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台湾の知的財産権法の概要(2024年度)

聖島国際特許法律事務所

目次

壱、専利
一、専利の種類
二、知的財産局による2024年の専利法一部条文改正草案
三、2022年の専利法の改正-医薬品パテントリンケージ制度を補完する仕組み
四、専利権侵害の救済、専利権侵害訴訟における防御方法

弐、商標
一、商標の定義
二、「複審及び争議審判部」の設立の中止、異議申立て制度の維持
三、台湾商標法の最近の動向-2023年の商標法改正
四、商標権侵害の救済、商標権侵害訴訟における防御方法

参、著作権
一、著作権の成立
二、台湾著作権法の最近の動向
三、著作権侵害訴訟における救済及び防御

肆、営業秘密
一、営業秘密の定義
二、台湾営業秘密法の最近の動向
三、営業秘密侵害の救済、営業秘密侵害訴訟における防御方法

伍、知的財産及び商事裁判所における訴訟の概要とその動向
一、台湾の知的財産及び商事裁判所の職権
二、証拠調查
三、審理の段階と仕組み
四、非侵害確認訴訟
五、弁護士費用
六、上訴審の手続
七、刑事訴訟
八、2023年の「知的財産案件審理法」の改正
九、審理の特徴

壱、  専利

一、 専利の種類

日本では、特許、実用新案、及び意匠が各々異なる法律により規定されているが、台湾では、この三つの制度を「発明専利」(特許)、「新型専利」(実用新案)、及び「設計専利」(意匠)として、専利法という単一の法律にまとめられている。発明専利、新型専利、及び設計専利は台湾の知的財産局の審査を受けて、許可され、公告されて初めて行使することができる。権利の存続期間は、出願日から起算し、発明専利は20年、新型専利は10年、設計専利は15年をもって終了する。なお、医薬品、農薬等、販売に許可証が必要な製品に係る専利に関しては、許可証の申請に係る審査期間により医薬品、農薬、又はその製造方法の発明専利を実施できない場合、発明専利権の存続期間の延長を出願することができる。但しその延長の期間は5年以内に限られている。

(一) 発明専利(特許)と新型専利(実用新案)

自然法則を利用した技術的思想の創作が、新規性、進歩性、産業上の利用性を備える場合、発明専利を取得することができる。上記の条件は新型専利にも適用されるが、新型専利の対象は、物品の形状、構造又は組合わせに限られる。発明専利の出願は、台湾の知的財産局の実体審査を経ずに許可を受けることができず、その出願日から3年以内に、何人も実体審査を行うよう知的財産局に対し申請することができる。

新型専利の出願について、台湾では新規性と進歩性の審査が行われず、形式要件を備えれば登録することができる(一般的に、出願から公告までに要する期間は4ヶ月から6ヶ月程度となっている)。専利法によると、新型専利権者は、その新型専利の新規性と進歩性の有無について実体審査を行う技術評価書を知的財産局に申請し取得しなければ、他人に対し新型専利権を行使することができない。

(二) 設計専利(意匠)

設計専利とは、視覚を通して物品の全部又は一部の形状、模様、色彩若しくはその結合を表現する創作である。物品に用いられるコンピュータグラフィックス(例えばアイコン)、及びグラフィカル・ユーザー・インターフェースについても、専利法に基づいて設計専利を取得することができる他、「コンピュータプログラム製品」に使用することを指定することもできる。そして、現行の専利法により、設計専利の出願に対しては、実体審査が行われている。

二、 知的財産局による2024年の専利法一部条文改正草案

2024年9月11日、知的財産局は「専利法の一部条文改正草案」(以下、改正草案と称する)を発表した。この改正草案の内容は、具体的に以下の二点が主軸となっている。

一つ目は、設計専利出願制度に関する緩和であり、内容としては、以下が含まれている。

  1. 保護対象の拡大

    現行法で、「コンピュータ画像」が設計専利の保護対象とされているのに対し、この改正草案では、「コンピュータ画像その他デジタル技術による画像」が設計専利の保護対象とされる。なお、現行法では、設計専利の登録出願は、設計専利に係る物品を指定しなければならないと規定されており、現在の実務上、この規定を満たすために、コンピュータ画像の設計専利はが通常「コンピューター生成の画像/グラフィカルユーザインタフェース(GUI)/アイコン」に指定されるという名目上だけの慣行があるが、この改正草案では、「コンピュータ画像その他デジタル技術による画像」に関して、物品を指定しなければならないとの規定が削除されている。

  2. 類似設計の合同出願を追加

    現行法では、一つの出願に一つ以上の設計を含めることができないが、この改正草案は、「複数の類似設計の合同出願」制度を導入し、出願人が、一つの出願で複数の類似設計に係る設計専利を取得することを可能にする。

  3. グレーズピリオド期間を緩和

    設計専利のグレースピリオドを6ヶ月から12ヶ月に緩和する。

  4. 分割出願可能時期を緩和

    設計専利の分割出願可能時期について、初審査又は再審査の登録査定後3ヶ月以内にも行えるように緩和する。

二つ目は、専利出願権と専利権の争議を民事ルートのみで解決していくようにすることである。改正草案では、専利出願権や專利権の帰属に関する争議を無効審判理由とする規定を削除し、正しい専利出願人がその権利を取り戻す際に、民事ルートで解決すべきであると明文規定し、関連する規定を追加した。

特筆すべきは、今回の改正草案には、「複審及び争議審判部(中国語名:複審及爭議審議會)」の設立、及びそれに関連する出願、無効審判、審理の結果に不服がある場合の救済手続きが含まれないということである。これらの制度変更は台湾の立法院(国会)に送られた2023年版の改正案に含まれていたが、立法院の会期終了まで審議されず、更なる議論は永久に中止したように見受けられる。

三、 2022年の専利法の改正-医薬品パテントリンケージ制度を補完する仕組み

台湾のパテントリンケージ制度は2019年8月20日から実施されている(この制度の詳細について、弊所の記事をご参照ください)。

台湾の医薬品パテントリンケージ制度は、主に「薬事法」第48条の3から第48条の22に規定されている。これらの規定によると、先発医薬品(中国語名:新薬)の専利権者(又は専用実施権者)が下記の条件を満たした場合、薬事の主務官庁(衛生福利部食品薬物管理署)が12ヶ月以内にジェネリック医薬品(中国語名:学名薬)の許可証の発行を停止しなければならない。

  • その先発医薬品の専利情報が既に法律により食品薬物管理署のプラットフォームに登録されたこと
  • ジェネリック医薬品の許可証の申請者が既に食品薬物管理署に対し「当該先発医薬品に係る専利権は取り消されるべきであり、又は、そのジェネリック医薬品に侵害されていない」との表明をした場合、先発医薬品の専利権者がジェネリック医薬品の許可証の申請者から表明の理由と証拠に関する通知を受けてから45日以内に訴訟を提起すること

