台湾知的財産及び商事裁判所で審理された111年度(2022年度)民専訴字第26号(以下、『本件』。)は、専利権侵害訴訟事件である。その争点の一つは、同じ無効審判の中で2度の訂正手続きが行われ、2度目の訂正内容が1度目の訂正における限定事項の一部を削除するものであったことから、禁反言の原則違反で認められるべきでないのではないかというものであった。
裁判所は本件で「包袋禁反言」は均等論の適用を制限する事項の一つに過ぎず、専利権者による明細書・特許請求の範囲又は図面の訂正が認められるか否かという法定事由には係わりが無いと明言した。もし、専利権者が無効審判の審理期間内に2度の訂正を請求した場合、2回目の訂正請求が行われた時点で1回目の訂正請求は取り下げられたものと見なされ、比較の対象が無いため、2回目の訂正請求内容が法定事由に合致していれば、認めるべきでないとする事情はないとした。
本件において、原告(専利権者)は台湾第I738463号「クロスボウ装置」の特許出願(以下、『係争専利』。)の無効審判期間に2回の訂正請求を行った。
被告(無効審判請求人)の主張は、以下の通りである。
原告が1度目の訂正請求を行った際に、係争専利の明細書に係合部30と接合部14の両要素がそれぞれフィンとはめ込み溝であるとする技術的特徴を限定した。しかし、2度目の訂正請求時に1度目の訂正で限定したフィンとはめ込み溝の説明を削除し、係合部30と接合部14をフィンとはめ込み溝に限定しないかたちに訂正した。それは禁反言の原則に反しているため、2度目の訂正は無効とすべきである。
これに対し、裁判所は以下のように判じた。
台湾専利法第67条第1項、第2項、第4項の規定により、専利権者が明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求するときは、次の各号の一に該当する場合に限られる。一、請求項の削除。二、特許請求の範囲の減縮。三、誤記又は誤訳の訂正。四、不明瞭な記載の釈明。訂正は誤訳の訂正を除き、出願時の明細書、特許請求の範囲または図面に開示の範囲を超えてはならない。訂正は、公告時の特許請求の範囲を実質的に拡大または変更するものであってはならない。
係争専利は無効審判の審理中に1度目の訂正と2度目の訂正を行った。専利法第77条第3項の規定により、同一の無効審判の審査期間に、二以上の訂正の請求があったときは、先に請求した訂正は取り下げたものとみなされる。よって、係争専利の1度目の訂正は、原告が2度目の訂正を請求した時点で取り下げたものとみなされるため、係争専利は2度目の訂正のみが存在することになる。2度目の訂正内容の技術的特徴は、係争専利の出願時の図面に見られるものであり、新たに加えられた「係合部」と「接合部」は、係争専利の請求項における矢箱と弓体の接続関係ををさらに縮減するものであり、出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面に開示の範囲を超えるものではなく、公告時の特許請求の範囲を実質的に拡大または変更するものでもない。よって、該訂正請求に明らかに認めるべきでないとする事情はない。
また、被告は原告が係争専利に行った2度目の訂正が包袋禁反言の原則に反していると争っているが、いわゆる「包袋禁反言」とは、専利権者が専利の出願過程または維持過程において行った補正、訂正または応答で専利権の範囲を縮減したときに、すでに放棄した専利権を均等論に基づいて改めて主張することができないというものである。よって、「包袋禁反言」は均等論の適用を制限する事項の一つに過ぎず、専利権者が明細書、特許請求の範囲または図面の訂正を請求し、その訂正を認めるか否かという法定事由とは係わりが無く、被告の「包袋禁反言」に対する理解には明らかに誤りが有る。まして、専利法第77条第3項の規定によれば、係争専利の2度目の訂正請求が行われた時点で1度目の訂正請求は取り下げられたものと見なされるため、2度目の訂正は1度目の訂正と比較することができない。被告による「2度目の訂正を1度目の訂正と比較すると2度目の訂正が包袋禁反言の原則に反する」との主張は明らかに根拠がない。
上記の裁判所の判決から、専利権者が請求した訂正が認められるか否かは、やはり専利法第67条第1項、第2項、第4項で規定の事由により判断され、訂正内容が公告時の特許請求の範囲を実質的に拡大または変更してはならないという専利法の規範は、公告書面が比較の対象であり、「包袋禁反言」には係わりが無いことが分かる。