台湾の専利法53条の規定によると、医薬の専利権者は、一回に限り専利権存続期間の延長(最長5年間)を出願することができる。台湾の「専利権期間延長許可規則」(中国語:專利權期間延長核定辦法)の第4条では、医薬品について専利権存続期間の延長の出願ができる期間は、中央目的事業主務官庁(即ち、衛生福利部。日本の厚生労働省に相当)からの許可証を取得するために国内外で行った臨床試験期間、国内の医薬品の登録申請に要する審査期間を含む、としている。
現行の専利審査基準(以下、審査基準とする)の規定によると、国外の臨床試験期間は、ICH規範(医薬品規制調和国際会議、略称ICH)を満たしている臨床試験報告書に記載された試験開始日及び試験完了日を、国外の臨床試験期間の開始・終了日とすると規定されている。
しかしながら、国外における臨床試験期間の終了日につき、知的財産及び商事裁判所は、最高裁判所の民事裁判の判決(106(2017)年度台上字第1904号)における見解を採用し、2020年、2件の行政訴訟(専利権者はそれぞれ、メルク社(Merck Sharp & Dohme B.V)、ロシュ社(F. Hoffmann-La Roche AG))に対し、国外における臨床試験期間の「終了日」は、臨床試験報告書に記載された「試験完了日」ではなく、臨床試験報告書の「報告日」とすべきであるとの判決を下した。
この2件の行政訴訟の判決理由の要旨は、弊所の2020年第4期ニュースレターにてお知らせしたが、昨今、同訴訟案件には新たな展開が見られている。被告となった知的財産局が、国外における臨床試験期間の「終了日」は、臨床試験報告書に記載された「試験完了日」とすべきであると主張し、上訴したのである。知的財産局が行政訴訟にて上訴することは稀であり、1年あまりの審理を経て、今(2022)年5月5日と4月13日、最高行政裁判所は、それぞれ原判決(109年度上字第1045号、109年度上字第990号)を破棄して知的財産裁判所に差し戻し、再審理に付すこととした。
この2件の判決において、最高行政裁判所は、国外における臨床試験期間は、中央主務官庁(即ち、衛生福利部)による医薬品許可証の取得に必要なものか、または、中央主務官庁の認定を受けたものでなければならず、つまり、「衛生福利部」こそが、国外における臨床試験期間を認定する権限を有する主務官庁であり、専利主務官庁は、衛生福利部に、医薬品許可証の発行に必要な国外における臨床試験の期間につき確認をすべきである、と指摘した。よって、現行の審査基準は、一律にて臨床試験の完了日を、国外における臨床試験期間の終了日としていることから、整合性が取れていない。
そして、最高行政裁判所は、原審が衛生福利部の医薬品許可証発行に必要な国外における臨床試験期間と、衛生福利部の認可する国外における臨床試験期間についての詳細を検討せずに、直接臨床試験報告書の作成期間をも臨床試験期間の一部ととらえ、「臨床試験の報告日」を、臨床試験期間の「終了日」とすべきであると認定し、それに基づき専利権の延長期間を算定するものとしていることは、違法であると指摘した。
また、最高行政裁判所は、2022年4月13日の判決(108年度第1095号、専利権者は米国バイエル・ヘルスケア社)においても、上述と同様の見解を示し、原判決を破棄して知的財産裁判所に差し戻し、再審理を行うものとした。同判決において、最高行政裁判所はさらに、最高裁判所の2017年第1904号の民事判決のケース(上記、106(2017)年度台上字第1904号)の事実は、本案件とは異なるものであり、その法見解により、最高行政裁判所を拘束することはできないと指摘した。
上述の判例から、国外における臨床試験期間の終了日の判断については、最高行政裁判所と最高裁判所とで若干見解が異なるものの、臨床試験の完了日を国外における臨床試験期間の終了日とする現行の審査基準については、いずれも賛同していないことが分かる。当面、知的財産局には、現行の専利権存続期間延長に係る審査基準を更に改訂する計画はないようであり、行政機関と司法機関の専利権存続期間延長に係る判断、特に、如何に国外における臨床試験期間の終了日を認定するかの点での不一致については、短期間での解決は望めないようである。

また、最新の専利法改正案(2021年第1期ニュースレター参照)によると、専利権存続期間延長に係る出願は、専利複審及び争議審判部により判断が行われることとなり、最終審裁判所は最高行政裁判所ではなく、最高裁判所となる予定である。
専利権存続期間延長に係る国外の臨床試験期間の認定については、引き続き、今後の展開を注視する必要がある。