一方、先発医薬品の専利権者が上記の訴訟でどのような(そしてどの範囲の)救済を求められるかについては、専利法に規定されるべき事項であるので、薬事法に明文規定はない。また、先発医薬品の専利権者が45日以内に訴訟を提起しなくても、今後(例えばジェネリック医薬品が市場に出回った後)訴訟を提起してジェネリック医薬品のメーカーに不意打ちをかける可能性がある。この場合、ジェネリック医薬品の許可証の申請者が対抗策をとる権利があるのかについても、薬事法に明文規定はない。

台湾の立法院が2022年4月15日に可決した改正後の専利法第60条の1が上記の残された疑問点を解決してくれた。そのポイントは下記のとおりである。

  • ジェネリック医薬品の許可証の申請者が「当該先発医薬品に係る専利権は取り消されるべきであり、又は、そのジェネリック医薬品に侵害されていない」との表明をした場合、専利権者が表明に関する通知を受けてから専利法第96条第1項の規定により侵害の除去又は防止を請求することができる(新設の第60条の1第1項)。
  • 改正理由によると、先発医薬品の専利権者が登録できる範囲は、物質、組成物、配合若しくは医薬用途に関する発明専利権のみであり、その医薬品の製造方法を含まないとされているが、医薬品の製造方法も専利権の保護対象となる可能性があるので、ジェネリック医薬品で起きた専利権侵害事件は、登録済みの専利以外に、未登録の専利に係る可能性もある。そこで、ジェネリック医薬品が市場に出回る前に紛争を一度に解決するために、先発医薬品の専利権者は、同時に薬事法により登録済みの専利及び未登録の専利に基づいて訴訟を提起できないわけではないとされている。
  • 一方、先発医薬品の専利権者がジェネリック医薬品の許可証の申請者から前記の通知を受けてから45日以内にその申請者に対し訴訟を提起しない場合、その申請者は、許可証の申請に係る医薬品がその専利権を侵害するかどうかについて確認訴訟を提起することができる(新設の第60条の1第2項)。
  • また、改正理由によると、単一の先発医薬品の許可証のもとで複数の専利が登録されたものの、先発医薬品の専利権者が登録済みの専利の一部のみに基づいて専利権侵害訴訟を提起した場合、非侵害になるかどうかを確認するために、既に登録済みであるものの専利権者がそれに基づいて起訴していない専利、及び未登録の他の専利に対しても、ジェネリック医薬品の許可証の申請者は同時に確認訴訟を提起することができる。

四、 専利権侵害の救済、専利権侵害訴訟における防御方法

専利侵害訴訟において、専利権者は、被告が専利の権利範囲に入る物の製造・販売・販売の申込み・使用、又は上記の目的に基づく輸入をしたことを証明しなければならない。方法の専利権を主張しようとする場合、被告がその方法を使用し、又は直接その方法で製造された物の製造・販売・販売の申込み・使用、又は上記の目的に基づく輸入をしたことを証明しなければならない。

専利法によると、専利権が侵害されたと裁判所が認めた場合、専利権者は侵害者に対し、その侵害を除去することを請求でき、侵害されるおそれがある場合は、その防止を請求できる。また、損害賠償や、専利権を侵害した物・侵害行為に使用された原材料・器具の廃棄、若しくはその他の必要な措置を請求することも可能である。

なお、損害賠償の算定について、専利権者は、下記の方法のいずれかを選ぶことができる。

  • 専利権者がその不法行為で蒙った損害と失われた利益により損害賠償を算定。
  • 専利権者が専利を実施して通常得られる利益と、侵害された後同一の専利を実施して得た利益との差額を、専利権者の受けた損害とする。
  • 侵害者が侵害行為で得た利益により損害賠償を算定。
  • その専利の実施を許諾する際に得られる合理的な使用料を元に損害賠償を算定。

また、侵害行為が故意によるものであると証明できる場合、裁判所は専利権者の請求に基づき、侵害の情状により酌量して懲罰的損害賠償金の支払いを命ずることができる。

そして、専利侵害訴訟において、被告は主に下記の防御方法を利用することが考えられる。

  • 専利無効の抗弁を主張(例えば、原告の専利に新規性・進歩性がないことを主張する)。
  • 文言侵害又は均等侵害が成立しないことを主張。
  • 専利権の消尽又は先使用を主張。

弐、 商標

一、  商標の定義

「商標」とは、需要者に商品・役務の出所を認識、識別させるための標識である。需要者に商品・役務の出所を認識させ、異なる商品・役務の出所を識別させる機能を有する標識であれば、商標として登録出願することができる。商標の形態には、一般的な文字・図形・記号の他に、色彩・立体形状・音・動き・ホログラムも含まれ、出所識別機能さえあれば、位置・地模様・匂い・手触り・味なども商標とすることができる。

台湾の商標制度は登録主義が採用されている。商標権者は商標登録の公告日から10年間専用権を有し、その期間が満了するまでに存続期間の更新を出願することができる。一回の更新で存続期間を10年間延長することが可能である。商標権者は法律に基づいて商標登録出願を行い、商標権を取得した後、自ら商標を使用したり、他人に許諾したりすることができるほか、他人が同一又は類似の商標を同一又は類似の商品・役務に使用することに対し、差止めを請求することができる。他人が商標権者の許諾を得ずに、その商標を使用し商標権を侵害したときや、商標権を侵害するおそれがあるとき、商標権者は侵害の差止め・侵害の防止を請求することができるほか、故意又は過失により商標権を侵害した者に対して損害賠償を請求することができる。

なお、商標出願の要件に商標の使用は含まれていないが、商標登録が許可されてから3年間、正当な理由なく商標を使用していない場合は、知的財産局の職権又は申請により登録を取消すことができる。

二、  「複審及び争議審判部」の設立の中止、異議申立て制度の維持

前述のとおり、立法院に送られた2023年版の専利法改正草案は、会議終了まで審議されなかったため、更なる議論は中止された。

そして、2023年版の専利法改正草案と同時に立法院に送られた、異議申立て制度の廃止、商標の「複審及び争議審判部」の設立、及びこれらの制度変更に関連する出願手続き、審理の結果に不服がある場合の救済手続きを含んでいた商標法の改正草案も同じ結果にたどり着き、制度変更への更なる議論は中止された。

三、  台湾商標法の最近の動向-2023年の商標法改正

商標法の一部改正案が2023年5月9日に立法院の第三読会にて可決され、主要な改正後の条文の施行日は2024年5月1日であった。

  1. 商標代理人の資格

    長きにわたり、商標法では、台湾(中華民国)に住所がありさえすれば、商標代理人として活動できるとしてきたが、改正後の規定では、「専門試験に合格」又は「一定期間において商標審査の業務に従事」という条件を満たした場合のみ、商標代理人資格の登録申請をすることができるとしている。一方、弁護士又はその他の法律の規定により商標代理業務を行うことができる者は、引き続き商標代理人として活動可能である。

