台湾専利は発明(特許)・新型(実用新案)・設計(意匠)の3種に分けられるが、新型は形式審査制度が採用され、一定の形式要件を満たせば、産業上の利用可能性・新規性・進歩性等の専利要件について実体的な審査を経ずに登録を受けることができる。この為、新型専利の実質的な権利は、不確定な状態にあると言える。
権利所有者がこの不確定な権利を行使することで、権利濫用の状況が生まれないように、台湾専利法では、「新型専利権者が新型専利権を行使する場合、新型専利技術評価書を提示しなければ、警告することができない」・「新型専利権者は専利権が取消しとなった場合、その取消しの前に新型専利権を行使して他人に損害を与えたときは、賠償責任を負わなければならない。ただし、新型専利技術評価書の内容に基づき、相当の注意をしていたときは、この限りでない」と規定している。このように技術評価書(以下、評価書)が権利行使時に担う役割と重要性は明らかにされているが、評価書の請求・処理原則・作成等に係る事項について、審査基準に明確な規定があるわけではない。
2020年7月31日に台湾知的財産局(以下、TIPO)は、新型専利審査基準を改正して、評価書の請求・処理原則・作成等に係る事項を審査基準に盛り込み、それが2020年8月1日施行されることを発表した。
この度改正された規定の内容には、下記が含まれている。
- 評価書の請求人・請求のタイミング、及び非専利権者が新型専利を業として実施している状況にあると主張する場合について
- 評価書が法に基づき比較すべき事項
- 検索の対象及び範囲を含む、評価書の作成の1.流れ
- 評価書作成時に注意すべき事項
この内、評価書の作成の流れと比較対象等に関する改正のポイントは、以下の通りである。
[1]「技術評価書引用文献通知」を発行する要件を緩和
評価書の内容は、先行技術との全体的な比較に重きを置いており、それには、1.新規性欠如(評価1)、2.進歩性欠如(評価2)、3.擬制新規性欠如(拡大先願)(評価3)、4後願(評価4)・同日出願(評価5)が含まれている。
評価書は拘束力のないレポートであることから、その性質的に言えば行政処分には当たらない。これにより、その新型専利が実体的な要件を備えていないとする比較結果が出たとしても、それに対して行政救済を求めることはできず、以前(2019年7月以前)は評価書作成の過程で、すべての請求項が新規性欠如及び(又は)進歩性欠如(評価1~3)である場合を除き、適時性に鑑み反論の機会を与えられておらず、専利権者の立場からみれば、権利の保護が十分でなかったと言える。
これに対し、TIPOは2019年7月に規制を緩和し、請求項が1項でも評価1~3であると審査官が判断すれば、「技術評価書引用文献通知」を発行して専利権者に説明をするよう通知することになっていた。
そして、この度の審査基準の改定では、2019年に緩和された内容を更に緩め、「技術評価書引用文献通知」を送付する条件を、評価1~3に加え評価4~5に該当する場合も含み、先願主義の原則に反する請求項についても説明や訂正をする機会が与えられることになった。ただし、評価書作成の適時性を考慮し、当該通知に対する応答については、期限の延期や面接が認められていないことに注意をしなければならない。
また、一回目に作成された評価書において評価1~5であった請求項が、その後に請求され作成された評価書でも評価1~5であった場合、再度「技術評価書引用文献通知」を送付して専利権者に説明を求める旨も審査基準に明記されている。
[2]評価書作成時に訂正請求がなされた場合
これまでの実務では、評価書の作成中に訂正請求がなされた場合、評価書請求時に訂正後の請求の範囲で評価を行なうことを求めていなければ、評価書を迅速に作成するため、訂正前の請求の範囲で評価を行なうことになっていた。
この度の改正では、原則的に訂正の審決を待ってからその結果に基づいて評価書を作成することが明文規定されている。ただし、案件に複雑な事情(非専利権者が業として実施していたり、請求人が専利権者でなく、侵害争議に関わっていたりする状況、又は無効審判請求の状況が複雑である状況等)があると請求人又は専利権者が主張する場合、訂正前の請求項に基づいて評価書を作成してもよいとされている。
上記の他、この度の改正では請求項の比較がし難く、有効な調査ができない場合の取り扱いについても追加されている。
これまでの実務では、このような状況にある場合、評価をしないことになっていたが、この度の改正では、既存の明細書が明確でなく、かつ十分に開示されていない、又は請求項の記載が不明確で検索と比較が難しい場合、説明欄にこの事実と理由を明記し、評価をしないことが明記されている。
もし、審査官が明細書・請求の範囲・図面の記載や、出願時の通常の知識により請求項に対して合理的な前提条件を設けることができるのであれば、その前提条件に基づいて新規性・進歩性等の要件の比較を行ってもよいとしているが、その場合は、比較説明欄において、その事実・理由及び設定した前提を明記しなければならない。