最近、台湾において不動産情報を検索できるデータベースが著作権で保護されるかどうかに関する刑事事件があった。この事件の背景としては、A氏(本件の告訴人)が、政府当局のデータベースと民間データベースを統合するデータベースの開発を構想し、自身が開発した「不動産検索システムとその方法」という特許発明を利用してそのデータベース(以下、本件データベースと称する)を完成させ、本件データベースを運営するB社を通して公衆に不動産検索サービスを無料提供していた。
そして、A氏は2022年に、ある特定のIPアドレスを持つユーザーが、本件データベースから7日間に約10万件のデータをダウンロードしたことに気付き、このような行為が著作権違反となるとして刑事告訴をした。検察が調査したところ、本件データベースから大量のデータをダウンロードしたのは、台湾の郵便局のコンピュータシステムのメンテナンスに携わっていたC社だったことが判明した。C社の動機としては、台湾の郵便局のコンピュータシステムでは、建物の住所や郵便番号からその住所や郵便番号に対応する建物名を知ることができず、郵便を配達する際に使いにくいところが多々あったため、本件データベースからデータをダウンロードして郵便局のコンピュータシステムの改善に取り組もうとしたというものであった。
この刑事事件のキーポイントとなる争点は、本件データベースが著作権法上の「編集著作物」であるかどうかということにある。検察は、本件データベースの著作物性の存否について肯定的な見解を持ったため、C社の責任者を被告として公訴を提起した。
しかし、一審と二審の裁判所が下した判決(台北地方裁判所112年度智易字第27号、知的財産及び商事裁判所第113年刑智上易字第35号)は、いずれも検察の見解と異なった判断を示し、本件データベースは著作権法上の「編集著作物」に当たらないとされた。
台湾の著作権法によると、下記の要件を備えてはじめて作品の著作物性が認められる。
- 独創性:著作者が自ら創作したものであり、他人の著作物を剽窃したものではないこと
- 創作性:作品が最低限の創意のひらめきを示すこと
そして、第二審裁判所(知的財産及び商事裁判所)は下記の判断を示した。
- 編集物におけるデータの選択、配列に創意工夫や編集者の個性が示されてはじめて編集物が著作権で保護される。一方、創意工夫や編集者の個性が見られない場合、たとえ大量の時間や資源や労力が投入されたとしても、著作権の保護対象にならない。即ち、「額の汗」理論(sweat of the brow doctrine)が適用されるべきではない。
- 本件データベースには、「団地番号」、「団地名」、「階数」、「平均単価」、「竣工日」等のカテゴリがある。しかし、「団地番号」以外のデータはいずれも既に政府当局若しくは不動産仲介業者のウェブサイトに存在していたデータであり、創意工夫や編集者の個性が見られない上に、「団地番号」も創意工夫が見られない一連の番号でしかなかった。そして、本件データベースはA氏の特許方法となるプログラムによって作られていたが、そのプログラムがデータを処理した際に独特な分類法や配列法が応用されたことを示す証拠がなく、仮に他人が同一のプログラムでデータを処理してデータベースを作ったとすれば、生じた成果の内容は本件データベースと変わらない。よって、本件データベースは、個性又は独特性を表現しておらず、創作性がない。
- さらに、類似する不動産のデータベースが既に存在しており、告訴人が既存のデータベースを利用して本件データベースを作った事実に鑑みると、本件データベースは告訴人が独創したものではないため、著作権保護に要する独創性を欠いている。
そして、第二審裁判の際に、検察は、被告がウェブ・クローラーで本件データベースから大規模にデータを抽出したことで、コンピューターのセキュリティーに危害を加えて刑法に違反したとして追起訴した。
しかし、裁判所の判断では、被告は、自分が作ったプログラムを使って人間がウェブサイトをブラウズすることをシミュレーションすることで、ダウンロードの過程を自動化したのみであり、告訴人のコンピュータシステムのセキュリティ機能をバイパス・無効化したり、正当な理由なしに本件データベースの電磁的記録を削除・改変したりはしていない。事実、A氏が当初本件データベースを構築した目的は、誰にでも無料で不動産情報を検索・閲覧させるためであったため、たとえ被告が本件データベースからデータを取得したとしても、正当な理由なしに取得したわけではない。
結果として、裁判所は、被告が不法にコンピュータにアクセスする行為、及び他人の電磁的記録を不法に取得、削除、改変する行為に関する刑法上の罪を犯していないとした。
検察官が起訴した罪にかかわる刑罰は軽微なものであったため、検察官は二審判決について第三審に上訴することができない。一方、この事件から、台湾の知的財産の法務に携わる者にとって注意に値するポイントが見られる。
ユーザーがウェブ・クローラーを用いて本件データベースからの大規模なデータ抽出、又は抽出されたデータの商業上の利用をすることを禁止する利用規約が存在していたかどうかについて、判決は言及していない。一方、一審判決の文言からすると、本件データベースは、自動作成されたアカウントをユーザーに無料提供していたようである。このような状況では、通常、データベースにアクセスするには、ウェブページに利用規約が示され、ひいてはユーザーが利用規約に拘束されることを求めるのが普通であると思われる。しかし、本件データベースに保存されたデータのほとんどが政府当局のデータベースに由来するため、たとえこのデータベースに大規模なデータ抽出を禁止する利用規約があったとしても法的強制力があるかどうかは更なる検討を要する。
本件の検察官はその起訴状で、本件データベースに著作物性があることを証明するために、本件データベースに他のデータベースに由来した建物の写真が収録され、且つそれらの写真がトリミングされたり、位置が調整されたりしたことがあるとして、本件データベースに創作性があることを主張した。しかし、判決においてそれらの位置の調整、トリミングについては特に言及されていない。事実、裁判所が本件において「額の汗」理論を否定したことは、検察官のこのような論点に同意しないことを意味すると言えよう。一方、仮に告訴人が写真に対してかなりの変更を加えていた場合はどうであろう。台湾の著作権法によると、最低限の創意のひらめきが示されていれば、たとえ他人の著作物を侵害するような作品(翻案)でも、二次的著作物として著作権を享有することが可能である。この原則が編集著作物としてのデータベースにどのように適用されるのか、今後の注目に値する。