  2. 商標登録出願人適格の主体

    社会のニーズに応じて商標登録出願人適格の主体となれる者の範囲を拡大するために、改正後の商標法第19条第3項では、自然人及び法人のほか、組合(中国語:合夥)、法律に基づいて設立された非法人団体又は商業登記法に基づいて登記された営業主体も商標を出願できるとされた。

  3. 早期審査

    改正後の商標法第19条第8項で、出願人は、早期に権利を取得する必要がある場合(例えば商標侵害を受け、権利の取得を確認する必要があるときや、製品が既に市場に出回っているなどの特殊な需要がある場合)、費用を納付した上、事実及び理由を陳述し、知的財産局に早期審査を求めることができることとなった。ただし、知的財産局が既に補正要求又は拒絶理由を通知している場合は、早期審査制度を利用できない。また、証明標章、団体商標、団体標章の出願も早期審査を適用しない。

  4. 商標のうち機能的要素を表す部分の取扱い

    「商品又は役務の機能を発揮するためにのみ必要なものである場合、商標登録を受けることができない」とする商標法第30条第1項第1号の規定は、改正前から存在していた。そして、改正後の商標法第30条第4項はもう一歩踏み込んで、「商標の図案に機能性の部分が含まれ、点線で表現されていない場合、登録を受けることができない」としている。改正理由によると、「商標の図案に機能性の部分がある場合、公益の利益に鑑みて、使用を通して登録を受けることができない上に、商標の一部に属しないため、他の部分とともに混同誤認のおそれがあるかどうかを判断する際の根拠としてはならない」。また、点線で表現できない機能性の部分(視覚で感知できない音、匂いなど)の場合、商標の一部に属しない旨を声明してはじめて登録を受けることができる。

  5. 著名な法人、商号又はその他の団体名称の保護の拡大

    改正前の商標法第30条第1項第14号では、「著名な法人、商号又はその他の団体の名称と同一のものは商標登録を受けることができない」としていたが、改正後の商標法では、さらに「著名な法人、商号又はその他の団体の名称と同一又は類似のものは商標登録を受けることができない」とその対象範囲をさらに広めている。即ち、著名な法人、商号又はその他の団体の名称と同一でなくても、公衆に混同誤認を生じさせるおそれがあれば、登録を受けることができず、それは商標の中の文字が著名な名称と完全に同一である場合に限らないということである。

  6. 指示的フェアユースの明文化

    改正前の商標法に記述的フェアユース(descriptive fair use)に関する規定があったが、改正後の商標法では、指示的フェアユース (Nominative Fair Use)を商標侵害を成立させない事由とし、長きに渡って存在してきた実務上のルールを明文化した。

    改正後の商標法第36条第1項第2号は、「商取引慣習に合致する信義誠実の方法により、商品又は役務の使用目的を表示し、他人の商標を使用して当該他人の商品又は役務を示す必要がある場合」、商標権侵害が成立しないが、「その使用結果が関連需要者に混同、誤認を生じさせるおそれがある場合は、適用しない」としている。

  7. 国際消尽の原則にかかる例外の追加

    台湾商標法によると、国際消尽の原則が適用されるべきであるが、例外として、商品が市場に流通した後の変質若しくは損傷の発生を防止する場合、又はその他の正当な事由がある場合、この限りではない。

    改正後の商標法では、他人による無断加工若しくは改造を防止する場合、国際消尽の原則の適用も排除される。そして、以前と同様に「他の正当な事由」で国際消尽の原則の適用を排除できる。

  8. 税関による押収の認定手続の簡素化

    改正前の商標法第75条は、「税関が職務執行時に、輸入又は輸出品が明らかに商標権を侵害しているおそれがあると発見したときは、商標権者及び輸出入者に通知しなければならない。税関は前項の通知をするときに、相当の期間を定めて商標権者が税関に赴き認定を行い、並びに権利侵害の事実証拠を提出するよう命じなければならない同時に、相当の期間を定めて権利侵害をしていない旨の証明文書を提出するよう命じなければならない」と規定していたが、情報化が進んだ現代社会では「税関に赴き認定を行う」という規定は、明らかに時代遅れであるほか、商標権者に不必要な負担をかけてしまうので、改正案では削除された。

    実際に、2021年9月以降、「税関における商標権益の保護措置の執行に関する実施規則」(中国語名:海関執行商標権益保護措施実施辦法)の改正により、登録完了後、商標権者は新設のオンラインプラットフォームから被疑貨物の写真等の情報を取得できるため、代理人を税関に派遣して認定を行わせるような金銭的・労力的コストを省くことができるようになった。

四、  商標権侵害の救済、商標権侵害訴訟における防御方法

商標権者の同意を得ずに、販売を目的として、同一又は類似の商品・役務に登録商標と同一又は類似の商標を使用し、関連消費者に混同・誤認させるおそれがある場合は、商標権侵害となる。商標権を侵害した場合は、民事責任と刑事責任を負わなければならない。侵害された場合、関連証拠を収集して、司法警察に刑事告訴をすることができる。そして、商標権を侵害した物品や書類は、不法行為者が所有する物であるか否かを問わず、没収される。また、商標権者はその権利を侵害した者に対し、民事訴訟を提起して下記の請求をすることができる。

  • 侵害の差止め
  • 侵害の防止
  • 損害賠償
  • 商標権を侵害した物品、又は不法行為に用いられた原材料と器具の廃棄

損害賠償額の算定について、商標権者は下記の方式より選択することができる。

  • 商標権者が不法行為により受けた損失及び失った利益に基づいて算定。
  • 侵害者が不法行為により得た利益に基づいて算定。
  • 摘発された商標権侵害品の小売単価の1500倍以下の範囲で算定。しかし、摘発された侵害品が1500品を越えた場合、その総額で損害賠償額を算定。
  • 商標権者が他人に実施を許諾する際に受けられる許諾料に相当する金額で算定。

その一方で、商標権侵害訴訟の被告は、下記に掲げる手段を主な防御方法とすることができる。

  • 商標権の有効性を否定(例えば、商標権者の商標が識別性を有さないため、登録してはならない事由がある等を主張)。
  • 消費者に混同、誤認させるおそれがないことを主張。
  • 記述的な公正使用、指示的な公正使用、善意による先使用等の抗弁。
  • 権利消尽を主張(例えば、被疑侵害品が並行輸入された真正品であることを主張)。

