台湾と中国に係る民事事件とその他他国に係る事件の管轄権につき、台湾の法律には明文規定がないが、実務上、台湾の裁判所に管轄権があるかどうかを判断する際、台湾の民事訴訟法における管轄に関する規定の類推適用をする場合が多い。また、他国に係る事件の管轄権につき、台湾の裁判所もフォーラム・ノン・コンビニエンス(Forum Non Conveniens。不便宜法廷地)の原則を採用している。即ち、たとえある受訴裁判所に某事件に対する管轄権があっても、当裁判所が不便な裁判所であり、且つ他の管轄権を有する国が審理すれば、より当事者及び公衆の利益になると判断する場合、当裁判所が不便な裁判所であることを理由に管轄を拒否することができる。
最近、台湾の知的財産及び商事裁判所により審理された著作権侵害事件のうち、台湾と中国の管轄権とフォーラム・ノン・コンビニエンスの原則に係わるものがあった。この事件の原告は台湾のゲームメーカーのS社であり、S社が開発した「武林群侠伝」がかなりのヒット作であったため、中国語圏ではそれを模倣したゲームが多数生まれている。そして、S社は、中国のB社により開発された「侠客風雲伝ONLINE」というスマホゲームがS社の著作権を侵害したとして、B社を被告として知的財産及び商事裁判所に民事訴訟を提起した。しかし、第一審裁判所がこの事件にフォーラム・ノン・コンビニエンスの原則の適用があるとしてその決定でS社の訴えを却下した。これを不服としてS社は第二審裁判所(またも知的財産及び商事裁判所)に抗告したが再び決定で却下された。これを受けてS社が引き続き最高裁判所まで抗告した結果、最高裁判所は原審の決定を破棄した。その後、事件が差し戻された知的財産及び商事裁判所は、最高裁判所の判断により本件にフォーラム・ノン・コンビニエンスの原則の適用がないと認定し、本来の第一審裁判所に審理を続行させた。
従来の裁判所は、主に下記の三つの要素でフォーラム・ノン・コンビニエンスの原則の適用があるかどうかを判断する。
- 被告の応訴の利便性
- 証拠収集の利便性
- 台湾の判決が中国で執行される際の実益
本件の第一審と第二審裁判所は、B社が中国に設立された会社で、台湾に事務所又は営業所がなく、そのゲームは既に台湾で販売中止となり、侵害行為が中国で継続しているため、関連証拠の調査は、中国の裁判所で行ったほうが便利で、かつ、当事者が台湾の裁判所で攻防することは甚だ不便であるとした。また、たとえS社が勝訴判決を得た場合、侵害排除・損害賠償のための強制執行の申立てと実施は中国で行わなければならないため、中国の裁判所が審理したほうが当事者の利益になると判断した。
しかし、最高裁判所は、下記の判断を示した。つまり、B社が既に弁護士を立てたため、台湾の裁判所で応訴することが困難でない上に、B社のスマホゲームがインターネットを通じてダウンロードされるものであり、S社も両社のゲームを比較するための資料を提出したので、本件の証拠調査に不便がない。さらに、中国の法規によると、S社が台湾で勝訴した場合、中国の裁判所に判決の承認と執行を申し立てることができるので、B社が台湾で財産を有しないため強制執行を実施する実益がないということもない。とりわけ、本件における侵害行為の結果発生地は台湾であり、S社が台湾で提訴する権利を認めなければ、公平でなく公衆利益に反するので、本件にコンビニエンスの原則の適用がない。
上記の最高裁判所と差し戻し審の見解から分かるように、当事者が弁護士を立てて応訴することに困難がなく、且つ台湾と中国の法規により勝訴判決を執行することもできるので、ある事件にコンビニエンスの原則の適用があるかどうかは、証拠収集の利便性による。そこで、台湾も中国も管轄権を有する知的財産権侵害事件で原告が台湾で訴訟を行うことを望むなら、コンビニエンスの原則の適用を避けるために、起訴する前に充分に証拠を収集することが望ましい。
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