大学は、人才育成の揺りかごであり、展望性のある技術革新の礎である。これまで、台湾の大学及び高等専門学校等(以下「大学等」という。)は、科学技術分野において例年多くの研究成果を産み出してきたが、産業界との結びつきが弱いために、早期に産業界の支援を得られない状況下にあり、限られた運用資金で研究成果の一部のみを専利(台湾では、特許、実用新案及び意匠を合わせて専利という。)として権利化できるに留まっていた。また、これらの専利が、さらに商品化に至ったり、実際に商業的価値を生み出すことは決して多くなかった。大学等が多くの人的及び物的資源を投入して得た研究成果は、国家にとって貴重な財産であり、これが産業界において有効に実用化されないとすれば、大きな損失である。近年、台湾政府は、このような現状に鑑み、大学等の研究成果の技術移転に関する法規制を次第に緩和し始めた。大学等の研究成果の活用率を高め、台湾産業の革新を促すことがねらいである。
詳述すると、これまでは大学等の研究成果及びそこから生み出された専利のすべては国有財産になっていたことから、企業がこれらの研究成果を利用し、又は専利の専用実施権を取得しようとする場合、主務官庁の煩雑な行政手続きを経なければならず、ビジネスチャンスを逃しかねなかった。そこで、政府は、この改善策として、研究成果がすべて国有財産に属するとした従前の規定を撤廃し、政府が特に国に属すると認定したもの(例えば、国家の安全に関わるもの又は公的利益若しくは経済に深刻な影響を与えるものなど)を除き、すべて大学等に属する財産として、自由に利用・処分できるようにした。これにより、研究開発の成果やそこから生み出された専利から得られる收入を、学校の基金として科学技術研究の発展に用いることができるようになった。また、産学連携を推し進めるため、公立大学等の教員及び研究者にベンチャー企業の職を兼任することを認めたほか、これらの者のベンチャー企業に対する株式保有制限を緩和する法改正を行った。さらに、公立大学等はその校務又は研究と関連のある会社や企業に投資することができ、私立大学等は投資の形で教育、実習、実験及び研究の推進と関わりのある事業を立ち上げることができるようになった。このほか、大学等は、起業を促すため、イノベーション・起業プログラムに参加する学生によるベンチャー企業の登録住所として、自校の構内を提供できるようにした。
上記のような法制度による環境整備のほか、2017年、行政院(内閣府に相当)は、コンパクトでフレキシブルな研究開発サービス会社の設置及び関連支援策の実施を目的とする「次世代科研人材革新環境づくり推進計画」を打ち出している。一方、教育部(文科省に相当)は「大学知財サービスプラットフォーム」(Campus I.P.R Service , CIS)を構築し、知財管理分析サービスの提供を中心に、独自に募集又は育成した専門的な知財管理スタッフにより、大学等の研究開発成果の運用を支援している。また、2018年、教育部は、「大学における研究開発サービスベンチャー企業育成プラン」の運用を始めた。これは、大学等の教員と学生からなる研究開発サービスチームを主体として、博士級人材が率いる実験室と産業界との長期的な連携関係を構築し、さらに研究開発サービスを提供するベンチャー企業(Research Service Corporation, RSC)に発展させる仕組みである。これに関して、2018年9月までに、26校に上る大学等から提出された分野を跨る研究開発計画のうち、46件が教育部に認可され、それぞれ毎年600万台湾ドルまでの補助金が支給されることとなっている。
このように、政府の大々的な後押しを契機に、台湾の大学等の研究成果が量、質の両面から向上するだけでなく、大学等から生み出されたベンチャー企業の増加も期待される。加えて、商業化された革新的な研究成果がもたらす報酬によるインセンティブを考慮すると、今後、研究成果から生まれる国内外の専利出願案は増える一方であろう。
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