参、  著作権

一、  著作権の成立

台湾の著作権法では、著作物に創作性があれば、その著作物の創作が完了した時点から、著作権法の保護を受けることとなり、著作権を取得するために、別途政府当局に登録する必要はない。しかしながら、1998年から知的財産局における著作物の登録が停止されており、公的な著作物の登録制度が存在していないので、著作権者が権利を行使するときに、自分が著作権者であることを証明できるかが問題となる。そのため、自分が著作権者であることを証明する証拠として、創作の過程を示す資料を保存し、その著作物を公証人に認証してもらうことが望ましいといえる。台湾には、著作権者が権利行使する際に権利を証明するための一応の証拠として、著作権登録証書を発行する著作権管理団体もある。しかしながら、このような団体は、著作物に創作性があるかどうか等の著作権の要件について実体的判断をするわけではないため、著作物が著作権法の保護を受けるかどうかは、やはり個々の案件における裁判所の審理によらなければならない。

台湾著作権法の規定により、著作権を侵害した場合、民事責任が生じるほか、刑事責任が生じることもあり、5年以下の有期懲役に処することができる。また、著作財産権の保護期間は、著作者の生存期間及び著作者の死後50年である。たとえ著作物の著作者が台湾の国民でなくても、その著作物が世界貿易機関の加盟国の国民により完成されたものであり且つ創作性があれば、台湾著作権法により保護される。

二、  台湾著作権法の最近の動向

デジタル時代に現れた著作物の新たな利用方式に対応するために、知的財産局は、2020年1月30日に著作権法の一部の改正案を発布した。当改正案は2021年4月8日に台湾の行政院(内閣)の審議を経て、立法院(国会)に送られた。そのポイントは下記のとおりである。

(一)2022年の著作権法改正―非親告罪の範囲の拡大

立法院は、2022年4月15日に著作権法の一部改正案を可決した(施行日は、行政院が後日定める予定である)。今回の改正のポイントは、著作権法上の犯罪を非親告罪にすることでデジタル方式による侵害行為の取締りを強化することにある。

従来の台湾の著作権法によると、故意により著作権を侵害した場合、刑事責任を負うこととなる。しかし、海賊版CDに関わる場合を除き、その著作権侵害の罪は親告罪とされている。

しかし、デジタル方式による侵害行為の取締りを強化するために、著作権法の改正案では、下記の条件を満たす行為が非親告罪とされている。

  1. 有償に提供された著作物の全部を完全に利用すること
  2. 著作財産権者に100万台湾ドル以上の損害を蒙らせること、かつ
  3. 下記の著作権法上の3種類の犯罪のいずれかが成立したこと
  • 販売又は貸与を意図し、無断で複製の方法を以て他人の著作財産権を侵害した犯罪(第91条第2項)。但し、その複製物はデジタルフォーマットのものでなければならない。
  • 著作財産権を侵害した複製物であることを知っているにもかかわらず、散布し又は散布を意図し、而して公開陳列し又は所持した犯罪(第91条の1第2項)。但し、その複製物はデジタルフォーマットのものでなければならない。
  • 無断で公開伝送の方法により他人の著作財産権を侵害した場合(第92条)。

上記の条件を満たさない著作権侵害行為は親告罪とされる。また、現行の著作権法における、海賊版CDに関わる侵害行為の罰則が削除されたという点も注意に値する。その理由として、インターネット技術の発展につれ、CDはデジタル著作物の主要な記録媒体でなくなったので、海賊版CDを専ら対象とする規定を存続させる必要もなくなった。事実、改正案に明記された3種類の非親告罪の最初の2種類は、その予定される主な取締対象がインターネット上の侵害行為(例えば違法ダウンロード)であるにもかかわらず、海賊版CDに関わる侵害行為を包摂することもできる。

(二) 著作権法の改正案―デジタル時代に対応するために

  1. 著作財産権の類型の統合と再定義

    現行の著作権法で、インターネットを通じて音楽、映像等の著作物を公衆に伝達・提供する行為が、「公開伝送」となるのに対し、インターネット以外の方法(例えば無線テレビ信号)による著作物の同時放送は、「公開放送」となる。そのため、最近よく利用されているインターネットによる同時放送は、前記の現行法の定義において、「公開伝送」とされ、「公開放送」ではない。

    しかし、視聴者が著作物を同時視聴する場合、著作物の提供者がインターネットで提供しているか、それともインターネット以外の技術手段で提供しているかを見分けることが困難であるほか、今となっては見分ける意味もなくなっている。この技術変化を受けて、知的財産局は「公開伝送」と「公開放送」の再定義を行った。

    今回の改正案における新たな定義では、インターネットによるものであれ、インターネット以外の通信手段によるものであれ、同時放送(再視聴できないもの)であれば、いずれも「公開放送」になるとしている。一方、視聴者が自ら時間・場所を選択し、インターネット又はその他の手段で視聴できるように著作物を提供・伝送する行為は、「公開伝送」となる。

  2. 著作権の帰属に関する規定の合理性の見直し

    (1) 現行法では、被雇用者が職務上完成させた著作物の著作財産権は、雇用者か被雇用者のみがその全てを享有することとなり、それと異なる著作財産権の帰属を約定することができない。そして、今回の改正案では、雇用者と被雇用者はより柔軟性のある著作財産権の帰属を約定することができる(例えば双方とも一部の著作財産権を享有し、又は第三者が著作財産権を享有するように約定する)。

    (2) 現行法では、出資者が出資招聘して他人に完成させた著作物の場合、出資者が著作人になるように約定できるかどうかは、その被招聘者が自然人か、それとも法人かによる。つまり、現行法によると、被招聘者が法人であり、その法人と実際に創作した従業員が誰が著作人となるかについて約定していない場合、その従業員が著作人となる。従って、出資者は必ずしも被招聘者(法人)と出資者が著作人になるよう約定することができない。だが、実務上の必要に応じて、今回の改正案では、被招聘者が自然人であれ法人であれ、出資者が著作人になるよう約定できるようになる。

    また、現行法では、被招聘者が著作人である場合、被招聘者か出資者のみが著作財産権の全部を享有するよう約定できる。そして、今回の改正案では、被招聘者と出資者はより柔軟性のある著作財産権の帰属を約定することができる(例えば双方とも一部の著作財産権を享有し、又は第三者が著作財産権を享有するように約定する)。

  3. 著作財産権に対する制限の見直し

    (1) 教室という教育の現場の需要に応じるため、法律により設立される各級学校及びその教育を担当する者は、学校での授業のために必要である場合、合理的な範囲内で他人の公開発表された著作物を複製・改作・散布・公開演出・公開上映・再公開伝達することができるようになる。一方、学校がインターネットを利用した遠隔教育を行う際の需要に応じるため、在籍者以外の人又は履修登録をしていない人が視聴できないようにする「合理的な技術手段」を施す条件で、公開発表された著作物を公開放送・公開伝送・再公開伝達することができるようになる。

