2008年7月1日に施行された台湾の「知的財産案件審理法」に関し、司法院は、2022年6月24日に「知的財産案件審理法」に大幅な変革をもたらす改正草案を可決した。この改正は、知的財産事件の審理が高度な技術や法律の専門知識を要することに鑑み、迅速かつ適切な審理手続きを構築するために行われ、且つ専利法と商標法の改正草案の内容に合わせたものとなっている。その中で、専利権、コンピュータープログラムの著作権、営業秘密の侵害事件につき、「被疑侵害者による具体的な答弁の義務」と「査証人制度」が新設されている。以下ではそのポイントを紹介する。
営業秘密に関する事件について、現行の知的財産案件審理法の第10条の1では、もとより被疑侵害者に具体的な答弁を行う義務があると規定しているが、今回の第36条の改正草案は、一歩進んで、同様に高度な専門性を伴う専利権、コンピュータープログラムの著作権に係る事件までこの義務を拡大している。実務上、専利権、コンピュータープログラムの著作権及び営業秘密に係る事件において、侵害の証拠は往々にして被疑侵害者(被告)又は第三者に所持され、且つ、たとえ権利者(原告)が証拠を提出したとしても、その真実性を被疑侵害者に否認されることも多い。このため、侵害行為について立証することには、かなりの困難を伴う。これに関し、第36条の改正草案では、権利者が証拠を提出して被疑侵害者が侵害した可能性があるという心証を裁判所に抱かせるほどに侵害の事実を釈明した場合、裁判所は被疑侵害者に対し、具体的な答弁をしなければならないとする訴訟上の協力義務を課すとしている。この場合、被疑侵害者はただ単に侵害の事実を否認するだけでは認められない。そして、被疑侵害者が正当な理由なしに期限を過ぎて答弁しない場合、又は具体的な答弁をしていない場合、裁判所はその情状に鑑みる上、権利者が釈明した内容が真実であると認定することができる。一方、権利者が「侵害した可能性が高い」ということをも釈明せずに、裁判所が被疑侵害者に具体的な答弁をする義務を課するとしたら、被疑侵害者に不公平な状況となるので、知的財産案件審理法の改正草案の立法理由では、権利者による釈明の程度について、相応に高められなければならないと強調している。
また、知的財産案件審理法の改正草案の第19条から第26条では、専利権侵害事件を対象に「査証人制度」を新設している。この制度は日本の特許法に倣ったものであり、一定の強制力が伴う証拠収集手続きに関するものである。その新設の目的は、関連する書類、情報、設備が通常他人の管理下にあるため、権利者が訴訟で専利侵害の事実について自力で立証することが困難であるという問題に対処することにある。そして、知的財産案件審理法の改正草案の第27条は、コンピュータープログラムの著作権及び営業秘密の侵害事件について、査証人制度の規定に準用すると規定している。この制度により、権利者が「権利が侵害された、又は侵害されるおそれがある」こと、「自ら又は他の方法で証拠を収集することができない」ことを釈明した場合、相手方か第三者が所持・管理している書類・装置・設備に対し、査証を行うための査証人を任命するように裁判所に申し立てることができる。査証人が査証を行う場合、査証の対象物が所在する場所に立入って裁判所が許可した方法で書類・装置・設備に対し査証することができるほか、査証を受ける者に質問し、又は必要な書類の開示を求めることができる。査証を受ける者が正当な理由なしに査証の実施を拒否・妨害した場合、制裁の効果として、裁判所はその情状に鑑みる上、権利者が査証で証明しようとする事実が真実であると認定することができる。
上記の内容を総合的に検討すると、専利権、コンピュータープログラムの著作権、営業秘密の侵害事件に対して新設される「被疑侵害者による具体的な答弁の義務」と「査証人制度」により、権利者による立証の容易化、裁判所による真実発見と迅速な裁判が期待される。なお、「被疑侵害者による具体的な答弁の義務」の規定は、権利者の立証責任を軽減すると同時に、被疑侵害者に具体的な答弁をする義務を課するので、そのポイントは立証責任の配分にある。実務上の応用では、例えば半導体材料の配合比率に係る侵害事件において、権利者が侵害品の材料に対する解析や侵害分析の結果を提出することで、侵害の存在を釈明した場合、被疑侵害者はただ単に権利者が主張した侵害の事実や証拠を否認するだけでなく、具体的な答弁をしなければならない。さもなければ、裁判所はその情状に鑑みる上、権利者が釈明した内容が真実であると認定することができる。また、例えば設備が被疑侵害者又は第三者の工場に所在し、証拠を収集することが困難である場合、権利者は査証人制度を通して証拠調査を申し立てることができる。
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