「医薬品パテントリンケージ」とは、先発医薬品(以下、新薬と称す)の薬品許可証を取得後、新薬のメーカーが自ら、新薬に係る特許権の情報を台湾の衛生福利部のパテントリンケージ登録システムに開示することで、ジェネリック医薬品の発売前の審査手続きと新薬の特許を侵害するかどうかとの判断を結びつける制度である。この制度により、ジェネリック医薬品のメーカーに特許侵害の争議を処理するための一定の時間が付与され、衛生福利部もこれによりジェネリック医薬品の発売を許可するか否かの根拠にすることができるので、ジェネリック医薬品の発売前に予め特許侵害争議を解決し、医薬品の使用や公共衛生に影響を及ぼさないようになることが期待される。
弊所の2023年4月の記事に記載したとおり、医薬品パテントリンケージ制度にまつわる二つの重要な論題、即ち(1)「新薬」の適用範囲はどの程度か、(2)新薬薬品許可証の取得者が自ら医薬品の特許情報をパテントリンケージ登録システムに登録する行為が、「行政法上の意思表示」であるか、それとも衛生福利部の「行政処分」と定義されるべきかについて、裁判所の見解は統一されていなかった。
具体的に言えば、台北高等行政裁判所はその2022年5月12日の判決(110年度訴字第824号と110年度訴字第1048号)で、先発医薬品のメーカーに不利な見解を示した。というのは、台北高等行政裁判所は、特許情報が登録可能な「新薬」が薬事法第7条にいう「新成分、新治療効果・複方、又は新投与経路製剤」の薬品に限られ、前記の規定以外の「新剤形、新用量、新単位含有量製剤」を含まないとしたほか、衛生福利部が新薬薬品許可証の取得者が届け出た特許情報を登録・公開する行政行為が「行政処分」であるため、登録不可な薬品の特許情報を登録・公開してしまった行政処分を衛生福利部が取り消す権限を持つと認定した。一方、同裁判所は同年12月29日に、別判決(110年度訴字844号、110年度訴字1060号)で先発医薬品のメーカーに有利な見解を示し、特許情報が登録可能な「新薬」の範囲について「新剤形、新用量、新単位含有量製剤」も含むとした他、パテントリンケージ登録システムに薬品の特許情報を登録する行為は、「届出者の行政法上の意思表示」であって衛生福利部の行政処分ではないため、衛生福利部にパテントリンケージ登録システムに登録された薬品の特許情報を削除する権限がないと認定した。
上記の四件の判決について、敗訴側はいずれも最高行政裁判所に上告した。そして、最高行政裁判所は2023年11月と12月に、四つの判決を下し、上記の二つの論題につき先発医薬品のメーカーに不利な統一見解を示した。
先ず、論題(1)につき、最高行政裁判所は下記のとおり指摘した。薬事法の第4章の1(第48条の3から第48条の22まで)の医薬品パテントリンケージ制度が新設された時点で、「新薬」の定義について特別な規定が改めて設けられていないので、矛盾なく体系的に法を解釈できるようにするために、医薬品パテントリンケージ制度が適用可能な「新薬」は、薬事法第1章総則の第7条の規定と同じく、即ち、中央衛生主務官庁の審査を経て「新成分、新治療効果・複方、又は新投与経路製剤」と認定された薬品であり、「新剤形、新用量、新単位含有量製剤」を含まないと認定すべきである。さらに、上記の薬事法、及び薬事法の授権により定められた医薬品パテントリンケージ施行規則に医薬品パテントリンケージ制度の適用可能な対象(即ち、新薬の特許情報を届け出られる者。それは新薬薬品許可証の取得者に限られる上に、その届け出る薬品が、薬事法第7条に規定される新薬に合致すべきである)に関する明文規定がある以上、それは立法者の意思決定であり、法の抜け穴ではない。そして、新薬の定義を拡大し、医薬品パテントリンケージ制度の適用範囲を変更するような改正をすべきかどうかは、法律の留保という憲法上の原則にかかわるので、多様な民意を反映できる立法院(国会)により決められるほうが、権利分立原則に合致する。
次に、論題(2)について、最高行政裁判所の見解は下記のとおりである。衛生福利部は、パテントリンケージ登録システムを設置する義務や権限を有する他、衛生福利部が新薬薬品許可証の取得者が届け出た特許情報を登録・公開する行政行為は、衛生福利部が公法上の具体的な事件に対し行い、且つ薬事法第4章の1を適用する法的効果を対外的に直接生じさせる一方的な行為であるため、当然行政処分に属する。そのため、衛生福利部は、薬事法の規定に合致させるように、そのシステムに登録された新薬の特許情報を維持管理する職権があるため、システムの情報の適法性や正確性を確保するために、当然それを審査・確認し、規定に符合しない特許情報を削除する権限がある。それは、たとえ薬事法第48条の7に何人でも誤った登録情報を通報できるというメカニズムが設けられているとしても変わらない。
さらに、最高行政裁判所は、行政手続法第117条と第119条第2項により、行政処分の受益者が重要な事項について不正確な情報を提供し、又は不完全な陳述をしたことで、行政庁に違法な行政処分をさせた場合、その信頼は保護に値しない、と指摘した。そして、公共利益を保護するために、たとえ違法な行政処分に対する救済手続の法定期間の徒過後でも、原処分庁、又はその上級行政庁は、職権によりその行政処分の全部又は一部を取り消すことができ、違法な状態が続くのを停止するために、先発医薬品のメーカーが取得した薬品許可証に係る薬品が薬事法第7条にいう新薬でなく、新薬の特許情報を届け出てパテントリンケージ登録システムに登録することのできないものであることを衛生福利部が発見した場合、先発医薬品のメーカーが違法に届け出た特許情報を削除して法的にしかるべき状態を回復させることは、パテントリンケージ登録システムを設ける薬事法の立法目的を実現・維持するためであり、法に合致しないことはないとした。
上記の判決から分かるように、現行の医薬品パテントリンケージに係る規定では、「新成分、新治療効果・複方、又は新投与経路製剤」の薬品の場合のみ特許情報を届け出ることができる。今後、「新薬」の適用範囲を拡大しようとすれば、法改正のみにより実現するしかないのであろうが、その発展に留意していきたい。