台湾専利法は、物品の全部又は一部の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて訴える創作であり、産業上利用することができるものは、出願して設計専利(以下、意匠)を受けることができる、と規定している。ただし、出願前に、同一又は類似の意匠が、すでに刊行物に記載されたもの、または、出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下、当業者)が、出願前の従来工芸により容易に意匠の創作をすることができたときは、意匠登録を受けることができない、とも明文化している。
出願する意匠の実質的な内容は、図面に掲載された物品の外観を依拠とするものであり、意匠の権利の範囲を特定するために、説明書に記載された物品及び外観に関する説明を斟酌することもできる。このため、意匠登録出願に係る意匠は、各視角による図面(6面図、断面図、斜視図等)を以て表現することにより、「実施可能要件」を満たすだけでなく、保護しようとする権利の範囲を明確に特定することもできる。一方、図面の掲載が不十分であり、しかも説明書に意匠に関する外観的特徴が記載されていない場合は、開示が十分でない旨の理由にて拒絶される可能性があるだけでなく、現有の図面に基づき意匠の主要な特徴が判断される可能性があり、類似した先願意匠の増加につながり、間接的に意匠登録に影響を及ぼすおそれもある。
上述の状況は、意匠登録出願に対する拒絶すべきとの処分の取り消しを求める最近の行政訴訟において見られる。
同行政訴訟に係る係争意匠出願は、「動圧軸受の一部」に係る意匠を請求するものである。その説明書によると、当該動圧軸受は、軸受本体の中心に回転軸穴を有し、軸受本体の一端には回転軸穴の外周から隔てたところに、円環型の溝が設けられており、更に円環型の凸部が形成されている。当該溝及び凸部は、軸受本体の一端に設置されており、溝方向の識別に用いることができる。
[係争出願図面]

台湾知的財産局(以下、知財局)は、引例「気体動圧軸受構造」の新型専利(実用新案)により、当該係争出願を拒絶すべきものとした。引例の説明書及びその図面に示されているように、当該動圧軸受の上面には円形の溝が識別用として設けられており、当該溝の断面のV字状の切り込みのようなものにより、平面視において、軸受本体の上面は複数の円環の造形が表されることになり、作業者に、軸受に設けられた円形の溝のある一端が、回転軸の出力端と同じ側にあることを認識させることができ、組立の方向性における誤認を防ぐことが可能となる。

出願人、即ち、本件の原告は、前述の審査過程において、係争出願の「動圧軸受」は、動圧軸受本体の上面に、円環型の溝を有しており、溝の断面は上が広く、下が狭い台形を成しており、平面視において、軸受の上面の溝は、4つの同心円状の線により形成された円形の環状帯となり、溝底部の環状平面状の平底造形により、広く、平らな視覚的印象を与えるものであり、断面視において溝がV字型となっている引例のものに比べて、異なる視覚的効果をもたらしていることが明らかである、と訴えた。一方、知財局は、係争出願の意匠における台形の溝は、当業者が引例より容易に想到し得るものであり、創作性を有しておらず、拒絶をすべきという認識を示した。
これに対し、知的財産及び商事裁判所(以下、裁判所)は、係争出願と引例の物品の対比において、両者の用途、機能は同じであり、同じ物品であるとし、次の認識を示した。
外観の対比において、係争出願の斜視図・平面図によると、係争出願の意匠請求の範囲は、円形の溝にあり、その溝を平面視により観察した場合、主な視覚的特徴は4つの同心円状の線であるのに対し、引例は、係争出願と同様に軸受に円環型溝を有するほか、当該溝はV字型断面を有するため、平面視により観察した場合、視覚的特徴が、3つの同心円になっている。係争出願における円環型溝の視覚的特徴は4つの同心円にあるが、引例は既に円環型溝を開示し、また、その溝はV型の断面により3つの同心円を成しているとのことから、両者の差異は、円環型の溝の断面の形状の相違による同心円線の外観上の簡単な変更に過ぎず、当業者が、引例における円環型溝の断面形状を台形にするような簡単な変更を施せば、係争出願の前述の視覚的特徴における相違点を容易に完成し得る。
出願人は、係争出願の溝の断面は、「台形」で広く・平らな環状平面を成しており、断面視において溝が「V型」で狭く尖った視覚的効果を表している引例のものとは、完全に異なる云々と述べている。しかし、調べたところ、出願人が出願時に提出した前掲の図面及び説明書の内容を見る限り、係争出願の請求の範囲は、当該軸受の円環型溝が「台形」の断面形状を有するような設計は開示されていないことがわかる。このため、係争出願の意匠では円環型溝が「台形」の断面を有するとの出願人の主張、及び、その主張に基づいた、「V字型」の断面を有する引例の円環型溝との対比説明は、採用することができない。また、たとえ係争出願の前述の図面から、当該円環型溝の断面が「台形」の形状であることを導くことができたとしても、その視覚的特徴は、依然として、4つの同心円線のみであるため、係争出願の意匠は、引例の「V型」の断面により形成される3つの同心円線とかけ離れた視覚的イメージを生じるものとは言い難い。
裁判所は、上記認識に基づき、知財局の処分を支持し、本訴訟を棄却した。
以上から明らかなように、出願人が当該円環型溝の断面は「台形」であると主張したのに対し、裁判所は、係争出願は円環型溝が「台形」形状の断面である意匠を記載していないため、平面視により観察した場合の、溝により表される同心円線を主な視覚的特徴とし、それを以て引例のものと対比し、創作性を有していないと判定した。平面視により観察した場合、4つの同心円線の溝の断面には、多様な可能性が秘められており、係争出願が溝の断面の形状を記載していなかったことから、図面が開示する溝による4つの同心円線を主な視覚的特徴として対比せざるを得ないこととなり、これにより、請求する権利範囲が拡大され、先行技術に近似すると判断される可能性が高まったとも考えられる。また、溝の断面に意匠の特徴を有しているものの、その図面を開示していなかったことから、それを以て引例との形状の差異、視覚的効果の相違を主張することが困難であることがわかる。いずれにしても、図面により十分に開示することは、意匠の権利の主張において極めて重要である。