【本ニュース記事は、7月1日に特許審査基準が改訂されたことを受け、若干の用語の修正を行っております。】
今年(2022年)6月初旬に台湾知的財産局(以下、知財局)より発表された専利実体審査基準第二篇の一部の改訂が、2022年7月1日付で施行された。今回の改訂のポイントは、制度における調整を伴うものではなく、現行の審査実務においてよく見られるいくつかの問題を、明確にする点にある。その概要は以下のとおりである。
1. 同じ創作を同日に発明専利(以下、特許)と新型専利(以下、実用新案)として出願し、方式審査のみにて先に登録された実用新案権に対して無効審判が請求された場合、特許の審査はどのように行われるか
同一出願人が、同一の創作(発明・考案)を同日に、特許、実用新案として出願する場合、実用新案では、方式審査のみが行われるため、通常、方式審査を通過すると、出願後約半年で、先に実用新案権を取得することになる。実用新案が登録されると、無効審判を請求される可能性があり、この場合、同時に出願していた特許の審査がどのように行われるかについて、改訂前の審査基準では、明確に規定されていなかった。
この問題につき、今回の改訂では、次のように定められている。。
(1) 原則として、「同一の創作による実用新案と特許」の審査結果は、一致したものでなければならないため、実用新案に対する無効審判の結果が出るまで、特許に係る審査は保留されることとなる。ただし、特別な状況がある場合(例えば、特許出願に特許要件を満たしていない明確な事実証拠が出された場合)、または、事情に変更があった場合(例えば、特許案件が請求項を補正し、実用新案の請求項とは、既に「同一の創作」ではなくなった場合)はこの限りではない。
(2) 特許出願の特許査定から公告前まで、取得した実用新案に対し無効審判が請求され、請求は成立したが、無効が未だ確定していない場合は、同一の創作による実用新案と特許の審査結果は一致したものとすべきとの原則に則り、特許出願の特許査定を取り消し、改めて審査を行うものとする。
2. 審査意見を受ける前に除外形式により請求項を補正すること(除くクレームとする補正)は可能か
専利の審査において、明細書または請求項の補正が、出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面から直接かつ一義的に知り得るものではない場合、新規事項追加と見なされ、原則、認められていない。
しかし、除外形式による請求項の補正(除くクレームとする補正)、すなわち先行技術と重なる内容の除外は、たとえ、除外事項が出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面から直接かつ一義的に知り得るものでなくても、状況により、例外的に認められることもある。改訂前の審査基準では、出願人が審査意見通知を受けた後、「新規性欠如」、「拡大先願による新規性喪失」、「先願原則に合致しない」との指摘理由に係る先行文献による障害を克服するために、「除くクレーム」の形で請求項を補正する場合は、例外的に新規事項追加とは見なされず、許容可能な補正とされていた(当所、2020年12月のレポートを参照のこと)。一方、出願人が、審査意見通知を受領する前に、先行技術と重なる内容を除外するよう除外形式(除くクレームの形)にて自発的に請求項を補正できるかどうかについては、明確に示されていなかった。
今回の改訂では、出願人は、自発的に「除くクレーム」の形で請求項を補正することができることが定められ、また、補正する際には、排除しようとする先行技術文献及び理由を併せて提出しなければならないことが明文化されている。係る先行文献および理由が提供されない場合は、当該除外事項の記載は、新規事項の追加と見なされ、当該補正は、明細書の開示を超えたものとして却下されることになる。。
出願人の自発的な除外形式での請求項補正への認可は、特許戦略の策定により多くの柔軟性をもたらすことが期待される。例えば、台湾での特許出願において、PPH(特許審査ハイウェイ)出願により、加速審査を請求する場合、特許査定を受けた他国対応出願案の請求項が除くクレームの形にて記載されているならば、改訂された新たな審査基準に則り、台湾出願の請求項を自発的に他国対応出願と同様に除くクレームとする補正を行った上で、PPHを申請することが可能となる。
3. 誤記の訂正が可能な状況
特許権取得後、出願人が誤記を発見した場合、明細書又は特許請求の範囲の訂正を請求することができる。訂正可能な誤記の典型例としては、用語の訳語の前後不一致、タイプミス等が挙げられる。
今回の改訂では、実務上、訂正が認められるその他の誤記の種類についても明確に定めており、例えば、図面の番号、部品の符号や必要と認めた注記文字と明細書の記載との明らかな不一致が認められた場合、各図面に明らかに不一致な箇所が存在し、誤描が認められた場合、等があげられる。
更に、今回の改訂では、技術事項に係る誤記の訂正も容認される可能性があることについて明示されている。例えば、明細書や特許請求の範囲に記載した化学式または数式を訂正する場合、当業者が出願時の通常の知識に基づき、元々記載された化学式または数式が「明らかなタイプミス又は誤り」であり、かつ、当該訂正以外の別の訂正方法が存在しないと判断できる場合は、当該訂正は容認されるものと見なされることとなる。
4. 生物材料関連特許の寄託・寄託機関の証明文献の基本要件
台湾専利法では、生物材料または生物材料を利用する特許出願において、出願人は遅くとも出願日までに当該生物材料を専利主務官庁が指定する国内の寄託機関に寄託し、出願後4ヶ月または最先の優先日から16ヶ月以内に寄託書類を提出しなければならず、期限までに提出しなければ、寄託していないものと見なされると規定している(第27条)。
台湾以外での寄託については、台湾はブダペスト条約の加盟国ではないため、ブダペスト条約に基づく国際寄託機関への寄託効力は台湾では一般的には認められておらず、特許にかかる生物材料が、国際寄託機関に寄託されていたとしても、出願人は、台湾知的財産局が指定している国内寄託機関に寄託をする必要がある。一方、寄託効力の相互承認に関する協定が締結されている国(現時点では日本、韓国、英国)が指定する「当該国国内寄託機関」が発行した証明を提出することができれば、台湾にて寄託する必要はなく、国外寄託にて台湾寄託に替えることが可能となる。
今回の改訂では、寄託機関(特に国外の機関)の証明書類が多様であることに鑑み、寄託機関の証明書類の要件として、生物材料の「寄託の事実」及び「生存の事実」の証明が必須要件として規定されている。
今回の改訂により、外国人出願人が台湾にて生物材料に係る特許を出願する場合には、以下の点に留意する必要がある。
- 法定期間内に、台湾または、日本、韓国、英国の指定する寄託機関に生物材料を寄託できるか。
- 当該日本、韓国、英国の寄託機関はブダペスト条約締約国承認の国際寄託機関であるか。(証明書類がブダペスト条約締約国の承認する国際寄託機構によるものである場合、原則的に当該要件を満たしているものとされる)
- そうでない場合、寄託機関の証明書類は「生存の事実」を証明し得るか。(証明し得ないと台湾当局に判断された場合は、別途、期限内に生存証明書を提出することを要求される可能性があり、提出がない場合は、寄託していないものと見なされる)