2020 年10 月5 日、台湾知的財産局(以下、TIPO という。)は、新興科学技術の発展に合わせ、またいくつかの実務を明文化するための意匠(設計専利)審査基準の一部の改正について、同年11 月1 日付で施行することを発表した。
改正内容には、下記の4つのポイントが含まれている。
弊所では今後も引き続き進捗を確認し、適時にレポートをしていく予定である。
1. 説明書と図面の開示要件を緩和
(1) 図の種類と数量がよりフレキシブルに
意匠登録出願の図の種類と数量について、この度の改正では審査官によりフレキシブルな対応を可能とさせており、図で開示されていなければ、原則的に「意匠登録を受けようとしない部分」と見なしてもよいと明文規定している。
例えば、下図の「掛け時計」の出願について背面図が提出されていない場合、この度の改正では補正を求めなくてもよく、開示されていない背面を直接「意匠登録を受けようとしない部分」と見なしてもよいことになる。

(2) 一部の図を省略
現行の審査基準では、内容が同一又は対称である場合と、“その他の事情”がある場合に限り、図面の一部を省略してもよいことになっている。ここでいう“その他の事情”とは、原則的に物品のある面が「一般消費者が購入時又は使用時に注意が及ばない」というところであり、認定の際に度々争議が起きていた。
この度の改正では、部分意匠の概念を採り入れ、上記の原則を緩和している。図の省略は「図が同一又は対称」・「その他、その意匠の内容を直接知り得るとき」という2種類の状況で行うことができる。“その他、その意匠の内容を直接知り得るとき”について、TIPOは下記の例を挙げている。「出願人が図を省略した意図と理由を意匠の説明書に明記しなければならない。そうすることで、省略した図面の内容が意匠登録を受けようとする部分に含まれることになる。

この例では「正面・背面・左側・右側面図は、厚みが極薄の簡単な断面であるため、省略する」と釈明できる。
上記の理由で図面を省略したのではなく、一部の内容が図面に開示されていない場合、原則的に「意匠登録を受けようとしない部分」と見なされ、TIPOが補正を求めなくてもよいことになる。図を省略した理由が、一般消費者が購買時又は使用時に注意が及ばないものであることや、意匠の特徴でない面であるかは問われなくなる。
(3) 開示内容に基づき実施できない
意匠登録を受けようとする部分の外観が、提出された図で十分に開示されていないとき、又はその範囲が明確に限定されていないとき、「図に基づき実施できる」という要件を備えていないと判断される。
この点について、TIPOは下記の例を挙げている。

上記のいくつかの原則は、下記の判断フローチャートのようにまとめられる。

2. 建築物と室内デザインが意匠登録の保護対象であることを明確化
現行意匠審査基準は2013年に改正されたのち、元々の「家屋、橋梁等の建物又は室内、庭園等の不動産のデザインであってはならない」とする制限を削除し、意匠登録の請求対象を単独取引可能な動産に限らないとしている。この度の改正では、更に一歩進んで、意匠登録の請求対象を建築物・橋梁、又は室内空間等のデザインであってもよいと明文規定している。例えば、下図の「厨房の一部」の意匠登録出願であれば可能となる。ただし、上記で述べたように、提出されていない図については、審査官が直接「意匠登録を受けようとしない部分」と見なすことができる。

3. 意匠の分割出願に対する規定を緩和
現行の審査基準では、出願時に図面が一つの外観を一つの物品に用いたもののみを開示しており、実質的に複数のデザインを明確に開示していなければ、「意匠登録を受けようとしない部分」に開示されている内容について、別途分割出願をすることができない。
この度の改正では、上記の制限を削除し、“分割出願は元出願の開示範囲を超えていなければ認められる”と明文規定している。
例えば、下記の3つのパターンはいずれも分割が認められる。
(1) 出願時に「参考図」が明確に開示している内容

(2) 出願時に図面で明確に開示されている組物の一部

(3) 出願時に図面で明確に開示されているが、意匠登録を受けようとする範囲が異なるもの

4. 画像デザインに関する規定を改正
“意匠”について、専利法では、「物品」に応用したものでなければならないと定義している。現行の審査基準によると、画像デザイン(コンピュータにより生成したアイコン(CGI)及びグラフィカルユーザインタフェース(GUI)を含む。以下同じ。)の応用物品は、「スクリーン」・「モニター」・「ディスプレイパネル」又はその他のディスプレイ装置等に関する物品であってもよいとされている。しかし、これらの記載方式に、プロジェクターやバーチャルリアリティ(VR)等の新興技術による画像デザインを含むことは難しい。そして、権利侵害者は、ハードウェアを製造する業者ではなく、「コンピュータプログラム製品」の業者であることが多い。
(1) 再定義
この度の改正では、下記のように再定義している。
「画像デザインは、コンピュータプログラムを介して生成され、各種電子デバイスのモニターにより表示又は投影して生成できる二次元又は三次元の仮想図形である。」
(2)「コンピュータプログラム製品」という一般名
この度の改正では、画像デザインが応用する物品が「コンピュータプログラム製品」であってもよいと明文規定している。そして、意匠の名称を「コンピュータプログラム製品の画像」・「コンピュータプログラム製品のグラフィカルユーザインタフェース(GUI)」・「コンピュータプログラム製品の操作リスト」・「コンピュータプログラム製品のウィンドウ画面」等にして、より幅広い範囲の権利を得てもよいとしている。そうすることで、各電子機器を別途出願する必要もなくなる。
もし、一般名「コンピュータプログラム製品」を名称に用いる場合、コンピュータプログラムが組み込まれた電子機器全てが該物品の近似範囲に含まれるが、下記のように、同一又は近似の模様や図柄を有する物品はカバーされない。
► 出願名「コンピュータプログラム製品の画像」
ア:先行意匠「洗濯機(コントロールパネル使用)の画像」
→当出願をすでに開示している。。
イ:先行意匠「包装紙又は反物上の模様」
→当出願を開示していない。
ウ:先行意匠「携帯電話の本体ボタンの模様」
→当出願を開示していない。
► 出願名「携帯電話の画像」
ア:先行意匠「洗濯機(コントロールパネル使用)の画像」
→当出願を開示していない。
(3) 破線でキャリア(画像が表示される物品)を描く必要が無い
この度の改正では、更に「コンピュータプログラム製品で生成された画像デザインは、破線などで“意匠登録を受けようとしない部分”とする表現でスクリーン・モニター・ディスプレイパネル等のキャリアを描く必要がない」と明文規定している。下記の図9-12乃至9-14の通りである。
当該画像デザインの物品や環境を表現したい場合、又は意匠登録を受けようとしない部分については、破線で表現することもできる。下記の図9-15の通りである。
もし、画像デザインが複数の分離可能な画像エレメントであるときや、意匠登録を受けようとする内容を明確に限定したい場合は、破線又はその他の点線で境界線(boundary)を描かなければならない。下記の図9-16の通りである。
