台湾のパテントリンケージ制度は、台湾薬事法第四章之一に規定され、2019年8月20日から施行されている。衛生福利部(台湾の中央衛生主務官庁、日本の厚生労働省に相当)により構築された「パテントリンケージ登載システム」にて、新薬の医薬品許可証(以下、新薬許可証)所有者から届け出のあった特許情報が登載・公開されおり、また、登載された特許情報の変更・削除も衛生福利部の所管となっている。
改正により追加された薬事法第48条之3と、第48条之4の規定によると、新薬許可証所有者は、新薬許可証の受領日の翌日から45日以内に特許情報を中央衛生主務官庁に届け出なければならないこととなっている。また、薬事法の改正法には、別途、経過措置について定められた条項が設けられており、新法施行前の新薬許可証所有者も、新法施行後3ヶ月以内であれば、規定にそって、特許情報を届け出ることができると定められている。詳細については、当所の過去のニュースレターを参考ありたい。
「新薬」とは何か。薬事法第7条によると、「新薬」とは、中央衛生主務官庁の審査を経て、新成分、新治療効果・複方、又は新投与経路製剤であると認められた薬品を指している。一方、薬品査検登記審査準則(薬品の検査試験登録に係る審査準則)第39条第2項では、新剤形、新用量、新単位含有量の製剤についても、新薬の規定が準用される、と定められていることから、パテントリンケージの適用される「新薬」が、薬事法の第7条が定める上記3種の薬品に限られるのか、または、新剤形、新用量、新単位含有量の製剤にまで及ぶのかに対し、議論が巻き起こった。
この問題に対し、台北高等行政裁判所による2022年5月12日付第824号判決、第1084号判決にて、議論が行われた。
原告(メルク・シャープ&ドーム社、及び、アラガン社)は、パテントリンケージ制度に関する新薬事法施行後3ヶ月の経過措置期間中に、被告である衛生福利部に「新用量、新単位含有量の製剤」に関する薬品の特許情報を特許情報をパテントリンケージ登載システムに届け出、その情報が公開された。しかし、3ヶ月の経過措置期間終了後、衛生福利部が、手作業にて調査を行った結果、係争薬品が薬事法第7条に規定された3種の薬品に該当していないことが判明したことから、職権に基づきパテントリンケージ登載システムから係争薬品の特許情報を削除したため、原告はそれを不服とし、行政訴訟を提起したのである。
これに対し、台北高等行政裁判所は、次のような見解を示している。
薬事法第7条により、新薬の範囲は、新成分、新治療効果・複方、新投与経路製剤であると限定されており、また、申請された新薬が、規定された新成分、新治療効果・複方、新投与経路製剤に該当するか否かを審査・認定する権限は、衛生福利部に与えられている。係争薬品は、確かに薬事法第7条に規定された新薬には該当しておらず、よって、係争薬品の特許情報は、登載にかかる適格性を有していない。更に、薬事法第7条の新薬に関する規定は、パテントリンケージに関する内容が追加された後も変更されていないことから、パテントリンケージに関する条項の定義も、依然として薬事法第7条に基づいて適用されなければならないことは明らかである。
台北高等行政裁判所は、更に、薬品査検登記審査準則第4条1、2項の記載から、同審査準則における新薬は、薬事法第7条の新薬を指すものであることは明らかであり、また、同第39条第2項の「新剤形、新用量、新単位含有量製剤には、本章新薬の規定(即ち、薬事法第7条の称する新薬)を準用する」、との規定は、新剤形、新用量、新単位含有量製剤が、薬事法第7条に定義された新薬ではないことを証明するに十分であり、したがって、薬品の検査登録審査において、「準用」こそすれ、直接「適用」することはできないとの見解を示した。すなわち、薬品査検登記審査準則は、薬事法に定められた内容を超えることはできないことから、「新薬」の範囲は、薬事法第7条に規定されていない新剤形、新使用剤量、新単位含有量製剤までを含むべきではなく、薬事法第7条が規定する新薬の範囲に限定されるものであるとした。これに対し、さらなる上訴はなかったことから、これらの判決は確定している。
特筆すべきは、上記判決により、各方面にて議論されていた、パテントリンケージに係る「新薬」の定義が確立された、という点である。前述した新法施行前の新薬許可証の届け出に係る3ヶ月の経過措置期間はすでに終了して久しく、現状では、薬事法に規定された3種の新薬の許可証所有者以外には、パテントリンケージ登載システムに特許情報を掲載する機会は与えられないことから、今後、上述の2つの事例のような新薬の特許情報の登載は発生しないであろう。
実務においては、衛生福利部は、2017年、薬事法第7条に対し、新剤形、新使用量、新単位含有量製剤をもその定義する新薬の範囲に含めるべく改正草案を提出していたが、成立しなかった。しかし、今後、このような声が取り入れられる可能性も否めず、この問題に、引き続き注目していきたい。