台湾では、競合相手にプレッシャーをかけることを目的として、専利権者が競合相手の販売代理店・ディーラー等、川下側にある事業者に書簡(警告書)を送ることはよくあることである。しかし、このような専利権を行使する行為と、取引秩序や公正な競争に対する妨害行為との境界が曖昧になる場合もある。この類の警告書を送付する行為を規制するために、台湾の公平交易(公正取引)委員会は、「事業者に対する著作権・商標権又は専利権に係る警告書の送付に関する公平交易委員会の処理原則」(以下、処理原則と称する)を定めた。処理原則によると、専利権者が自らの取引相手に対し、競合相手が自分の専利を侵害したことを通知する場合、事前に、又はそれと同時にこの競合相手、又は侵害品の輸入業者又は代理店に通知する上、取引相手に専利の内容、侵害された具体的な事実を説明し、又は侵害鑑定報告書を示した場合のみ、警告書の送付が専利権を行使する正当な行為に該当し、公平交易法に違反しないとされる。一方、警告書にどのような内容が記載されると処理原則に違反するかについて、台湾の知的財産及び商事裁判所が2024年5月に下した民事判決(112年度民公訴字第8号)を、専利権者が警告書を送付しようとする際の参考にできる。
この事件における専利権者は、自社が保有するヘアカラーリング剤を収容するアルミ袋に係る一連の技術につき、知的財産局から発明専利(特許)3件及び新型専利(実用新案)1件を取得している。専利取得後、専利権者はヘアカラーリング剤市場における多くのメーカー、販売業者、ディーラー、インターネット通販の業者に対し書簡を送付しており、その書簡の主な内容は下記のとおりである。(1)専利権者は関連技術に係る発明専利及び新型専利を取得している。(2)専利法によると、何人も専利権者の同意なしに模倣品の製造・販売をしてはならない。そうでなければ、専利権者は損害賠償と侵害差止を請求することができる。(3)書簡の受取人はヘアカラーリング剤の製造又は販売業者なので、専利権者の専利を実施する可能性がある。それらの専利を侵害している場合、すぐ停止してほしい。そして、専利を実施したいならば業務提携の相談をしてほしい。某競合相手が専利権者から書簡を受け取った後、書簡に権利侵害に係る具体的な事実が記載されていないため処理原則の規定に合致しない上、新型専利に係る主張についても専利権者が技術評価書を取得していないため、書簡の送付が公平交易法に違反しているとして、知的財産及び商事裁判所に提訴した。
しかし、裁判所の判断では、「他人が(権利者の)著作権、商標権又は専利権を侵害したことを記載する書簡を取引相手又は潜在的な取引相手に送付する行為」が処理原則の規制対象となるものの、本件の専利権者の書簡に記載された内容は、専利法の規定、及び「自社が専利権を所有するので、販売・使用している商品で専利を侵害しないように注意してほしい」とのことのみである。専利権者は、競合相手その他の事業者が専利権を侵害したと名指ししておらず、競争の目的で不実の情報を陳述・流布しているわけではないため、専利権者による書簡の送付は、処理原則の規制対象とならず、書簡の送付時に技術評価書を提示しなければならないか否かを論じる必要もない。また、裁判所は、専利権者が書簡で取引相手に専利権侵害の情状の有無に注意するよう促すことについて、取引相手が関連する事業活動に制限をかけているわけではないため、公平取引法に違反しないとした。
その他、知的財産及び商事裁判所は、本件と類似する事件の民事判決(102年度民公上字第2号)で、処理原則の規制対象が「他人が知的財産権を侵害したことを指摘する行為」であるとの見解を示した。その事件では、専利権者も他人が専利権を侵害したことを指摘・暗示していないため、処理原則と公平交易法に違反しないとされた。しかし、注意すべきなのは、書簡の内容では権利の侵害者が何人かが明確に特定されていないとしても、「市場において知的財産権侵害品を製造・販売している業者がある」と指摘すれば処理原則に違反する可能性があるということである。例えば、公平交易委員会の公処字第99076号の処分書によると、このような「侵害者を特定していないものの、市場では侵害者があると指摘した」行為は、取引相手に疑念を生じさせ、ひいては競合相手も取引機会を逃さないために、取引相手に説明を行わなければならず、甚だしきに至っては他人の権利を侵害しないことを誓約することを強いられ、取引コストがしかるべき理由なしに増えることになるので、処理原則と公平交易法に違反するとされた。
上記の裁判所及び公平交易委員会の判断からすると、専利権者が取引相手に書簡を送付することに処理原則が適用するかどうかは、主な考慮点の一つが専利権者が他人が権利を侵害したことを明示・暗示しているかということである。専利権者が送付した書簡では、侵害者が明確に名指しされていないとしても、処理原則の規制対象になる可能性もある。また、2024年3月に新たに発布された処理原則に、新型専利権者が取引相手に書簡を送付する際に新型専利の技術評価書を提出しなければならないという規定が新設された。そこで、新型専利権者が書簡を送付することで権利を行使する際、上記の裁判所と公平交易法の判断に留意する上、知的財産局から内容が自分に有利な技術評価書を取得しておく必要があるか考慮するほうが望ましい。
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