製薬業界にとって、専利権の存続期間延長の期間の長さは、専利権者である製薬会社の市場利益に関係するだけでなく、ジェネリック医薬品発売のタイミングにも密接に影響する。台湾の専利法第53条第2項及び専利存続期間延長に関する審査規則(中国語:専利権期間延長核定辦法)第4条の規定によると、医薬品の販売に中央目的事業主務官庁(即ち、衛生福利部。日本の厚生労働省に相当)の許可が必要であることに起因して、専利権存続期間中に専利権を実施することができない期間が生じた場合、5年を限度に専利権存続期間を延長することが認められており、延長を出願できる期間は、中央目的事業主務官庁からの許可証を取得するために国内外で行った臨床試験期間、国内の医薬品の登録申請に要する審査期間を含む、とされている。
しかしながら、国外の臨床試験期間、特に、国外の臨床試験の「終了日」の採用方法については、依然として意見の相違がみられる。知的財産局の現行の専利審査基準(以下、審査基準)では、国外の臨床試験報告書に記載された「試験完了日(study completion date)」が試験終了日とされているが、この「終了日」の判断につき、知的財産及び商事裁判所(以下、知的裁判所)、最高裁判所と最高行政裁判所のこれまでの訴訟の判決では、いずれも否定的な態度を示しているものの、その見解は裁判所により若干異なっている。
例えば、弊所の2022年第3期ニュースレターにてお知らせした、メルク社(Merck Sharp & Dohme B.V.)とロシュ社(F. Hoffmann-La Roche AG)の専利権存続期間延長をめぐる行政訴訟では、最高行政裁判所は、昨年(2022年)下された判決にて、国外の臨床試験期間を認定する権限を有する主務官庁は、衛生福利部であることを指摘し、原審即ち知的裁判所がこの点について詳細な検討を行わず、単に臨床試験の「終了日」を「臨床試験報告書の『報告日』」とすべき、とすることは不当であるとし、原判決を破棄して知的裁判所に差し戻した。
知的裁判所は、1年余りの再審理を経て、臨床試験報告書の審査プロセス及び内容に関し、衛生福利部に書面で確認し、今年(2023年)8月23日、専利権存続期間延長制度の立法趣旨に沿うよう、国外の臨床試験期間の終了日を、「臨床試験報告日」とする知的裁判所の当所の見解を維持する二つの判決(2022年度行専更一字第3号判決及び行専更一字第5号判決)を下した。
この2つの判決において、知的裁判所は、次のように指摘している。
衛生福利部は新薬検査試験登録申請書の審査の実務において、「海外臨床試験期間」の認定をしておらず、新薬申請者が提出した、臨床試験データを基に、専門知識により分析・解釈をし、医薬品の有効性・安全性を評価し、医薬品許可証を交付するか否かを決定している。また、現行の新薬検査登録の審査手順では、新薬申請者は統計分析を含む国外の臨床試験報告資料を書式要件に従って提出する必要があり、所定の書式に沿っていなければ、衛生福利部は実体審査を行わずに申請を却下することとなっている。これは、臨床試験が、投薬後(即ち「試験完了日」)すぐに結論が出るものではないからである。医薬品の安全性・有効性に関する衛生福利部の評価の根拠となる報告書に試験結果を記載して提出するには、専門的なデータの分析と解釈が必要である。したがって、臨床試験の実施期間及び臨床試験報告を作成する期間は、いずれも衛生福利部が係争薬品の許可証発行に必要な国外臨床試験期間に属する期間とすべきであり、当該期間は、実に、専利権者が発明を実施することのできない期間である。したがって、衛生福利部による医薬品許可証発行に必要な海外臨床試験期間は、「臨床試験報告書の報告日」を終了日とすべきである。
これに加え、知的裁判所は、前述の2022年度行専更一字第5号の判決において、現行の審査基準における国内の臨床試験期間の終了日が「衛生福利部が記録保存のための各臨床試験報告を受理した同意書の日付」となっており、国外の臨床試験期間の終了日は「臨床試験報告書に記載された試験完了日」となっていることから、平等原則に反するとの点を更に指摘した。そして具体的に、臨床試験は国内・国外のどちらで行われたかにかかわらず、共に新薬の有効性と安全性を確保することを共通の目的としており、臨床試験の実施及び臨床試験報告書の作成は、いずれも臨床試験結果を衛生福利部の薬品許可証の審査に提供するためのものであり、発明を実施することのできない期間であることから、臨床試験の行われた場所が国内か国外かにより、不合理な差別的待遇をすべきではないとの見解を示した。
上述の判決は、知的裁判所が依然として、外国の臨床試験の終了日は、審査基準に定められた「試験完了日」とするのではなく、「試験報告日」とすべきであると認識していることを表しており、これは、専利権者に有利な状況にあると言える。しかしながら、知的財産局には、これらの判決が確定するまで、審査基準を改訂する予定はない。したがって、専利権存続期間延長を行い、国外での臨床試験期間を、発明を実施することのできない期間として含めることを希望する場合は、知的財産局の現行の判断に対し、最も有利な専利権存続期間延長保護期間が得られるよう、必要に応じ、「試験報告日」が終了日と認定されるよう、行政救済を求めることが可能である。
この2つの判決については、今後の展開を引き続き注視していく必要がある。