の仕入れ価格(約20新台湾ドル)と正規品の販売価格(約299新台湾ドル)には大きな開きがあり、模倣品であることは容易に判別できたはずであるとして、知財裁判所に控訴した。
しかし、知財裁判所は一審の無罪判決を維持し、商標法第97条の罪は、販売した商品が他人の商標権を侵害していることを「明知」していたかを確認すべきであると認めた。本件において集めた証拠を見れば、被告が客観的に模倣品を陳列、販売していた事実はあるものの、直ちに、その商品が他人の商標権を侵害する主観的な「明知」があって、本件商品を陳列、販売する故意があったとは断定できないとした。また、検察官は、本件商標がおもちゃ業界において著名商標であると主張したが、長期の宣伝を経て著名商標に至ったことを裏付ける証拠が不足していると指摘した。
また、本件商品の個々の仕入れ価格と正規品の販売価格には大きな開きがあり、かつ、本件商品のパッケージに偽造防止レーザーラベルが付されていなかった。しかし、知財裁判所は、ECサイトや個人販売者の場合は、それぞれの販売戦略があると認め、また、ECサイトや個人販売者は、実店舗を持たない低コスト運営により、正規品でも実店舗より格安で販売されるケースは珍しくなく、被告が、単なる価格差によって、模倣品であると判定することはできないとした。従って、正規品における細かい特徴に気付かなかったからといって、直ちに被告に主観的な「明知」があったと認めるべきではないとして、下級審の無罪判決を維持することになった。
本判決から、商標権者は、民事・刑事事件によって権利行使をする際、それぞれの手続きや立証責任の違いに留意する必要がある。民事上の侵害排除請求をする際は、無過失責任であるため、行為者の「故意」までにはいかなくとも、「過失」を立証すれば十分である一方、刑事罰を求める場合は、客観的な商標侵害事実だけでなく、行為者の主観的な「故意(明知)」を立証しなければならず、その基準が民事より格段に高くなる。商標権者が、和解交渉を有利に進めるために刑事手続きを利用するケースは少なくないものの、事前に万全な証拠収集や評価を行い、刑事事件起訴後の立証の困難さに直面しないよう準備することが肝要である。
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