専利出願をする場合、その発明が出願前に既に公開された先行技術により新規性、又は進歩性が喪失する可能性がある。一方、台湾専利法上の例外として、発明が出願前の一定期間内に公開され、且つ、その公開の事実が出願人と関連性がある場合(出願人による専利出願のための台湾又は諸外国の公報における公開は含まれない)、新規性又は進歩性を喪失させないグレースピリオドの規定が設けられている。台湾専利法の2016年のグレースピリオドに係る改正では、発明専利(特許)と新型専利(実用新案)のグレースピリオドは6ヶ月から12ヶ月に延長されたほか、発明の公開が出願人の意思によるか否かにかかわらずグレースピリオドの適用が可能となった。最近(2024年2月)、台湾の知的財産及び商事裁判所は、ある行政訴訟の判決(112年度行専訴字38号)を通じて、グレースピリオドを適用できるようにするために、出願人がどのように立証すべきかを示している。
この事件における専利(以下、本件専利と称する)の発明は車用ライトである。出願人は2019年9月12日に新型専利(実用新案)の出願をし、2020年1月に知的財産局の許可により新型専利権を取得した。その後、本件専利は無効審判を請求され、無効審判の手続きで請求者により提出された、先行技術の存在を証明する主な証拠は、2019年7月8日に某ネットショップに掲載されていた車用ライトの販売ページである。それに対し専利権者は、その主な反論として、専利権者が出願前に、そのネットショップに車用ライトの販売を許諾したため、専利権者の自らの意思で発明を公開した事実に属し、グレースピリオドを適用できると主張した。なお、専利権者は、そのネットショップに販売許諾をしたことを証明するために、そのネットショップと関係のある人達(例えば販売ページに掲載された銀行口座の所有者)が作成した声明書を知的財産局に提出した。しかし、知的財産局は、声明書の作成者を販売ページに掲載された会社名に紐付けられない上(声明書の作成者と販売ページに掲載された会社の責任者は別人)に、声明書の署名日時が専利の公告日より後である等の理由で、その声明書が「販売ページの掲載情報と専利権者とに関係がある」ことを証明できず、グレースピリオドの要件に合致しないと判断した。そこで、知的財産局は、その販売ページの掲載情報が先行技術の存在を証明できる証拠であり、本件専利に進歩性がなく無効にすべきであると認定した。出願人は、知的財産局の処分を不服として、経済部訴願審議委員会に訴願を提起したものの棄却されたため、知的財産及び商事裁判所に本件の行政訴訟を提起した。
そして、出願人は、当初ネットショップに販売許諾をした際に接触したネットショップ側の営業スタッフが作成した声明書、及びネットショップの運営管理の情報や車用ライトの販売データ等、件のネットショップしか提出できない書類を補足証拠として裁判所に提出し、本件の車用ライトの販売ページの掲載情報が出願人の同意を得て、出願人の本意に基づいて公開されたものであると裁判所を説得した。最後に、裁判所は、グレースピリオドの要件が満たされたため、その販売ページの掲載情報が本件専利の新規性又は進歩性を否定できる証拠でなく、たとえ声明書の署名日が本件専利の公告日より後であったとしても、これは事実を確認するための行為であり、出願人がすでにネットショップと許諾契約を結んだ事実の存在を妨げないと判断した。
上記の訴訟において、知的財産局は、「グレースピリオドの規定に合致させるために、出願時に発明が公開された事実や事実の発生日を説明する上、証明書類を提出しなければならないにもかかわらず、出願人が無効審判になってから請求人が提出した販売ページの掲載情報を突き付けられてはじめて説明した」と裁判所に主張した。しかし、このような主張は、2016年の専利法改正以前の規定に基づくものである。技術の革新や展開を加速化させるために、及び出願人の不注意、ひいては出願時にグレースピリオドを主張することに困難があったなどの原因でグレースピリオドを主張できない状況を避けるために、現行の専利法では、出願時に発明が公開された事実やその時点に対する説明、そして証明書類の提出をしなければならないという不合理な規定は既に撤廃されている。それだけでなく、たとえ先行技術に係る証拠の名目上の公開日がグレースピリオドより早いとしても、実際の公開日がグレースピリオドに入るとして出願人がグレースピリオドの適用を主張する場合、出願人が(例えば訴訟時に)関連証拠を提出して実際の公開日を説明することが許される。ましてや、本件の販売ページの掲載情報の公開日は明らかにグレースピリオド内であるため、出願人がこの公開日について更なる説明をする必要は勿論なく、出願人は、無効審判及び訴訟の段階で関連証拠を提出してその販売ページの掲載情報がその本意に基づいて公開されたものであることを証明し、それに対して裁判所に実質的な判断をしてもらうことができるとした。
現行の専利法では、グレースピリオドが大幅に延長されている。出願人(または専利権者)は、専利の効力に関し先行技術により新規性又は進歩性の存否という問題が浮上した後でも、証拠を提出して先行技術の公開が出願人と関連性があり、その公開が出願人の本意又は不本意に基づくなどグレースピリオドの要件の存在を主張することができ、必ずしも専利出願の段階にグレースピリオドを主張しなければならないわけではない。これについて、知的財産及び商事裁判所が本件訴訟で示した見解は、現行の知的財産局の専利審査基準と一致する。また、上記のように、本件訴訟に関わる無効審判の実体的な事項について何故裁判所が知的財産局と異なった判断に辿り着いたかと言えば、その主な原因として、裁判所は準備手続きや口頭弁論を通じて事実発見することでき、原則的に書面審理しかできない知的財産局よりも多くの証拠調査の権限を有しているので、出願人の補足証拠を詳しく調査して心証を形成することができるためである。そこで、専利出願又は無効審判の手続きで、知的財産局に受け入れてもらなかったグレースピリオドに関連する証拠があれば、後続の訴訟手続きで受け入れられる機会があるかどうかに留意するのがよい。
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