台湾では、知的財産権者が訴訟を通して権利を行使することができるほか、争われる紛争につき暫定的に侵害を排除し、又は一定の状態を維持する必要がある場合、民事訴訟法における仮の地位を定める仮処分(中国語:定暫時状態仮処分)を活用することもできる。
仮の地位を定める仮処分の申立てを許可するかどうかにつき、知的財産及び商事裁判所は、開廷して双方当事者の意見を聴取する上で判断をする。そして、「申立人の本案勝訴の可能性」、「申立てに対する許可又は棄却が申立人又は相手方に補えない損害をきたすか」、「双方の損害の程度」、「公衆の利益に及ぼす影響」の四つの要素が判断の要因となる。
過去三年間(2019年から2021年)の知的財産及び商事裁判所の統計資料によると、毎年約20件の仮の地位を定める仮処分の申立てがあるが、許可率は約三割であり、商標事件が許可された事件の多数を占めている。
仮の地位を定める仮処分が許可された商標事件につき、裁判所は何度も、商標法の保護対象が商標そのものに留まらず、商品・役務に係る消費者の長期間の利用と広告宣伝により蓄積されてきた商業上の名誉も保護対象に含まれることを示してきた。そして、商標が消費者に印象を残せば、その印象は容易に払拭されるものではない。そのため、相手方が継続的に消費者に混同・誤認させる表示の使用を継続すれば、商標権者が時間・金銭を費やして広告等の手段で蓄積してきたブランドの競争優位性に悪影響をきたし、商標の識別力、ブランドの価値、商業上の名誉が低減するリスクがあることは勿論のことである。
だが、商標権者が受けたこのような損害は無形のものであり、それを数値化することが難しく、事後的に賠償したとしても商標権者の損害を補填することが困難である。従って、商標権者がウェブページ、オンラインフォーラム、市場調査報告書などを示して混同・誤認させるおそれのある表示が消費者の消費行動に悪影響をきたしたことを釈明し、かつ商標権者の要請は相手方の営業の継続に影響しない場合(例えば、営業停止を要求せず、混同・誤認させるおそれのある表示の使用停止又は変更のみを要請する場合)、仮の地位を定める仮処分を許可する必要があると裁判所を説得できる可能性がある。
一方、専利侵害に係る仮の地位を定める仮処分の事件において、通常、双方当事者は本案訴訟のように技術的な争点に関し攻撃防御を行う。また、裁判所が申立人の本案勝訴の可能性の程度を考える際、専利侵害の成否、及び専利の有効性の有無も判断する。以前の専利侵害に係る仮の地位を定める仮処分の事件において、知的財産及び商事裁判所が専利が無効であると判断した例は少なくないが、最近の三年間の事件のうち、専利の有効性の有無が実質的に検討されたものがなく、裁判所がただ「勝訴する可能性の有無が不明」と示しただけである。そして、他の判断要因につき、裁判所は、当事者間の専利に係る紛争で生じた損害が通常金銭で補填できるものであり、重大な損害又は急迫の危険が発生するおそれがなく、且つ専利案件の多くは公衆の利益と関連性がないため、専利侵害に係る仮の地位を定める仮処分を許可する必要がそれほどないと判断する傾向にある。
又、審理の経過について、仮の地位を定める仮処分を許可する決定が下されるまで1から3ヶ月を要する。商標権者が仮の地位を定める仮処分の必要性を充分に釈明した上、且つ仮の地位を定める仮処分により相手方がなすべき行為が相手方の事業運営に過分な影響を及ぼさなければ、許可するよう裁判所を説得する可能性が比較的に高い。一方、専利事件の場合、本案に勝訴する可能性があると裁判所を説得すること自体は容易ではなく、裁判所も専利に係る紛争のほとんどの場合は金銭で損害を補填できると考える傾向にあるので、商標権者と比べると、現在の実務では、専利権者が仮の地位を定める仮処分の許可を得ることは比較的に困難である。
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