最近、台湾公司法(会社法)に計148条の条文が改正された大幅な変動があった。改正草案は、2018年7月6日に立法院(国会)で可決され、同年の8月11日に改正後の条文が総統(大統領)に公布され、同年の11月1日から全面的に施行されている。今回の改正の目的は、新たなビジネスモデルの登場、ベンチャー企業の勃興、経済上の構造変革等の要因がもたらした課題に対応すると同時に、企業運営のフレキシビリティの向上、ベンチャー・フレンドリーな環境整備、企業統治と株主権益の強化等を図り、公司法を諸外国の法制度と調和させることで国際競争力を向上させることにある。なお、アジア・太平洋マネー・ローンダリング対策グループ(Asia/Pacific Group on Money Laundering。略称APG)の評価に対応すべく、今回の改正を通してより完全な資金洗浄対策システムを構築することも期待される。
今回の改正は広い範囲に及ぶため、以下では、そのうちのいくつかの重要なポイントを紹介する。
一、 外国会社の認許制度の撤廃(公司法第4条、第371条以下)
今回の法改正が行われる前、外国法人が台湾当局の「認許」を得て初めてその法人格が承認され、台湾で営業活動を行うためには、認許を得た後も支店登録を済ませる必要があったが、法改正後、外国法により設立された外国会社は、台湾において認許手続を経ずにその法人格が承認されて権利能力を有する主体となり、支店登録のみを行うことで外国会社の名義で業務運営することができるようになった。
認許制度の撤廃により、行政手続が単純化されるのみならず、外国会社が台湾において行う法律行為の有効性を向上させ、認許を得ていない外国会社と国民との間に起こるような、煩雑な解決を要する紛争を避けることが期待される。
二、 無額面株式の発行(会社法第129条、第140条、第156条、第156の1条、第162条)
旧法の規定では、会社が発行する株式の額面に制限がなかったが、発行価格は一律でなければならなかった上、原則的に発行価格は額面金額より低くてはならなかった。また、かつては公開会社の株式の券面額を10台湾ドルに限定する規定があった。この規定は、後ほど会社がフレキシブルに額面を決められるように改正されたが、実務上、多くの非公開会社は、将来の株式公開準備計画に支障をきたさないために、依然として株式の発行価格を10台湾ドルに設定していた。
今回の改正は、アメリカ、日本、フランス、シンガポール等諸外国の法制度に倣って、会社が全面的に無額面株式を発行できるようにした。これにより、ベンチャー企業の資金調達が容易になり、起業家が低価格で株式を発行できる上に、より低コストで自分の株式比率を高くして会社の主導権と経営権を握れるようになることが予想される。
三、 実質的な受益者の情報の申告義務(第22条の1)
APGの評価に対応し、且つ会社の実質的な受益者に関する情報を透明化させるために、当改正では、会社はその董事(取締役)、監察人(監査役)、経理人(支配人)、及び発行済株式数又は資本総額の百分の十以上を有する株主の情報を毎年申告する義務を負うようになった。申告すべき情報は、上記の者の氏名又は名称、国籍、生年月日又は設立登記の年月日、身分証明書類の番号又は統一編号(会社番号)、及び持株数又は出資額等である。そして、当申告は、台湾経済部の指定を受けている「台湾集中保管結算所」(TDCC)が運営している「会社責任者及び主要株主情報申告プラットフォーム」(https://ctp.tdcc.com.tw)に対して行なわれるものである。当プラットフォームにアップロードした情報は公開されず、公衆もアクセスできないが、裁判所又は行政機関が資金洗浄の案件を処理、調査、審理する際に必要がある場合、若しくは裁判所又は行政機関が前記の公司法第22条の1に規定される申告義務より生じた訴訟案件、又は訴願(行政不服)案件を審理、処理する場合、その情報にアクセスしてそれを利用することができる。
また、情報の申告期間について、改正後の公司法の施行日である2018年11月1日に合わせて、各会社の初めての申告期間は2018年11月1日から2019年1月31日までである。
なお、当申告に関しては、下記の記事により詳しい説明がある。
http://www.saint-island.com.tw/JP/News/News_Info.aspx?IT=News_4&CID=496&ID=1245
今回の公司法の改正は、10年ぶりの大改正であり、当局は、以前台湾の実務上起こった難問の解決を図る以外、諸外国の制度に倣って台湾の公司法制度を国際的趨勢と共に進展させることを目指している。一方、当改正は広い範囲に及び、多くの法令(例えば證券取引法)とも関わりあっているのみならず、改正後の公司法の細かい部分の運用がどうなっているかを明らかにするために他の下位法令の改正や制定も必要になっているため、今後の関連法令の整備が注目される。