アフターマーケットでの消耗品の販売は、常に商標権者の関心を集めている。これは、消耗品を販売する商業上の利益、および消耗品の出所を示す商標上の権益に関わっているだけでなく、機械本体(例えば、自動車・スクーター、各種機器)の損耗と消費者への健康被害の危険性にも関連している。ただし、別の見方をすれば、市場における自由競争の原則のもとでは、消費者に出所の混同誤認をさせることがなく、商標権者のほかの権利(特許権や著作権など)を侵害していなければ、第三者がアフターマーケートに参入し、消費者がそれを購入することを禁止する理由はない。したがって、第三者が、メーカーの生産した機械と互換性のある消耗品上に、当該メーカーの商標を付して販売する場合、個々の状況に基づいて商標権侵害の有無を判断する必要があり、一概に論ずることはできない。このような中、最近、知的財産及び商事裁判所 (以下「知財商事裁判所」という。) は、ある医療機器の消耗品事件に対して、商標権侵害に該当しない旨の刑事判決を下した (知財商事裁判所 111年度刑智上易字第18号刑事判決、判決日2022年6月22日)。
本件の告訴人であるオムロン株式会社は、医療用分析機器、医療器具、医療機器等を指定する「歐姆龍」商標及び「Omron」商標の商標権者である。被告は、告訴人の同意なしに、ECプラットフォームShopeeのストアで、「歐姆龍」商標の医療用消耗品パッチを模倣した商品の広告を掲載し、不特定多数の者が閲覧および購入できるように展示・販売していた。検察は、被告の行為が、商標法97条後段の電子媒体またはインターネットを利用して、模倣商標の商品を不法に販売し、又は販売を意図して所持、陳列、又は輸入する罪を構成するとして公訴を提起した。その後、新北地方裁判所は無罪判決を下したが、検察は控訴し、知財商事裁判所により審理されることとなった。
商標法36条1項1号によれば、商標として使用せず、商取引慣習に合致する信義誠実の方法により、商品または役務そのものに関する情報を提供する場合は、商標のフェアユースに該当し、商標権の効力が及ばない。商標のフェアユースには、記述的フェアユース(descriptive fair use)及び指示的フェアユース (nominative fair use)の2種類がある。このうち、いわゆる「指示的フェアユース」とは、第三者が他人の商標を用いて、当該他人(すなわち、商標権者)または当該他人の商品または役務を指示することを意味する。このような方法の使用は、他人の商標を使用して他人の商品または役務の出所を指示することにより、自身の商品または役務の品質、性質、特徴、用途などを表示するために行われる。
知財商事裁判所は、本件の審理にあたって、被告がShopeeのショッピングサイトに陳列・販売していた係争商品の写真に注目した。この写真では、商品本体に「歐姆龍」または「OMRON」商標は表示されておらず、その代わり、そのそばに、前述の登録商標と同一または類似する文字を使用した「歐姆龍 Omron代用パッチ」という説明が記載されていた。しかし、被告が「代用パッチ」という表現を使用し、商品の仕様・ブランドの記入欄に「自社ブランド」と掲載し、商品の詳細を記入する箇所に純正消耗品との差異を記載していたことに加え、被告が販売する商品の形状が告訴人の販売するOMRON低周波治療器商品に使用するパッチの形状と合致していたことを併せて考慮すると、被告が「歐姆龍」及び「Omron」の文字を使用したのは、単に販売するパッチが告訴人の販売するOMRON低周波治療器に応用でき、純正品パッチと互換性があることを説明するために過ぎない。さらに、被告が販売する係争商品の価格と、告訴人が販売する純正品パッチの価格には12倍もの差があることから、関連需要者は、被告が掲載する係争商品の説明及び価格の差異をもって、被告が販売する代用パッチが、告訴人の販売する低周波治療器の純正品パッチと互換性があるものの、なおも被告の自社ブランドの商品であることを十分判断することができるため、係争商品と告訴人が販売する純正品パッチの出所が同一、または両者に関係企業、ライセンス関係、加盟関係、またはその他の類似関係が存在すると誤認することはない。知財商事裁判所は、上記の分析に基づき、被告が行ったことは、他人の商標を使用して係争商品の出所を示すことでなく、告訴人の商標を使用して告訴人の商品の出所を示し、そして、これをもって、係争商品が告訴人の純正品パッチの代用品として使用できることを示することであり、「指示的フェアユース」に該当し、「歐姆龍」及び「OMRON」商標の権利は及ばず、被告に商標権侵害の故意があるとは認め難いとして、控訴を棄却し、本件は確定した。
商標のフェアユースは、商標侵害事件においてよくみられる抗弁事由の一つであるが、裁判所は、本件において、第三者による元のメーカーと互換性のあるコンポーネントまたは消耗品の販売行為が商標権侵害に該当するかにつき、見解を示した。つまり、第三者が、その販売商品が純正品ではなく、元のメーカーに応用可能なコンポーネントまたは消耗品にすぎないことを明確に示している場合、主観的には、商品の出所が商標権者であると消費者を混乱させるつもりはなく、一方、客観的には、消費者も誤認しないため、商標のフェアユースにあたり、商標権侵害には該当しないと認定される。
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