台湾において、真の権利者ではない者が出願し専利(特許、実用新案、意匠を含む)を取得した場合、いわゆる冒認出願の場合、真の権利者は当該専利権を取り戻す機会を有している。取り戻す方法としては、民事訴訟より真の権利者であることの確認訴訟を提起し、勝訴が確定した後、その判決に基づき主務機関に対して冒認者からの当該専利権の移転を申請するという方法がある。もう一つの方法は、専利無効審判制度を利用するものであり、真の権利者が「専利権者は真正な出願人ではない」との理由で無効を申し立て、当該専利権を取消させてから再度出願を行う方法である。すなわち、真の権利者が、争議となっている専利の公告(権利発生)後2年以内に上述の無効審判を提起し、その取消確定後2か月以内に同一案件について出願した場合、取消確定された専利出願の出願日がその出願の出願日と見なされる。しかし、無効審判制度を通して取得された専利権は、民事訴訟により確認判決を得て取り戻した場合の専利権と同じといえるのだろうか。
2025年3月13日付けの経法字第11417300200号訴願決定からは、台湾の知的財産局(以下「智財局」)と、その上級行政機関である経済部訴願機関との間で、この点に関する見解の相違がうかがえる。
事件の経緯
甲は2017年3月に意匠登録出願を行い、審査を経て意匠登録を受け、該意匠登録は同年12月に公告された。公告番号および証書番号はいずれもXである(以下「前係争案件」)。その後、乙は2019年10月(すなわち公告日から2年以内)に、権利者は真正な意匠登録出願人ではないとの理由で前係争案件に対し無効審判の請求を行った。審判の結果、知的財産局は「無効成立、取消すべき」との審決を下した。これに対し甲は不服として訴願を提起したが、訴願機関は棄却決定を下した。甲はさらにその決定を不服として行政訴訟を提起したが、しばらくして当該行政訴訟を取り下げ、結果として知的財産局の「無効成立、取消すべき」との審決が確定することとなった。この案件は無効審判が提起されてから最終的に審決の確定に至るまで約4年半もの時間がかかった。
乙は、上述の無効成立とする審決の確定後2か月以内に、台湾の専利法第35条に基づき前係争案件と同一内容の出願を知財局に行い、新たな出願番号が付与された(以下「後係争案件」という)。なお、この後係争案件に関しては、専利法第35条の規定により、再度の公告は行われない。そして乙は出願から約4か月後に知財局から意匠登録証を受領し、公告番号は元のXのままだが、証書番号としては新たにYが付与された。ところが、乙が新しい証書番号を得た一方で、知財局は通知書において、前係争案件の意匠権は既に年金の追納可能期間を徒過しており、当該意匠権は既に当然に消滅していることを示した。最終的に、乙は一枚の意匠登録証を手に入れたのみで、甲の意匠権の消滅が確定しているため、実際には意匠権の取得は全くできず、証書は紙切れ同然であった。このため乙は結果的に権利の取得は不可となる処分を不服として訴願機関に訴願を提起した。
なお、専利の年金納付に関して台湾専利法では以下のように規定されている。すなわち、年金は誰でも納付することができ、かつ年金はその納付期限日前に納付しなければならず、期限までに納付されない場合、権利者には半年の追納猶予期間が与えられる。さらに、この半年の猶予期間経過後も、猶予期間の満了から1年以内であれば専利権の回復を請求することができる。しかし、猶予期間および回復請求期間のいずれも徒過した場合、専利権は年金の納付期限の翌日から当然に消滅したものとみなされる。
訴願機関が本件において提示した第一の問題は、甲の前係争案件と、乙が専利法第35条に基づいて出願した後係争案件との関係である。すなわち、甲が年金を納付しなかったことにより前係争案件の専利権が消滅確定した場合、それが後係争案件の専利権にも影響し、乙が有効な権利を取得できなくなるのか、という点である。