    その他、伝統的にラジオ放送で生涯教育を提供する放送大学及び補修学校が、インターネットで遠隔教育ができるようにするため、法律により設立される各級学校、又は教育機関は、教育を目的とする必要な範囲内で、公開発表された著作物を公開放送・公開伝送・再公開伝達することができるようになる。しかし、それらの学校・機関はこれによって営利行為をしてはならない。なお、前述の「合理的な技術手段」を施して在籍者以外の人又は履修登録をしていない人が視聴できないようにした場合を除き、利用の情状を著作財産権者に通知し、合理的な利用報酬を支払わなければならない。

    (2) 図書館等の文献保存場所における著作物の合法的なオンライン閲覧に関する公正使用の規定が新設される。例えば、現行法では、図書館が保存した本をデジタル化して来館者にオンライン閲覧をさせる行為はもとより「公開伝送」に属し、著作権者の同意を得る必要があるが、今回の改正では、一定の条件を満たせば著作権者の同意なしに来館者のオンライン閲覧が可能になる。

    (3) 日常的に行われる非営利活動の場合、適切な報酬を支払ってから利用できること、並びに、台湾でよく見られるような、市民が公園でダンス、健康体操、太極拳等の心身の健康を増進する身体活動を行う際、自分が携帯する設備で音楽を再生する場合は、許諾の取得又は費用の支払いをせずに利用できることに関する規定が新設される。

  4. 著作財産権者が不明な状況に対応

    著作物が昔のものである等の理由で、著作財産権者(又はその所在)が不明な場合がある。これらの原因で著作権の利用を許諾できなければ、文化の伝播・伝承に支障をもたらすこととなる。このような問題に対応すべく、今回の改正案では、強制許諾の規定が追加されている。即ち、公開された著作物の著作財産権者(又はその所在)が不明で、相当な努力を尽くしても許諾を受けることができない場合、それを利用しようとする人は、主務官庁に強制許諾の許可を申し立てることができるとしている。また、利用者が強制許諾の許可を申し立てると同時に、保証金を納付して、強制許諾の許可が下される前の先行利用を申し立てることもできるとしている。

  5. 損害賠償に関する規定の見直し

    被害者が損害賠償を請求する際の立証責任を軽減するために、裁判所が侵害の情状により1万台湾ドルから100万台湾ドルの間で損害賠償額を酌量するよう請求するができる規定が新設される。現行法では、現行法に明記された他の計算方式(例えば被害者が蒙った損害、又は侵害者が得られる利益で計算等)により実際の損害額を証明できない場合に限り、損害賠償額を酌量するよう裁判所に請求することができるが、改正案では、被害者は他の計算方式を引用せずに直ちに損害賠償額を酌量するよう裁判所に請求することができる。

    原告の立証責任を適度に軽減するため、許諾料を損害賠償額として計算する方法が今回の改正案に導入される。改正案が可決されれば、権利者は、許諾料に相当する金額を損害賠償金として計算する方法を選択できるようになる。

  6. 著作権侵害を助長する広告に対応

    現在のデジタル社会で、電子商取引はインターネット広告による販促にかなり依存している。このため、インターネットによる海賊版の販促活動を先制的に封じることは、海賊版の取締りや著作権保護における必要な手段となっている。この現状を受け、今回の改正案では、インターネットにおける海賊版の広告掲載が、著作権侵害と看做されるとしている。これにより、この改正案が可決後、インターネット上で海賊版の音楽を保存したUSBメモリーを販売すれば、2年以下の有期懲役、拘留を処し、又は50万台湾ドル以下の罰金が科され又は併科するほか、民事上の責任を負うこととなる。

  7. 時代遅れの刑事責任に関する規定の見直し

    (1) 現行法に6ヶ月以上の有期懲役を下限とする刑罰規定があるが、刑罰が不当に重くならないように裁判所に個別事件の情状を酌量することを可能にするため、その下限を削除する。

    (2) 許諾なしに海外から正規品を輸入して台湾国内で販売する行為に対する刑罰規定を削除し、民事責任のみを負わせる。

    (3) 正規品を散布したこと(例えば、被許諾者が許諾期間で作製した正規品を許諾期間の経過後にも販売すること)に関する刑事規定を削除する。これにより、著作権者が民事紛争の解決手段のみで正規品を散布した者の責任を追及できる。

三、 著作権侵害訴訟における救済及び防御

著作権侵害訴訟を行う際、原告は先ず自分が主張する著作権に「創作性」があり、且つ自らがその著作物の著作権者又は独占的利用許諾の被許諾者であることを証明しなければならない。通常は、著作物の草稿、下書き、若しくはそれらに類似するものが著作権の帰属を証明する証拠とされる。そして、その著作物のどの権利(例えば、複製権、散布権、又は改作権等)が被告に侵害されたかを明示しなければならない。著作権侵害が成立するには、侵害品が原告の著作物に実質的に類似していなければならないほか、被告がその著作物に接触する可能性があると確信できるほどの合理的な根拠がなければならない。

なお、著作権者は、著作権侵害訴訟を通して著作権者に対する侵害の差止めを請求することができ、侵害されるおそれがある場合は侵害の防止を請求することができる。また、損害を填補するために、下記の方式のいずれかを選択して損害額を計算し、損害賠償を請求することができる。

  • 著作権者が侵害行為により受けた損失及び失った利益に基づいて算定。
  • 著作権者がその損害を証明することができない場合、権利を行使して通常の状況により予期できる利益から、侵害されたあと同一の権利を行使して得た利益を差し引き、その差額を損害とする。
  • 侵害者の侵害行為により得た利益を請求。侵害者がそのコストや必要費用を証明できない場合、侵害行為により得た全ての収入を得た利益とする。
  • 実際の損害額を証明することが困難である場合、その侵害の状況により1万台湾ドル以上、100台湾ドル以下の賠償額を酌量して定めるよう裁判所に請求。損害行為が故意であり且つ情状が重大である場合、賠償額を500万台湾ドルに増額できる。

著作権侵害訴訟の被告は、下記の手段を防御方法とすることができる。

  • 原告が主張する著作物が最低限度の創作性を有さないことや、原告が著作権者でないことを主張。
  • 著作権侵害が成立しないことを主張(例えば、被疑侵害品が原告の著作物と実質的に類似しないことを主張する)。
  • 権利消尽又は公正使用の抗弁を主張。

※公正使用に該当するかどうかを判断するには、著作権法において下記四つの判断基準がある。

  • 利用の目的と性質(商業の目的、又は非営利、教育上の目的を含む)
  • 著作物の性質
  • 利用された質と量、及びそれが著作物の全体に占める比率
  • 利用の結果が著作物の潜在的な市場に及ぼす影響、及び著作物の現在の価値に及ぼす影響

