台湾の商標法第36条第2項の本文は、「登録商標を付した商品が、商標権者又はその同意を得た者によって国内外の市場で取引流通されたとき、商標権者は当該商品について商標権を主張することができない」と規定している。この条文は「商標権の消尽」を明文規定しているものであり、並行輸入業者が真正品の並行輸入を合法的に行える根拠ともなっている。一方、同一の商標が国内外で異なる商標権者等に取得され、且つその異なる商標権者等に一定程度の経済上の関連性がある場合、上記の条文に示されている商標権の消尽原則が適用されるかどうかについて、実務上、肯定説と否定説が存在している。近頃、この相違について、台湾最高裁は2020年1月30日の民事判決(108年度台上字397号)でその見解を示した。
この事件の発端は、「PHILIP B」という商標(以下、本件商標と称する)が台湾と米国において、ビジネス上の関係がありながら主体が異なる商標権者に取得されたことに始まる。端的に言えば、台湾における商標権者は、米国における商標権者の同意を得て台湾で本件商標の商標出願をした。そして、本件の原告は、米国から「PHILIP B」の真正品(以下、被疑製品と称する)を台湾国内に並行輸入した業者で、台湾における商標権者の干渉を避けるべく、上記の商標法第36条第2項により、台湾の知的財産裁判所に対し商標権侵害差止請求権の不存在確認訴訟を提起した。
そして、知的財産裁判所は、一審も二審も商標権の消尽原則が本件に適用されないと認定した。その理由として、商標法第36条第2項の本文の立法理由によると、台湾の商標法は国際消尽の原則を認めており、即ち、商標権者又は被許諾者が商標を付した商品を国内又は国外に第一次の販売又は流通を行った際に既に報酬を得たため、その商標権は第一次の販売で消尽し、その商品が再度市場に流通された場合、商標権者は原則的に商標権を行使して他人がその商品を再度販売することを禁止できなくなることを挙げた。しかし、台湾と米国で本件商標が異なる商標権者により所有される本件においては、被疑製品は並行輸入業者により米国における商標権者から購入されたものであり、台湾における商標権者(被告)が第一次の販売を行った者ではなく、無論、被告も被疑製品の販売につき如何なる報酬を受け取っていない。そのため、知的財産裁判所は、商標権の属地主義に照らすと、商標権の消尽原則は、商標を付した商品の第一次の販売が行われた際に台湾の国内外の商標権者が同一である場合のみに適用され、並行輸入業者が台湾における商標権者に対し商標権の消尽を主張してはならないとし、原告側の敗訴を下した。
本件が最高裁判所に上告されたところ、最高裁判所は、商標権者が同一の図形を以て自ら又は他人に許諾して複数の国で商標を取得した場合、属地主義の見地から見ると、もとより異なる商標権となるが、その図形が同一であり、且つ商標権の排他的効力も本質的に同一の権利者に由来したため、異なる国における商標権者に互いに許諾関係、又は法律上の関係があれば、許諾を得て商標権を取得した商標権者に対し消尽の効果が生じるとした。しかし、被疑製品が米国における商標権者により販売・流通された後、被疑製品に付した本件商標権の消尽の効力が米国における商標権者の同意を得て台湾で同一の図形の商標権を取得した台湾における商標権者に及ぶかどうかについて、原審はそれを判断せず、台湾における商標権者が被疑製品の第一次の販売又は流通より報酬を受けていないことを理由に商標権の消尽原則の適用を直ちに否定していた。その結果、原審の判断に対し、最高裁判所は、商標法第36条第2項に規定される商標権の消尽原則が台湾の国内外の商標権者が同一である場合のみに適用されるとして並行輸入業者に不利な判断をしたことに間違いがあるとし、原審判決を破棄し、知的財産裁判所に差し戻した。
今後、並行輸入品に係る学界と実務の関係者がどのように最高裁判所の上記の見解に反応するかは注目に値する。
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