訴願機関はまず、専利法第35条の目的を考慮し以下のように述べた。すなわちその目的は、真の権利者が、その出願する権利に基づいて専利権を取得できるようにすること、さらには、真の権利者による後の出願が、先に冒認出願され公告された専利によって新規性や進歩性を喪失し専利を受けられなくなることを回避するために、取消確定された前の出願の出願日を、後の出願の出願日と見なすことにある。また、後の出願に開示された技術はすでに公告済みであるため、第三者に同一の技術内容について二重に専利権が付与されたと誤認されないよう、専利法第35条第2項では、同条に基づく出願については改めて公告を行わず、前の出願の公告日を権利取得の日として援用する特則を設けている。したがって、専利法第35条の趣旨は、冒認出願によって取得された不正な権利を排除するとともに、真の権利者が本来享有すべき専利権を獲得できることを確保することにある。本件においては、たとえ乙の後の出願の出願日および公告日が前の出願のものと同一であったとしても、後係争案件は既に無効審決により取消された原専利権を真の権利者に直接移転させるものではなく、自ずと独立した出願案件であるといえる。
後係争案件の出願日および公告日は前係争案件のものを援用しているものの、前係争案件と同一案件に属するものではなく、出願人(すなわち本件訴願人)が真の権利者として改めて独立して出願された専利であり、既存のかつ無効審決により取消された前係争案件を直接移転したものではなく、よって、前係争案件が当然に消滅していたとしても、その当然消滅の効果は後係争案件の存続性および有効性とは関係がない。もしこのように見なさなければ、真の権利者は、冒認により取得された不正な特許の取消に成功しても、冒認者の悪意ある行為(例えば年金不納)によって、結局は権利が損なわれ、あるいは全く権利を取得できないという結果に陥りかねない。これは、専利法第35条が真の権利者を保護するという趣旨に明らかに反するものである。
これに対して知財局は、専利の年金は真の権利者によっても納付することができ、もって権利維持の目的を達成できるなどと抗弁した。しかしながら、訴願機関は、年金の納付義務者は専利権者であるべきであり、元の専利権(即ち、前係争案件)が無効審決により取消確定される以前において、無効審判請求人はあくまでその専利権に対しては第三者の地位にとどまるので、無効審判請求人が元の専利権の年金を自ら納付すべき義務を負うのか、また未納による失権の責任をも負担すべきかについては疑義があると言わざるを得ないとした。これらを踏まえ、訴願機関は原処分を取り消し、知財局に差し戻した。
この訴願決定を受けて、知財局は2025年6月に改めて処分を行った。しかしその処分においては、意匠登録証を再度交付しながらも、年金が適時に納付されなかったことにより権利は消滅したとの見解を維持した。具体的には、知財局の主張は次の通りである。すなわち、訴願機関が述べたとおり、後係争案件は独立した案件であるが、その出願日および公告日は前係争案件のものを援用している。したがって、その公告日を援用する以上、後係争案件の第2年分の年金についても、追納期限までに納付されなかったため、後係争案件の専利権は当然に消滅したといえる、というものである。これに対し、後係争案件の権利者は尚も不服を申し立てており、現在も訴願が行われている。
本件において、真の権利者が有効な専利権を最終的に取り戻すことができるかどうかについては、現時点ではまだ結論が出ていない。もっとも、誰が真の権利者であるかをめぐる争いに関しては、年金は誰でも納付可能であるため、真の権利者は、民事上の確認訴訟を利用する場合であれ、あるいは特許の無効審判を利用する場合であれ、係争専利権(すなわち本件における前係争案件)を有効に維持しておくことが不可欠である。特に、真の権利者にかかる争いは数年を要する可能性があり、更には、名目上は権利者であっても実質的には真の権利者でない者が、利益がないことや将来利用できなくなる可能性を考慮して、年金を納付せずに消極的に特許権を当然に消滅させてしまうおそれが高い。その結果、真の権利者の専利権が回復不能な形で消滅する可能性がある点には、十分な注意を払う必要がある。