台湾の専利侵害訴訟において、被告が民事訴訟手続きで原告の専利に無効事由があると抗弁することができるほか、裁判所も専利に無効事由があるかについて判断できる。実務上、被告が証拠として先行技術文献を提出することで専利の新規性・進歩性を否定し、或いはサポート要件・実施可能要件を満たしたか追究しようとすることはよく見られる。そして、最近(2023年8月)、知的財産及び商事裁判所の一審は、経済部知的財産局(以下、知的財産局と称する)が訂正を認めた原告の専利(以下、原告専利と称する)につき、その訂正が先般公告された専利請求の範囲を実質的に変更したものとして、原告専利が無効であるとする異例の民事判決(112年度民専訴字第4号。以下、本件民事判決と称する)を下した。
この事件(以下、本件と称する)において、原告専利は電動室内物干しの技術に係るものであり、専利権を取得後、原告が知的財産局に対し、専利請求の範囲の訂正を請求し、且つその請求が知的財産局に認められた。その後、原告は訂正後の専利請求の範囲に基づいて専利権を行使し、被告に対し専利侵害訴訟を提起した。それに対し、被告は、先行技術文献を提出して原告専利が無効であると主張したほか、知的財産局が認めた訂正後の請求項が、先般専利査定を受けて公告された専利請求の範囲を実質的に変更したものであるため認められるべきではなかったと抗弁した。
訂正が認められるべきか否かについて、台湾専利法第67条によると、専利権者が専利権の取得後、訂正を請求することができるが、訂正の内容は、請求項の削除、専利請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、明瞭でない記載の釈明に限られるほか、出願時に添付された明細書、専利請求の範囲又は図面の開示の範囲を超えてはならない(以上の諸要件は、合わせて「訂正が認められるための要件」と称する)。知的財産局が訂正を認めた場合、これを公告し、訂正された内容はその出願日に遡って効力を生じる。一方、知的財産局が訂正を認めない場合、その専利は当初認められた範囲又は内容を維持することとなる。これに対し、専利権者は新たな訂正の内容で請求するか、あるいは訂正を認めない知的財産局の行政処分に対し行政救済手続きを提起することが考えられる。
そして、注意すべきなのは、2011年の改正時から施行されてきた専利法第71条第1項に規定される無効審判の請求事由に、「専利の訂正が専利法第67条に違反すること」が含まれるということである。そこで、何人でも無効審判を通して知的財産局が認めた専利の訂正が専利法第67条に規定される「訂正が認められるための要件」に合致するかどうか追及することができる。もし知的財産局が先般認めた専利の訂正に「訂正が認められるための要件」に合致しない状況(以下、訂正を認めたことに誤りがある状況と称する)があると判断すれば、知的財産局は無効審判請求を認める。しかし、現行専利法第82条第1項によると、訂正に対する無効審判請求が認められた場合の法的効果は、専利権の取消しである。即ち、ただ単に誤って訂正を認めた行政処分を取り消して訂正前の専利の内容に戻るのではなく、無効審判の対象となる「訂正が認められるための要件に合致するかどうか」ということと全く関係のない訂正前の専利も併せて取り消されてしまう。言い換えれば、もし当初知的財産局が訂正を認めなかったとしたら、専利権者は少なくとも本来の専利を維持できるほか、新たに訂正を請求する機会も維持できる。だが、もし知的財産局が最初訂正を認めたものの後ほど訂正を認めた立場を変更したならば、専利権者は、知的財産局の責めに帰すべき誤りによって専利権を喪失する羽目になるおそれがある。一体、誤って訂正を認めた場合のこのような法的効果が立法論として妥当かどうかは、正に検討に値する。これとは対照的に、存続期間の延長出願が認められた専利権に対し、何人でも無効審判を請求し、存続期間の延長出願を認めるべきではないと追及することができるが、専利法第57条第2項により、この無効審判請求が認められた場合、法的効果として、当初認められた延長期間は初めから存在しなかったものとみなし(即ち、本来の専利権存続期間に戻される)、専利権が取り消されることはないため、こちらこそより緻密で且つ妥当な制度設計と言えよう。
実務上の観点から見ると、専利権者が請求した訂正が知的財産局に認められた以上、無効審判の請求人が無効審判手続きにおいて「訂正が認められるための要件」に合致するかどうか追及することで知的財産局に見解を変更させることは困難である。この類の事件では、通常、知的財産局は訂正を認めた処分を維持する場合がほとんどである。たとえ無効審判の請求人がその後行政訴訟を提起して救済を求めたとしても、多くの場合、知的財産及び商事裁判所も訂正を認めた知的財産局の判断を維持している(知的財産及び商事裁判所の106年度行専訴字第12号判決をご参照されたい)。しかし、本件においては、知的財産及び商事裁判所が行政訴訟ならぬ民事訴訟で「訂正が認められるための要件」に合致するかどうかについて知的財産局と異なる判断をし、訂正を認めた知的財産局の立場を否定した。そして、知的財産及び商事裁判所は更に、訂正の内容が公告された専利請求の範囲を実質的に変更したものであり、且つ専利法第67条に違反する訂正が専利を取り消すべき事由に含まれるとして、請求の起訴となる原告専利が無効として原告の請求を棄却した。
上記のとおり、知的財産局が誤って認めた訂正に対する無効審判の請求が認められた場合の法的効果は訂正の取消しではなく、専利権そのものの取消しである。このような規定が合理的であるかはさておき、現行法の下では、もし無効審判の請求人、又は民事訴訟の被告が、無効審判手続き若しくは訴訟において、知的財産局が認めた訂正が認められるべきではないと追究したため訂正の内容が「訂正が認められるための要件」に合致しないリスクがあると思われる場合、知的財産局が誤って訂正を認めたことにより専利を無効ならしめる状況を避けるために、専利権者、その弁護士又は弁理士は、慎重な態度でそのリスクを評価して出来る限りより積極的な態度で対応策をとり、若しくは、知的財産局又は裁判所に適宜に心証を開示するよう請求することが望ましい。
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