肆、  営業秘密

一、  営業秘密の定義

下記の要件に合致する方法・技術・製造工程・調合・プログラム・設計や、その他の生産・販売・経営に用いられる情報は、台湾の営業秘密法により保護される。

  • 一般的にその類の情報に係る者が知らないもの
  • その秘密性により実際又は潜在的な経済的価値を備えるもの
  • 所有者が既に合理的な秘密保持措置を取ったもの

産業スパイや退職した社員が、企業から営業秘密を盗み取る事案が多発していることを踏まえて、台湾では、2013年2月1日に営業秘密法が改正され、新たな刑事罰が設けられた。

二、  台湾営業秘密法の最近の動向

2023年1月12日に台湾の立法院の第三読会で可決された「知的財産案件審理法」の改正案は、同年8月30日に施行された。改正の内容は営業秘密侵害訴訟の管轄権、弁護士強制主義や審理に関わり、下記の「伍、知的財産及び商事裁判所における訴訟の概要とその動向」にて紹介することにする。

また、リバースエンジニアリングに関わる営業秘密侵害事件の審理のあり方を示す、台湾最高裁の110年度台上字第3193号刑事判決(2021年6月17日)という重要な判決がある。この判決のポイントは下記のとおりである。

(一) 営業秘密法第2条によると、保護される営業秘密は、「一般的にその類の情報に係る者が知らないもの」でなければならない。即ち、「秘密性」があってはじめて保護に値する営業秘密に該当する。「秘密性がある」とは、公衆一般は勿論のこと、関連する専門分野に属する者も知らないものを指す。一般的に知られているもの、又は容易に知得できるものには秘密性がない。一方、「リバースエンジニアリング」で営業秘密の内容を知る方法とは、第三者(競合業者)が合法的な手段で他人の営業秘密を包含する製品を取得してから、逆行分析により製品の製造工程、構造、機能、規格等の情報を得ることを意味する。(競合業者)はもとよりリバースエンジニアリングを通して他人の製品に関わる(技術等の)情報を知ることが可能であるが、それらの情報が他人の営業秘密でないと直ちに認定してはならない。

(二) つまり、リバースエンジニアリングの実施に相当のコスト(金銭、時間、専門機器、専門知識等)が必要であれば、その製品が内含する情報は容易に知得できるものと言えない。競合業者が情報を知得するには、相当の(金銭的・精神的な)労力が必要である場合、その情報に秘密性があり、営業秘密の保護を受けるべきである。

(三) 不正な方法(例えば市場に出回っていない試作機を窃取すること)で製品を取得してから、リバースエンジニアリングを通して営業秘密を得た場合、たとえリバースエンジニアリングにさほどの努力やコストを費やしていないとしても、製品の取得に正当性がないため、このような不正な行為で利益を得ることは許容されるべきではない。したがって、もし競合業者が「取得した情報(営業秘密)がリバースエンジニアリングを通して容易に知得できるもの」と主張した場合、合法的な方法で取得したかどうかを究明しなければならない。営業秘密法の立法趣旨に合致させるために、不正な行為で情報を取得した場合、たとえその情報がリバースエンジニアリングを通して容易に知得できるものとしても、営業秘密の保護の対象となり得る。

三、営業秘密侵害の救済、営業秘密侵害訴訟における防御方法

営業秘密侵害訴訟で、原告は営業秘密の存在を証明し、その営業秘密の範囲を説明しなければならない。このため、原告が主張する営業秘密は、上記の「一般的にその類の情報に係る者が知らない」、「その秘密性により実際又は潜在的な経済的価値を備える」、「所有者が既に合理的な秘密保持措置を取った」の三つの要件を満たさなければならない。

そして、営業秘密侵害訴訟において、原告は侵害の排除や、侵害されるおそれがある場合はその防止を請求できるほか、下記の計算方式のいずれかを選択して、損害賠償を請求することができる。

  • 権利者が侵害行為により受けた損害、及び失った利益で計算。
  • 権利者がその受けた損害を証明できない場合、権利者が通常の状況により営業秘密を使用することにより予期できる利益から、侵害された後同一の営業秘密を使用することにより取得した利益を差し引いて算出した差額を受けた損害とみなす。
  • 侵害者が侵害行為により得た利益で計算。但し、侵害者がそのコストと必要費用を証明できない場合、その侵害行為により得た全ての収入をその得た利益とみなす。

なお、侵害者の侵害行為が故意になされたことを証明できる場合、裁判所は侵害の態様を考慮するうえで、損害額の3倍を超えない懲罰的賠償金を斟酌して定めることができる。

営業秘密侵害訴訟の被告は、下記の手段で防御することが考えられる。

  • 原告が主張した営業秘密が営業秘密法に保護される情報ではないと主張(例えば、被告以外の第三者が既にその情報に関与し、又はそれを所持しており、公知となったため、営業秘密ではないと主張する)。
  • 営業秘密の侵害に該当しないと主張(例えば、被告が使用した技術手段が、独自で開発したものであることや、被告が使用した技術手段が原告の主張する営業秘密と異なると抗弁する)。

伍、  知的財産及び商事裁判所における訴訟の概要とその動向

一、  台湾の知的財産及び商事裁判所の職権

「知的財産及び商事裁判所組織法」(中国語名:智慧財産及商業法院組織法)第3条によれば、専利法、商標法、著作権法、光ディスク管理条例(中国語名:光碟管理條例)、営業秘密法、集積回路の回路配置保護法(中国語名:積體電路電路布局保護法)、植物品種及び種苗法(中国語名:植物品種及種苗法)、公正取引法(中国語名:公平交易法)により保護される知的財産の権益に起因する第一審、第二審の民事訴訟、及び商事事件審理法(中国語名:商業事件審理法)の規定により商事裁判所の管轄となる商事事件」は、知的財産及び商事裁判所の管轄となる。また、2023年の改正後の知的財産案件審理法第9条によると、知的財産及び商事裁判所は、上記の事件に対する専属管轄権を有する。双方当事者が事前の合意で特定の地方裁判所の管轄とする場合や、原告が特定の地方裁判所に訴訟を提起することに対し被告が反対せずに応訴する場合を除いて、知的財産及び商事裁判所の管轄となる。

知的財産及び商事裁判所の前身は「知的財産裁判所」であり、その組織法の「知的財産裁判所組織法」は2020年1月15日に「知的財産及び商業裁判所組織法」(中国語名:智慧財産及商業法院組織法)に改正され、改正の内容は2021年7月1日に発効したため、知的財産裁判所は同日に知的財産及び商事裁判所に組織変更されている。そして、知的財産及び商業裁判所に知的財産訴訟を取り扱う「知的財産法廷」が設置されている。現在、知的財産権案件の管轄と裁判上の実務と以前の知的財産裁判所のしきたりと同様であり、実質的な変化の動きは見られない。

