台湾専利法第32条は、出願人は同一の発明・考案について、同日に発明専利(特許)及び新型専利(実用新案)の出願をすることができると規定している(このような出願態様は、台湾の中国語で俗に「一案両請」と呼ばれている)。台湾の知的財産局は、発明専利の出願が許可される前に、発明専利と新型専利のどちらを存続させていくかを選択するよう出願人に通知する。出願人が発明専利を選択した場合、先に取得した新型専利が発明専利の公告日に消滅する代わりに、発明専利は存続していくこととなる。出願実務上、この出願態様を利用する主な動機は、実体審査を必要としない新型専利でできる限り早く保護を受け、後ほど存続期間がより長い発明専利を取得できることにある。しかし、専利権者が権利を行使して専利請求の範囲を解釈する場合、この同日出願における、発明専利出願の包袋資料と新型専利出願の包袋資料を併せて考慮することができるのであろうか。この論題について、台湾の知的財産及び商事裁判所(以下、裁判所という)は最近(2023年11月)、ある民事事件の判決(112年度民専訴字第22号)で肯定的な見解を示した。
この事件における原告(専利権者)の専利は、排水装置の構造にかかわるものである。原告は2016年10月11日に知的財産局に発明専利と新型専利の出願をしたのに対し、知的財産局は、2017年3月11日と2018年2月11日に、それぞれ新型専利(専利番号:M538114。以下、関連新型専利という)及び発明専利(専利番号:I614443。以下、本件発明専利という)の出願を許可・公告した。そして、原告が発明専利を選択したため、関連新型専利は消滅した。その後、原告が2023年1月に被告が本件発明専利を侵害したとして提起した訴訟において専利侵害の成否に関する主要な争点は、上記の排水装置の「第1位置決め部」及び「第2位置決め部」をどのように解釈すべきかということである。
判決理由では、裁判所が本件発明専利の請求範囲を解釈する際の主な根拠は、本件発明専利の出願手続きで原告が提出した意見書のほか、関連新型専利の無効審判手続きで原告が提出した答弁書も含まれていた(その無効審判は、2017年11月に第三者が請求し、知的財産局が2018年4月に有効審決を下した)。原告は、本件発明専利の出願手続きで原告が提出した意見書がもとより本件専利の請求範囲を解釈する際の内部証拠としての包袋資料であることを認めたが、関連新型専利の無効審判手続きで提出された答弁書が本件専利の請求範囲の解釈に用いられるかどうかについて争っていた。しかし、これについて、裁判所は「知的財産局が本件発明専利の出願を審査する過程で、本件発明専利と関連新型専利が同一の創作であると表明した上、本件発明専利と関連新型専利のうちのいずれかを選択するよう原告に要請した。且つ、本件発明専利も関連新型専利も第1位置決め部及び第2位置決め部を備える」と指摘した。そして、裁判所は、「『関連する専利出願』における同一の用語について原則的に同一の解釈をしなければならない」と規定する「専利侵害判断要点」(中国語:専利侵権判断要点)を引用した上、本件発明専利と関連新型専利の図、明細書も同一である以上、両者が関連する専利出願であり、関連新型専利の無効審判手続きで原告が提出した答弁書を本件専利の請求範囲を解釈する際の根拠にすることができるとした。最終的に、裁判所は、本件発明専利の出願手続きで原告が提出した意見書、及び関連新型専利の無効審判手続きで原告が提出した答弁書を根拠として原告に不利な本件専利の請求範囲の解釈を行い、被告の製品が本件発明専利に抵触しないと判断した。
「専利侵害判断要点」によると、専利請求の範囲の解釈に用いられる内部証拠は、専利明細書、請求項、図、及び包袋資料のほか、「関連する出願(例えば分割出願の親出願、優先権主張出願時の基礎出願、対応外国出願など)」及びその包袋資料も含まれる。そして、裁判所は、本件発明専利と関連新型専利が「専利侵害判断要点」における「関連する出願」又は「関連する専利出願」であると認定した上、関連する発明専利と新型専利の回答書や答弁書などの包袋資料を相互に専利請求の範囲を解釈する際の根拠にすることができると判断した。このため、専利出願人が発明専利と新型専利の同日出願を利用する際、関連する専利出願、又は無効審判時に提出された資料からなる包袋資料が如何に権利を行使する際の専利請求の範囲の解釈に影響を及ぼし得るかに留意する必要があると思われる。
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