「楓林網」(8maple.ru)というウェブサイトは、海外サーバーで不特定の視聴者に動画を提供する海賊版配信サイトであり、規模としてそのトラフィック量は、嘗て台湾国内の海賊版配信サイトの中で一位となったといわれている。
2020年4月、台湾の桃園地方検察署の検察官は、ネット犯罪の取締りを専門とする警察官を指揮し、「楓林網」を取り締まった。この事件は、台湾においてウェブサイトとドメイン名を閉鎖する最初の刑事事件となった。
台湾においてこのような海賊版配信サイト(以下、海賊版サイトと称する)にどう対処すべきかについて、以下では、二つの実行可能な措置を説明しよう。
先ず、海賊版サイトのサーバーとサイトそのものについて、台湾の刑事訴訟法第122条以下の捜索に関する規定、及び第133条以下の差押に関する規定に基づき、次のような手順で捜索・差押を進めることができる。はじめに、台湾の警察が捜査手続を通して運営者の身分を確認し、一般の捜索・差押手続に沿ってそのパソコン・携帯電話を押収する。警察の尋問・捜索の権限、及び電信捜査により、海賊版サイトのアカウント・パスワード等の管理権限を取得することで、その海賊版サイトを閉鎖し、又はホームページを差し替えることが可能であろう。
しかし、実際にそれを実行しようとすると、様々な困難に直面することが予想される。そもそも取締りを逃れるために、又は管理上の便宜のために、「クラウドサーバー」、「ダミー・偽名」、「ドメイン取得代行サービス」等の手段を利用して匿名でドメインを取得することがよく見られる。この為、真の侵害者の特定・所在確認は容易なことでなく、知的財産権者が有効な対抗策を講じることは難しい。台湾の内政部警政署刑事警察局の広報によると、検察・警察当局は、その事件で運営者を逮捕し、パソコン、携帯電話、クラウドサーバーへのアクセス権、及びその他の動産、不動産を差押えた後、一歩踏み込んで「楓林網」のホームページに「当サイトは閉鎖された」、「当サイトの全部又は一部のコンテンツは著作権法第92条と第93条に違反した海賊版のものであるので、捜査を受けている」というメッセージを掲載している(このメッセージは、差押えた当初の2020年4月上旬から6月にかけて見られていたが、現在はドメインの登録期限が切れたというメッセージしか見られなくなっている)。
また、検察・警察が直接ドメインを差し押さえ、侵害者がそのドメインで違法行為をできないようにすることも可能かと思われる。台湾の刑事訴訟法第133条第1項、及び刑法第38条第2項の規定によると、差押の対象は、証拠になる物、又は没収できる物を含むとし、且つ海賊版サイトのドメインは犯罪のために用いられる物として没収できるので、差押の対象にもなる。これにより、たとえ検察・警察が直接侵害者を特定できない場合でも、刑事訴訟法第133条第1項、及び133条の1により差押決定を下すよう裁判所に申込み、裁判所の決定を受けた後、そのドメインを管理する権限を渡すこと、そのドメインを移転すること、又は、視聴者が海賊版サイトにアクセスする際に当局がそのサイトを差し押さえたというメッセージが見られるように、その海賊版サイトを所定のIPに導くことをドメイン管理機関に要求することができる。尚、ドメイン名を管理する国際団体ICANNが制定した「Guidance for Preparing Domain Name Orders, Seizures & Takedowns」という規則には、関連手続きが記載されている。台湾の実務において、これまでにこのような先例はないが、今後もし「楓林網」のような海賊版サイトの取締りで検察当局が裁判所からドメインを差し押さえる決定を取得することに成功すれば、台湾の司法実務が海賊版サイトのドメインが刑事訴訟法上の差押の対象であることを肯定することになり、権利者にとって、とても有意義なこととなるであろう。しかし、ここで注意しておくべきは、もし海賊版サイトのドメインが他国で登録されたとしたら、台湾の司法機関の管轄権は他国に及ばないため、国際刑事司法共助に頼らずに海賊版サイトの差押を実現することができないということである。
知的財産権の侵害行為を有効に抑制することは、文明国の避けられない責務と言えよう。しかし、この類の事件は、通常、多国間の司法共助に係るので、将来的に台湾の検察・警察が、どのように刑事訴訟法の規定と国際刑事司法共助の協定に合致する形で海賊版サイトの撲滅に尽力するかは、注目に値することである。
-----------------------------------------------------------------------
本ウェブサイトのご利用に当たって、各コンテンツは具体的事項に対する法的アドバイスの提供を目的としたものではありませんことをご了承下さい。