西暦(以下、同じ)2023年11月30日、台湾知的財産及び商事裁判所(以下、「裁判所」)は、アパレル業者「米果服飾開發有限公司」(以下、「米果社」)が「我不是胖虎」(以下、「係争著作」)の著作権を侵害したとして、著作権法に基づき40万新台湾ドルの賠償金を支払うべきとする判決を下した。(裁判番号:111年度民著訴字第69号)
本件の原告「品曄文創股份有限公司」(以下、「品曄社」)は、係争著作権者から独占的実施許諾を受けている。原告の主張によると、2021年8月に、被告の米果社が自身のECサイト「MO-BO」(https://www.mo-bo.com.tw/)で、共同被告である許瑋坪氏が提供した「百威小老虎」の画像(以下、「被告画像」)が印刷された服やステッカーなどの商品を販売していることを発見した。原告品曄社は、被告画像と係争著作を比較した結果、両者が高度に類似し、著作権侵害に該当するとして、米果社並びに米果社の担当者である廖信鋐氏及び許瑋坪氏に対し、著作権侵害訴訟を提起した。
被告らは、「係争著作は著作権法により保護される美術著作ではない」と主張し、さらに係争著作の著作権者による作品登録書類、および原告品曄社が独占的実施許諾を受けていることの信憑性について疑問を呈し、抗弁した。また、被告画像は、被告許瑋坪氏が第三者に委託し、自身が飼っている猫を見本に創作した成果であり、盗作ではないとした。そして、被告画像と係争著作を比較すると、両者は、五官、表情、全体的画風、キャラクターの個性などの点において明らかに相違し、実質的に類似していないと主張した。
「著作権法で保護される対象であるか」、 「係争著作の登録書類に信憑性があるか」、 「独占的権利許諾があるか」などの争点について、裁判所はいずれも原告の主張を認めたが、本判決における特殊なところは、裁判所が、被告画像が盗作かどうかを判断した際に、被告画像が係争著作を翻案したものであると認定したことである。
この点について、以下にて詳しく説明したい。
- 美術著作が盗作かどうかを判断する場合、裁判所は、「全体的な観念と感覚」の原則を採用するうえ、一般的な理性で大衆の反応や印象をみて判断すべきであると述べた。また、実質的に類似しているかどうかを判断する際、盗作であると指摘された作品が、独自の創作をしていれば、翻案物に属し、そうでなければ、複製物に属すると言及した。
- 係争著作と被告画像を比較し、裁判所は、両者の色が類似しているほか、額の模様、目玉の位置、眉毛の形、両頬の模様、胸と体の模様、体の姿勢などの点がほぼ同一であると認めた。そして、その差異について、係争著作の口と鼻が小さく、顔の形がよりかわいく見え、被告画像の口と鼻が大きく、顔の形がより大人っぽく見えるとした。これに基づき、裁判所は、被告画像が係争著作の多数の特徴を採用しており、その結果、被告画像を見れば係争著作を連想させるため、翻案物に属すると判じた。

- 被告らは、「被告画像は第三者に委託し、独自で創作したもの」と主張したが、裁判所は、被告らが提出したドラフトは作品の構成や作画過程を確認できる各段階の下書きではなく、また、そのドラフトに創作日や修正日、または作者などの情報が記載されていないため、(被告画像が独自に創作されたことを証明するための)創作記録であるとは認められないと判断した。
- 被告らはまた、「係争著作の存在を知らず、接触していない」と答弁したが、裁判所は、原告が提出した販売資料やメディア報道によれば、係争著作は相当な知名度があり、2020年5月にはInstagramで公開され、不特定の人が見られる状況であったことに鑑みると、被告らが係争著作の内容に接触できる合理的な機会があったと論及した。そして、被告らが係争著作を知らなかったとする抗弁は採用できないとした。
- 以上で述べた理由に基づき、裁判所は、被告らが係争著作権を侵害したと認め、原告が金銭賠償と侵害の差止めを求めることができると判断した。
著作複製と翻案の実質的な類似判断における区別について、台湾の著作権法には明確な判断基準がない。本件の判決理由において、裁判所が、翻案物における類似程度について、他人が見たときに原作を連想させる程度と一歩踏み込んだ解釈したことは注目すべきであろう。
また、被告が独自で創作したことを主張しようとする際、裁判所に提出する創作のドラフトは、異なる段階での下書き、修正軌跡、創作と修正の日付、創作者と修正者などの情報を記載すべきであり、特に、実質的な類似性が高い案件において、このような抗弁が裁判所に採用されやすい可能性がある。
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