台湾の商標法第30条第1項10号では、「他人の同一若しくは類似の商品若しくは役務の登録商標又は先に出願された商標と、同一又は類似であり、関連消費者に混同誤認を生じさせる虞があるものは、登録を受けることができない。」と明文規定されている。
いわゆる「関連消費者に混同誤認を生じさせる虞があるもの」とは、商標が関連消費者に、当該商標が象徴する商品の出所または製造者主体について混同誤認を生じさせる虞があるものを指す。つまり、商標が商品の消費者に与える印象によっては、関連消費者が、異なる出所の商品を同一の出所のシリーズ商品であると誤認したり、或いは、二つの商標の使用者の間に関連企業、許諾、フランチャイズ、またはその他類似する関係があるかもしれないと考えたりすることもあると言える。
知的財産局が公布した「混同誤認の虞の審査基準」に基づくと、混同誤認の虞の有無を判断する参考要素は計8項あり、その内の1項は関連消費者の各商標に対する熟知度である。この要素の着眼点として、関連消費者が争議のある両商標をいずれも相当に熟知している場合、即ち、両商標が市場で併存している事実が関連消費者に知られており、且つ後願の商標側が商標の使用により関連消費者が両商標の出所を区別できる程度に達していることを立証でき、そして異なる出所であることを区別するに足る場合は、このような併存の事実をできる限り尊重すべきである。仮に関連消費者が両商標のいずれかのみを知っている場合、より広く知られている商標には、より大きな保護を与えるべきである。
ただし、台湾の商標法は原則として登録保護主義を採用しており、後願の商標が後のマーケティングを通じて先行登録の商標権者の利益を奪うことを防ぐため、「消費者の各商標に対する熟知度」という要素は決定的なものではなく、やはり他の基準要素と併せて全面的に考慮すべきである。
先般の最高行政裁判所113年度上字第142号判決(判決日:2025年7月10日)においても、この要素に関する法的意見が提示されている。
当該行政訴訟の控訴人(即ち商標出願人)は、先に「SMILE」商標(以下、「係争商標」)を第44類の医療役務に指定使用し、眼科医療役務及び眼科外科役務の登録を出願していた。知的財産局(以下、「知財局」)は第44類の歯科医療及び医薬品の調剤、医療および医薬に関する相談役務を指定使用している出願第092064267号(登録第1108399号)「
」商標 (以下、「引用商標」) を引用し、両商標の図柄、役務が類似するとの理由で、商標法第30条第1項10号に基づき、係争商標の登録を拒絶した。出願人はこれを不服として訴願、行政訴訟を提起したが、いずれも訴願委員会と知的財産商業裁判所(以下、「知財商裁」)に棄却され、出願人は遂に最高行政裁判所に上告した。
両商標の図柄、指定役務が類似しないという論争のほか、出願人はさらに係争商標の使用証拠を提出し、係争商標が比較的高い知名度を有し、当該商標が台湾の関連消費者に広く知られている著名商標である一方、引用商標は高雄市鳳山区のみで役務を提供している開業医のものであることを挙げ、関連消費者が、係争商標と引用商標が異なる出所に由来することを識別でき、且つ両商標の間で実際に混同誤認が発生していたわけではなかったため、関連消費者に混同誤認が生じる可能性はないと主張した。
この論争について、知財商裁は行政訴訟の判決において、「商標法は『先願主義』を採用しており、先行出願の登録商標がたとえ高い知名度を具えずまたは関連消費者に広く知られていなかったとしても、先に出願した商標権者は法に基づいて権利を主張できる。また、市場における公正な競争を維持し、資金力のある企業がその巨大なマーケティング力を利用して先に登録された商標を奪取することを防ぐために、後から出願された商標ではなく最初に登録された商標を保護する必要がある。本件において、仮に出願人の主張が事実であると認められたとしても、後願(即ち係争商標)の登録が承認されれば、台湾の商標法における先願主義に明らかに違反するのみならず、係争商標と引用商標が同時に市場に存在し、且つ両商標の図柄が類似し、類似の役務に指定されている場合、消費者は両商標が同じ出所に由来すると誤解しやすく、或いは両商標の使用者の間に関係企業、許諾、フランチャイズまたはその他類似する関係があると誤認されやすく、係争商標の登録は確かに消費者に混同と誤解を招く虞がある」と示した。
上告を経た後、最高行政裁判所は知財商裁の見解を維持し、台湾の商標法が、原則として登録保護主義を採用しており、「各商標に対する消費者の熟知度」という要素は決定的なものではなく、後願の商標が後続のマーケティングを通じて先行登録の商標権者の利益を侵奪することを防ぐために、他の参考要素と併せて総合的に考慮する必要があると改めて強調した。知財商裁は、本件における混同誤認の虞に関連する参考要素を総合的に考慮し、上記の理由により、係争商標の登録は確かに消費者に混同誤認を生じさせる虞があり、判断に誤りはないと認定した。
「各商標に対する消費者の熟知度」は、確かに混同誤認の虞に関する審査において考慮されるべき要素の一つである。しかし、後願商標が先行出願または先行登録された商標と高度に類似し、指定商品または役務も高度に類似している場合には、消費者に両商標の商品または役務が比較的知名度が高い後願商標に由来すると誤認させて混同誤認を生じさせる虞があると言える。そして、混同誤認の虞があることから、「先願主義」に基づいて先行出願の商標が保護されることは言うまでもなく、後願のものは拒絶されることになるのである。
したがって、もしも台湾で商標を使用する意向があるときや、既に台湾において商標を使用している場合は、できる限り早く商標登録出願を行うことが賢明である。そして、商標の使用や登録出願をする前に、商標調査を実施して商標の登録可能性を評価することで、登録を受けることができないために商標デザインを変更しなければならないという苦境に陥ることを避けるべきである。