知的財産及び商事裁判所の裁判官が、専利権の権利侵害案件に係る技術的問題や他の科学技術上の争点を明らかにできるように、知的財産及び商事裁判所には技術審査官が配置されている。通常、技術審査官は各種の専門の技術分野の専利審査官が担当する。訴訟の当事者は、専門家証人を召喚して証言してもらうよう裁判所に申立てることができるが、その申立の可否は裁判所がその職権により裁量することになっている。技術審査官は専利の技術について報告書の提出等で裁判官を補佐するほか、開廷期日に当事者・証人・専門家証人に質問することもできる。

知的財産及び商事裁判所の特徴は、迅速且つ効率的に案件を審理することにあり、一般的に第一審民事事件の審理期間は、起訴から終局判決の作成までおよそ8ヶ月間から12ヶ月間で終了する。

「知的財産及び商事裁判所」の知財に係る裁判システム

二、  証拠調查

知的財産及び商事裁判所の訴訟における証拠の調査と開示に関する指示とその範囲は、米国の証拠開示手続のように多様で幅広いものではないが、裁判所の証拠開示に関する決定に違反する場合は、不利な法的効果を生じさせる可能性がある。近年の知的財産案件の判決では、裁判官の指示に従わずに損害賠償を算定するための侵害品の注文書等のビジネス文書の提出を拒んだ被告に対し、裁判官が事案解明義務の違反として、弁論の全趣旨により原告の損害賠償の範囲に関する主張が真実であると推定した判例が多くある。

また、証拠を保有する者から証拠を取得する手段として、知的財産の権利者は裁判所に証拠保全を申立てることができる。証拠保全が許可されると、原告が起訴する前に被告や第三者の住所・営業所で証拠調査を行うことや、証拠を所持する者にその証拠を開示させ、その証拠を別の場所に保管することを命じることができる。一方、訴訟係属中に裁判所は、一方の当事者の申立により他方当事者又は第三者に権利侵害の要件を証明するため又は損害賠償を計算するために必要な証拠を提出するよう命じることができる。これについて裁判所は、当事者が必ずその決定に従わなければならない強制力を有するものではないとしているが、上記のとおり、当事者が証拠の提出を拒んだ場合、裁判所は弁論の全趣旨により相手方の損害賠償の範囲に関する主張が真実であると推定することもあり得る。

三、 審理の段階と仕組み

知的財産侵害訴訟の手続は、一般的に三つの段階に分けられている。第一段階で、裁判所は案件に形式的訴訟要件の有無を調査するための案件番号を振り、訴訟物の価格を調査するための審理を一回か二回行い、原告が訴えの提起手数料を追加納付すべきかどうかを決める。

第二段階では、案件を訴訟物の価格を審理した裁判官以外の裁判官に担当させて、実質的な審理を行う。この段階での審理は、双方当事者の争点と非争点の整理に集中する。争点の例として、専利案件では係争専利の権利範囲についてさらなる解釈を必要とするかどうかや、商標案件で商標権者が正当な理由無く3年連続でその商標を使用せず、商標を取り消すべき事実があるかどうか等が挙げられる。

次に、裁判官は、当事者各々の主張を裏付ける証拠(例えば鑑定報告書、証人の証言)があるかを確認する質問をする。一般的に、原告がその知的財産権が侵害されて損害を受けたことについて、立証責任を負わなければならない。一方、民事訴訟では、専利・登録商標が有効であると推定されるため、被告が専利・登録商標に有効性がないことを主張する場合、その立証責任を負わなければならない。そして、相当の時間が経過して各当事者による新たな争点、証拠の提出がないことを確認した後、裁判官は準備手続を終了させ、期日を定めて口頭弁論手続に移行する。

第三段階では、口頭弁論で裁判官が双方当事者による口頭の陳述を聴取し、当事者が準備手続で提出した証拠について審理する。この段階での新たな証拠の提出は、ある程度の制限を受け、失権的効果が生じる可能性がある。つまり、準備手続で適時に証拠を提出しなければ、裁判所が口頭弁論手続で同一の証拠を提出することを禁じることもあり得る。

四、 非侵害確認訴訟

知的財産権の権利者から警告書が送付され、当該権利者の知的財産権を侵害したと指摘された場合、指摘された側の防御の手段として、権利侵害の有無を確認するために、知的財産及び商事裁判所に対し非侵害確認訴訟を提起することができる。現行の台湾の司法実務では、非侵害確認訴訟の要件として、原告(権利を侵害したと指摘された側)は、権利を侵害したと指摘されたことにより原告がおかれた法的に不安定な立場が確認判決で除去できるなど、原告に訴えの利益があることを釈明しなければならない。

五、 弁護士費用

台湾の民事訴訟で、勝訴側は通常訴えの提起手数料、及び証人の旅費等のみを訴訟費用として敗訴側に負担させることができるとされていた。その一方で、第三審に上告する際は、民事訴訟法の規定により、当事者が弁護士に委任して訴訟行為を行わせなければならないため、第三審に限って勝訴側が支出した弁護士費用も、訴訟費用の一部として一定の上限まで敗訴側に負担させることができるとされていた。

ところが、近年ではこのような従来の実務上の慣行に変化が見られている。知的財産裁判官は2013年のある二審判決で、原告が支出した弁護士費用の一部を損害賠償金に算入して、被告が負担するよう命じた。さらに、知的財産及び商事裁判所の前身である知的財産裁判所は2017年のある一審判決で、知的財産権侵害訴訟(少なくとも専利権侵害訴訟)において、勝訴側の合理的な範囲内の弁護士費用を、訴訟費用の一部として敗訴方が負担すべきであると判断した。

六、 上訴審の手続

知的財産及び商事裁判所の民事の第一審判決については、第二審(知的財産及び商事裁判所)に控訴することができ、一定の要件(例えば訴訟物の価格が一定の金額以上)を満たせば、第三審(最高裁判所)に上告することができる。

知的財産及び商事裁判所における控訴審の仕組みは、第一審と全く異なるものではないが、三人の裁判官の合議体で審理し、案件の事実について独自に判断することができ、下級審が認定した事実に拘束されない。しかし、これは、当事者が控訴審で新たな証拠を自由に提出できることを意味するわけではない。そもそも、台湾の民事訴訟法第447条の規定により、原審で適時に提出しなかった証拠やその他の攻撃防御方法は、原則的に控訴審で提出することができない。

七、刑事訴訟

台湾においては、商標権・著作権・営業秘密を侵害した場合、刑事責任が生じる可能性があり、権利者は知的財産及び商事裁判所に民事訴訟を提起する他、侵害行為の発生地又は被告の住所地にある地方検察署に刑事告訴を提起することができる。検察官が侵害者を起訴した場合、刑事訴訟の第一審は当地方検察署が属する地方裁判所が審理する。また、第一審の刑事判決に対する控訴審は知的財産及び商事裁判所の管轄とされる。

八、2023年の「知的財産案件審理法」の改正

2023年1月12日に、「知的財産案件審理法」の改正案が立法院の第三読会で可決され、同年の8月30日に施行された。これは2008年に知的財産案件審理法が施行されて以来最大規模の改正となり、知財訴訟に大きな影響が及ぶことが必至である。改正後の条文のポイントは下記のとおりである。

(一) 営業秘密の保護の強化

営業秘密侵害の犯罪に関する刑事訴訟の第一審は、知的財産及び商事裁判所の管轄となり、地方裁判所が第一審裁判所でなくなる。そして、国の主要技術に対する侵害にかかる刑事事件は、知的財産及び商事裁判所の第二審の審理体制による管轄となる。

双方当事者が事前の合意で特定の地方裁判所の管轄とする場合や、原告が特定の地方裁判所に訴訟を提起することに対し被告が反対せずに応訴する場合を除いて、営業秘密侵害に関する第一審の民事訴訟事件、及び他の知財紛争にかかわる第一審の民事事件は、知的財産及び商事裁判所の専属管轄となる。

また、今回の改正は、「国外における秘密維持命令違反の罪」を新設することで営業秘密のさらなる保護を図る。

 

(二) 弁護士強制主義の範囲の拡大

今回の改正では、知的財産に係る民事事件の一部に弁護士強制主義が導入されている。具体的に言えば、専利権、コンピュータープログラムの著作権、営業秘密に係る民事事件で弁護士強制主義が採用されたほか、訴額が相対的に低い事件を除いて、その他の民事事件にも弁護士強制主義が採用されることとなった。

(三) 民事訴訟の審理の効率化

今回の改正では、知的財産及び商事裁判所の慣習が明文化されている。例えば、

  1. 弁護士強制主義を採用しない事件、若しくは比較的単純な事件を除き、裁判所は(弁護士を通じて)当事者と協議して審理計画を定めなければならない。
  2. 専利訴訟において、争いのある専利請求の範囲の解釈につき、裁判官が当事者の申立て又は職権により、適時に文言上の専利請求の範囲を定義し、且つ適度にその定義に関する見解を開示するほうがよいとしている。

そして、改正前から議論されてきたいくつかの課題に対し原則を立てている。例えば、

  1. 技術審査官が作成した報告書の公表

    もとより、技術審査官が作成した報告書は裁判所の内部書類に過ぎないとされ、それを公表する法的根拠が欠如しているとされてきた。それに対して、今回の改正では、裁判所が必要だと判断した場合、報告書の内容の全部又は一部を公表することができるほか、その内容について当事者に弁論の機会を与えなければならないとしている。

  2. 原告の立証責任の軽減

    専利権、コンピュータープログラムの著作権、営業秘密の侵害事件で、もし原告がその主張に対し一定程度以上の説明をした場合、被告が権利侵害を否認しようとすれば、事実と証拠を提出する上、具体的な答弁をしなければならない。被告が正当な理由なしにただ単に否認した場合、又は具体的な答弁をしていない場合、裁判所はその情状に鑑みる上、原告が釈明した内容が真実であると認定することができる。

    また、今回の改正から紛争の一回的解決に向ける試みも見られる。例えば、独占的利用許諾がなされた知的財産権の場合、その知的財産権に関して許諾者か被許諾者のいずれか一方が第三者と訴訟を行った場合、他方が訴訟に参加する機会を確保するために、他方に通知しなければならないという規定が新設されている。

(四) 侵害訴訟における専利請求の範囲の訂正

侵害訴訟において専利請求の範囲の訂正がなされ、原告が訂正後の専利により専利が有効であり、且つ被告の専利侵害が成立したと主張した場合、裁判所がどのように対応するかが以前から難解な問題になっている。侵害訴訟と無効審判が同時に行われる場合、問題はより複雑になる。下記のポイントのように、今回の改正はこの問題の全面的な解決を図ろうとするものである。

  1. 専利権者が侵害訴訟において相手側による専利の無効化の試みに会い、且つ専利権者が知的財産局に対し専利請求の範囲の訂正を請求した場合、「訂正後の専利請求の範囲により権利を主張する」と裁判所に表明しなければならない。
  2. 専利権者の責めに帰することのできない事由があり、知的財産局に対し訂正を請求することができなくなったものの、訂正を許可しなければ明らかに公平性が損なわれる場合、侵害訴訟において直ちに裁判所に対し訂正の意思を表明することができる。この状況に合致する場合を除いて、専利権者が知的財産局に訂正を請求していない場合、若しくはそれを撤回した場合、訂正後の権利請求の範囲により請求・主張することができない。
  3. 上記を受け、裁判所は、自ら訂正が合法的かどうか判断することができるほか、知的財産局の意見を求めることもできる。後者の場合、知的財産局は書面で、若しくは審査官を裁判所に派遣することで意見を陳述することができる。

(五) 審理への専門家関与の拡大

今回の改正は日本の特許法に倣い、証拠を収集するための中立な専門家を任命するよう裁判所に申し立てるという「査証制度」を導入するとともに、米国の訴訟実務に倣い、「専門家証人」制度を導入する。

(六) 被害者の訴訟関与制度の新設

今回の改正では、知的財産権に係る刑事事件である場合、知的財産及び商事裁判所の管轄となるかどうかを問わず、刑事訴訟法における「被害者の訴訟関与」の規定を準用し、訴訟手続きにおいて、検察官が被害者のために代弁するだけではなく、被害者もみずから意見を陳述し、訴訟ファイルの閲覧を申し立てることができるようになる。

九、 審理の特徴

知的財産及び商事裁判所の特徴は、知的財産案件を専門的に取り扱う裁判所として、知的財産案件を集中審理することにある。知的財産の民事案件の場合、知的財産及び商事裁判所はその第一審、第二審の審理を担当し、知的財産権侵害訴訟又は非侵害確認訴訟において、独自で権利の有効性を判断することができる。例えば、原告が知的財産及び商事裁判所に専利権や商標権の侵害訴訟を提起した後に、被告がその専利権の無効審判や商標権の無効審判を知的財産局に請求した場合は、知的財産及び商事裁判所がその専利権又は商標権の有効性を判断することになり、知的財産局が審決を出すのを待つために訴訟を停止してはならない。一方、当該無効審判の当事者は、知的財産局の審決に対し知的財産及び商事裁判所に起訴することができるので、専利権と商標権の有効性に関する判断の矛盾を避けるため、一般的に知的財産局は知的財産及び商事裁判所の権利侵害訴訟の判決結果が出るまでに審決を控える。知的財産及び商事裁判所の統計によると、このように専利権の有効性も判断される専利権侵害訴訟の第一審は、起訴から終局判決が出るまでに、およそ8ヶ月から12ヶ月がかかるとされている。

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